9-4


「心配すんなよ、カイタ」

「……え?」

「まだ奥の手があるんだ……『異星人エイリアン』!」


 イカの足が巻き付く直前で、ギンガの体が消えた。

 本当に一瞬の間に、ぱっと消えてしまった。


「……どこに行った?」


 シズクさんと巨大イカが、キョロキョロと周囲を見回す。でも、どこにもギンガの姿はない。

 オレの周りにもいない。一体どこへ消えたのか。そう思った時、


「上ダヨ」

「……ふざけ過ぎでしょ」


 シズクさんの頭上に、未確認飛行物体――空飛ぶ円盤UFOが降りてきた。そのてっぺんにいるのは……多分、ギンガだと思う。


「フザケテナイサ。コレガ、オレッチノ宇宙人パワーダゼ」


 エコーがかかったような声でしゃべる、ギンガらしき人。その姿は大きな黒目に細長い手足。そして灰色の肌……宇宙人の姿として有名な、グレイそのものだった。


「人間ガ進化シタ先ハ、宇宙人ト同ジナノサ!」

「意味分かんない」


 文明が高度に発展した姿が、グレイ型なのかもって説は聞いたことがある。機械の機能向上で、頭が良くなる。その代わり運動しなくなって、体が弱くなった。だから頭でっかちで手足ヒョロヒョロって話だ。

 もちろん、噂話というか都市伝説というか、半分冗談みたいなものだけど。

 でもギンガは、宇宙に関する全てを能力にしているみたいだ。


「宇宙人とか、あり得ないから」


 巨大イカの足が、ギンガを捕まえようとする。でもUFOが瞬間移動したせいで失敗、足は空を切るだけ。


「コッチダヨ」

「くっ」


 ギンガが現れたのは、巨大イカの真後ろだ。ぐるりと振り返って、攻撃しようとする巨大イカ。でもまた瞬間移動で消えてしまう。


「ちょこまかと……うざいっ!」

「今度ハオレッチノ番ダゼ!」


 空飛ぶUFOから、ジグザクに曲がるビームが発射される。巨大イカは急いで逃げ、水玉の中に入って身を守った。


「宇宙人なんて、この世にいない者なんかに負けない」

「イナイトハ限ラナイゾ。宇宙ハ広インダカラナ!」

「へりくつを……『海・友マリンメイト―メガマウス―、―ダイオウグソクムシ―、―リュウグウノツカイ―』!」


 シズクさんは一気に三匹、巨大な生き物を呼び出す。大きな口を持つサメに、白くて凶悪な顔つきのダンゴムシ。そして銀色の細長い体をした、赤い毛を持つ魚だ。


「そして、『海・友マリンメイト―クダクラゲ―』!」


 最後に呼び出したのはめちゃくちゃ長い透明なひも。長過ぎて水玉が一つじゃ足りなくて、いくつも数珠じゅずつなぎになっている。

 イカ、サメ、ダンゴムシ、魚、ひも……じゃなくてクラゲ。深海の巨大生物が五匹、ずらりと並んだ。


「あの宇宙人もどきを倒しちゃって!」


 巨大生物達が一斉に襲いかかる!


「何ヲ……食ラウモンカ!」


 吸盤まみれの足を避けた先に、大口開けたサメ。UFOは瞬間移動するけど、そこには先回りしたひも型クラゲ。渦を巻いていて、青白い光を放っている。


「コッチハ、ダメカ……ッ!」


 再度瞬間移動をしようとしたら、そこにダンゴムシの体当たり。ジグザグビームで応戦したけど、硬い体には効いていない。


「グァ……ッ!?」


 更に銀色の魚が、細長い体でギンガを締め上げる!


「このまま、やられちゃえ」

「コノ程度デ、ヤラレテタマルカ……!」


 ポチッ。

 ギンガがUFOについたボタンを押す。すると細い光が発射されて、巨大イカとサメの頭に当たる。でも、ダメージはない。


「ココカラ反撃ダッ!」


 ギンガが叫ぶと同時に、巨大イカとサメが突然仲間の巨大生物達に襲いかかる。

 イカの足アタックで、ひも型クラゲは一撃でバラバラ。サメの体当たりで、銀色の魚も吹っ飛ばされた。無事なのは白いダンゴムシだけだ。


「ボクの友達に、何をしたの……!?」

「チョット、チップを埋メタダケサ。コレデ今ハ、オレノ仲間ダゼ!」

「よくも……」


 これはキャトルミューティレーションの一種だ。

 人や動物が誘拐されて、体にチップを埋め込まれた……宇宙人に関する噂でよく聞く話だ。

 なんだか恐ろしい技だけど、これでギンガにも勝機はありそうだ。


「行ッケーッ!」


 巨大イカの足が、ダンゴムシを蹴り飛ばす。そして無防備になったシズクさんへ、巨大ザメの突撃!


「うぁあっ!?」


 ドカッ!

 はね飛ばされるシズクさん。今まで余裕の表情で戦っていたけど、遂に攻撃が通ったんだ。


「うぐ……っ。うぅ……」


 サメの一撃が強烈だったみたいで、シズクさんの体はボロボロだ。立ち上がったけど、足が震えている。


「ドウダ、見タカ。オレッチノ宇宙パワーヲ!」

「……そうね」


 自信満々に勝ち誇るギンガ。一方のシズクさんはうつむいてしまう。強かったはずの自分が負けて、気持ちが折れそうなのか。


「ボクの……勝ちだけどね」


 違う。シズクさんの目は、まだ燃えている。

 戦い続けるつもりだ。

 ――ふわり。

 ギンガの真後ろに、透明な天使が舞い降りた。

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