第十章:決着!全力バトルの先へ!

10-1


 激闘の翌日。

 オレの部屋に、ギンガ、カンブさん、そしてメブキさんが集まる。特訓をした場所はもうシズクさんにバレているから、集合場所には使えない。

 空気はどんよりと重い。たった一日で、二人やられてしまったからだ。


「すまねぇ……オレ、やっぱり弱いままだった……」


 ばんそうこうと包帯まみれのギンガは、ずっと暗くうつむいたままだ。鍛えてシズクさんにリベンジしたはずなのに、結局負けてしまったから。弱い自分のことが、許せないんだろう。


「気に病むことはないよ。僕だって負けてしまったんだから」


 同じく傷だらけのカンブさんが、フォローを入れてくれる。

 オレのことを守ったせいで、紫色のオーラの人にやられてしまった。頭から血が出ていて心配だったけど、ケガがたいしたことなくて良かった。包帯を巻くだけでで済んだみたいだ。


「でもこれで、戦わない派はあたしとカイタだけになったわ。かなりのピンチじゃないかしら」

「その通りだね……。って、あれ?君はてっきり様子見なだけかと思っていたんだけど」

「あ、あくまでも、『積極的には』って意味よ!別にあなた達の仲間になった気はないんだからねっ!」


 カンブさんのツッコミに、メブキさんは顔を真っ赤にして言い訳をしている。

 あの時――大乱戦になった日の約束で、メブキさんは協力してくれるようになった。だけど、戦いを止められなさそうなら、今度こそ神様になるつもり……とも言っていた。

 今のオレ達で戦えるのは、あと二人だけ。一方でやる気満々なのは三人。こんな状況じゃあ、いつ「あたしが神様になる」って言い出してもおかしくないよね……。


「なぁ、メブキ」


 隅っこにいるギンガが、メブキさんに話しかける。


「何よ、あんたもあたしをいじる気?」

「そうじゃねーよ。頼みがあるんだ」


 おふざけなんて全くない、真面目な瞳をしていた。メブキさんの真っ赤になった顔も、元の色に戻っていく。


「オレのかたきを取ってくれ」

「……なんだ、そんなことなの。拍子抜けだわ」


 メブキさんはくすっ、と笑う。


「お、お前、バカにして――」

「シズクを倒すなんて、当たり前でしょ?」


 言われるまでもない――メブキさんはそう言いたげな表情をしていた。


「ンだよ……分かってたのかよ」

「むしろ他にお願いがあるのかと思って、身構えちゃったじゃない」


 仲が悪くてけんかばかりだけど、どこか通じ合っている気がする。そんな二人だった。


「やっぱり、シズクさんを倒すつもりなんだね……」


 だけど、結局争いになってしまう。


「散々やり合って、思い知ったでしょ?あいつとあたし達は分かり合えない。それにカイタは、大事な友達が傷つけられても、黙っているだけなの?」

「そ、それは……オレだって――」


 オレだって、許せない。そう思っているのは、間違っていない。

 でもやり返してばかりじゃあ、憎しみの連鎖は終わらない。ずっと仕返し合い続けてしまう。


「そうやってバカ正直に生きていると、だまされて酷い目に遭って、あたしみたいにひねくれちゃうよ?」


 メブキさんは「フフッ」と笑った。

 まるで自分のことをバカにするみたいに。


「それって、どういうこと……?」

「カイタみたいな『いい子』ってのは、心優しく相手のことを思いやる……だけど、しなくてもいい時だってあるの」


 『いい子』……以前にもカンブさんから言われたことだ。

 オレの考え方は、大人から教えられた平和優先な甘えたもの。もちろん、平和は大事なことだけど、戦わないといけない時だってある。

 話し合いが出来ない相手だっているんだ。もし平和に解決にしたいなら、それなりに強くならないといけない。

 だからこうして、戦いを止められるよう訓練をして、技を磨いてきた。


「大切なものを傷つけられても、やった相手のことを考えて、平和に終わらせようとする。……それじゃあ、最初に悪いことした者勝ちじゃない?」

「うっ……それは……」


 メブキさんの話は、的を射ていると思う。

 今回の件だって、最初に攻撃してきたのはシズクさんだ。そしてオレをかばって、ギンガはやられてしまった。

 もしシズクさんに罰がないままオレが許したら、傷つけられたギンガの気持ちはどうなる?やられた人だけが損をするのが、本当に正しいの?

 そんな世界だと、弱い人ばっかり酷い目に遭い続けちゃう。

 メブキさんの故郷ふるさとみたいに、悪い人達にいいように使われるだけだ。


 オレはずっと、争い傷つけ合うのが嫌で、戦いを止めようとしてきた。そのためには理解し合い、戦いの連鎖を断ち切らないといけない。

 だけど、メブキさんの言う『最初に悪いことした者勝ち』って問題が残ってしまう。何よりやられたギンガ自身が「かたきを取って」と言っている。

 何が正しいんだろう?

 オレはどうすればいいんだろう?

 頭の中がグチャグチャになっていた……その時。

 ――ビーッ、ビーッ、ビーッ。

 オレが作った『バトル発見ダー』の警報が、けたたましく鳴った。


「これが鳴ったってことは……」

「誰かが戦っているってことだね」


 オレ達以外で残っているのはシズクさん、ミクさん、紫色のオーラの人。小さなモニターに映る光は二つ。つまりこの中の内二人が戦っているってことだ。


「シズクがいる可能性は高いわね」

「で、でも紫色のオーラの人だったら……」

「かなりヤバイわ」


 昨日の一戦から、オレ達は何の対策も出来ていない。もし再戦になったら、今度こそ負けてしまうだろう。

 そして何より、オレ自身の考えがまとまらない。


「どうする?行くの、行かないの?」

「オ、オレは……」


 残りの三人を説得して、戦いを止めたい。だけど仲間を傷つけたシズクさん、そして紫色のオーラの人を許していいのか……。

 答えが出ずに、頭の中でぐるぐると回り続けている。 


「行く……。オレも……行く」


 それなら、とにかく動くのが正解だ。

 ギンガに言われたんだ、「考えるより行動が一番」って。

 考えてばかりで立ち止まっていたら、何も出来ないままで終わっちゃう。後悔しか残らないんだから。


「カイタ君、気を付けて」

「メブキも負けんじゃねーぞ」

「当たり前でしょ」

「行ってきます」


 オレとメブキさんは、家を飛び出す。

 向かう先――バトルフィールドは、オレ達の特訓の場所だった。



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