9-5



「『海・友マリンメイト―クリオネ―』」


 その天使の、ほんのり赤い頭がバカッと割れる。天使なんかじゃない、悪魔みたいに不気味な動きだ。


「危ない、ギンガ!」

「ナッ……!」


 割れた頭は六本の触手になって、ギンガとUFOに食らいつく。不意打ちで、ギンガは抵抗出来ずに飲み込まれてしまう……!


「これがクリオネの捕食方法。六本のバッカルコーンで、エサを捕まえるんだよ」

「グッ…ガッ……」


 バキッ、ゴキッ、ボゴンッ。

 UFOが潰れて、壊れた部品がポロポロ落ちていく。


「うぐぅ……っ」


 触手の中から、やっとのことでギンガが抜け出してきた。でもその姿はグレイ型じゃない。いつもの人間の姿だ。

 ――カラン、カラカラカラ……。

 乾いた音を立てて、金色の王冠がシズクさんの元へ転がっていく。


「これが、あなたのアイテムだね」


 シズクさんが、王冠を拾い上げる。


「ダメだ……返せ……」

「やだよ」


 手を伸ばすギンガを無視して、王冠を投げ飛ばす。その先にいるのはクリオネ。UFOだった物を吐き出して、代わりに王冠に食らいついた。

 ――パキョッ。


「オレの……ちか、ら……が……」


 ギンガは力尽きて、その場に倒れてしまう。

 王冠は一瞬で粉々になり、ギンガの白いオーラは青いオーラに飲み込まれていった。


「残りは、あなただけ」


 勝ち残ったシズクさんが、オレの方をにらみつける。足が震えてよろよろしているのに、まだ戦うつもりなんだ。


「あっちも食べちゃって」


 指示通りに、クリオネがこちらに向かってくる。

 透明な姿の天使みたいに、ふわふわ羽を揺らして浮きながら。

 頭を六つに割ったまま。

 食べられちゃう……!


「『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」


 ズドンッ!

 大きなマツボックリが横切って、クリオネをはね飛ばす。

 クリオネはゴロゴロ転がっていく。体が柔らかいせいでダメージに耐えきれず、そのまま消えていった。


「そこまでよ!」


 マツボックリを放ったのはメブキさん。オレ達を助けに来てくれたんだ。しかもケガをしたカンブさんを担ぎながら……すごい力持ちだ。


「……今日はここまでにしてあげる」


 これ以上戦うのは不利だと思ったらしく、捨てゼリフを残してシズクさんが逃げ出す。


「待ちなさい、『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」

「『海・友マリンメイト』―スケーリーフット―……っ!」


 メブキさんが撃ったドングリのマシンガンに、シズクさんは金属のうろこを持つ貝を呼び出して防御。

 キンッ、カキンッ、ガィンッ!

木の実と金属がぶつかり、いくつもの火花を散らす。だけど貝の防御を突破出来ない。その隙に、シズクさんは遠くへ逃げていってしまった。

 メブキさんはそれ以上追わず、オレの元に駆け寄ってくれる。


「無事かしら?」

「オレはなんとか……でも、ギンガが……」


 シズクさんとの戦闘で、ギンガの体は傷だらけだ。すり傷切り傷、あざもたくさんある。


「大丈夫。傷は浅いわ」


 今度はギンガの元に行き、メブキさんが様子を確かめてくれる。ずっと倒れたままだけど、気絶しているだけのようだ。


「カンブもギンガも脱落……あたし達が残っているだけマシかしら」

「特訓したのに……ちくしょう……」


 でも、状況は最悪中の最悪だ。

 戦いを止めたいのに、その思いのある神様候補は残り二人……オレとメブキさんだけになってしまった。

 たった二人で、強敵の三人――シズクさん、ミクさん、そして紫色のオーラの人を止めないといけないんだ。






☆キャラクター図鑑・9

星宙ほしぞら銀河ギンガ(一番目の神様候補)

 市立箱舟南小学校に通う、十歳の男子。カイタとは幼稚園の頃からの親友。少し強引な性格で、先輩相手でも対等に話すタイプ。宇宙が大好きでよく語るが、自身の成績は良くない。当初は宇宙飛行士という夢を叶えるため、神様になるつもりだったが、カイタの説得で考えを改めた。

 アイテム:ダイヤモンドの王冠

 能力名:『宇宙コスモ』…『流星群シューティングスター』や『無重力ゼロ・グラビティ』など、宇宙に関する事象をミニ再現する。また奥の手に『異星人エイリアン』があるが、再現ではなく空想の実体化である。

 

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