10-2


 広い空き地の中、戦っているのは二人。

 一人は深海生物を呼び出して操るシズクさん。

 もう一人は体を液化させて自在に動き回るミクさん。


「どうやら、あの強敵はいないみたいね」

「うん。ちょっと安心かも」


 オレをボコボコにして、カンブさんを倒した相手。一番怖い神様候補、紫色のオーラの人はいなかった。

 でも、シズクさんとミクさんだってめちゃくちゃ強い。今のオレ達でどうにか出来るのか、かなり怪しいと思う。


「あら、いつぞやの機械系男子じゃないの」

「植物使いもいる」


 二人がバトルを中断して、こちらを見る。その目は、獲物を見つけたハンターの色になっていた。

 いつも戦いを邪魔するヤツら……そんなオレ達から、先に倒してしまおうと思っているようだ。


「私は男子の方をやっちゃおうかしらっ!」

「それならボクは、植物の方をやる」


 戦いの矛先は、やっぱりオレ達に向いた。

 こっちも対抗するしかない……!


「『ジャンク組成ダー』!」

「『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」


 オレは右手にショベルカーのバケットを装備。土を掘って、それをミクさんに投げつける。


「きゃっ、汚いっ!?」


 液状の体に土がかかると、絡まって動きが遅くなる。おかげでミクさん攻撃を、簡単に避けることが出来た。


「『海・友マリンメイト―デヅルモヅル―』」


 メブキさんのツタ攻撃に、シズクさんはモジャモジャしたヒトデで対抗。くるくる同士がぶつかり合っている。


「『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」

「『海・友マリンメイト―メンダコ―、―ユメナマコ―』」


 シズクさんは足の短いタコと、透明なピンク色の浮いているナマコを呼び出す。

 メブキさんはその中を、枝の剣と木のみきの盾を持って突っ込んでいく。


「はぁっ!」


 突撃してくる深海生物をものともせず、メブキさんは一直線。そのままシズクさんに斬りかかる!


「『海・友マリンメイト―メガマウス―』」


 だけど直前で、巨大な口を持つサメが通せんぼ。シズクさんがよく呼び出す、不気味な巨体が邪魔をする。


「そんなの、関係ない!」


 メブキさんはサメを切り伏せる!

 この一発で、サメはあっさりと消滅した。


「ボクのメガマウスが一撃で……」

「あたしの力、甘く見ないでよ」


 凜々しく枝の剣を構えるメブキさん。

 特訓を積んで強くなったメブキさんは、とてもかっこいい。でもその強さは、シズクさんを倒すためのもの。素直に喜べない。


「よそ見をしている場合かしら!?」

「うわっ!?」


 びゅるるんっ!

 ドロドロの液体パンチが、オレのほほをかすめていく。ちょっとでも遅れたら、危ないところだった。


「さぁ、早く私に神の力を渡しなさい!」


 びゅん、びゅん、びゅんっ!

 ミクさんの連続パンチが炸裂する。右ストレートに左フック、アッパーパンチなどなど、次々に飛んで来た。

 でもオレは、その全てを避けきる!


「なっ、なんで!?どうして私のパンチが当たらないのよ!?」

「特訓のおかげだよ!」


 変幻自在なミクさんの液状攻撃。それを見切るために、オレはカンブさんに特訓相手をしてもらった。

 『レアンコイリア・ミメティクス』という、岩のムチを繰り出す技を相手に、その攻撃を生身で避ける練習を何度もした。おかげでミクさんのパンチなら、かわせるようになったんだ。


「ふん、『原生げんせいのリバイバル』の真の恐ろしさを見せてあげるわ!」


 にゅるるるんっ!

 ミクさんの体が、右と左で二つに分かれる。一度半分の状態になってから、二つとも同じ姿になった。違いがあるとすれば、右のミクさんには黒い玉があって、左のミクさんにはないということくらいだ。

 分身……ううん、分裂したんだ。


「「これで二倍の攻撃が出来るのよ!」」


 二人のミクさんが同時にしゃべる。まるでステレオ音声みたいだ。


「二倍でも三倍でも、オレは負けない……!」

「「それはどうかしらねっ!?」」


 ミクさんの両腕が伸びて、ダブルパンチが飛んでくる。いや、二人同時だから四つの手……クワトロパンチだ!


「『ジャンク組成ダー』!」


 オレはローラースケートを履いて、地面の上を滑る。スタートダッシュで、パンチを当たる寸前で回避。そのままミクさんに向かって一気に迫る!


「更にもう一発、『ジャンク組成ダー』!」


 右手のバケットを分解して、今度は巨大なプラスドライバーを作り出す。そして左手には大量のねじと鉄板。狙う先は右側に立つミクさんだ!


「その核を……封じてやるっ!」


 左側のミクさんにはない、黒い玉がオレの狙いだ。

 黒い玉の正体は、細胞の中にある核と呼ばれる部分だろう。そして、これがあるということは、こちらが本物の可能性が高い。

 厳しい特訓の中では、ミクさん対策のために微生物のことも勉強した。おかげで『原生げんせいのリバイバル』の弱点も分かった。

 細胞の中にある核という部分には、生き物の大事な情報がいっぱい詰まっている。ということは核が能力の源で、そのつながりが断ち切られたら大変なのではないか。

 もしそうだとしたら、ミクさんを戦えなくする方法は……。


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