9-3


 ギンガはオレを置いて、一人戦いに挑んでいく。


「『流星群シューティングスター』!」

「『海・友マリンメイト―オウムガイ―、―ウチワエビ―』」


 白く輝く光の矢が放たれる。けれど貝殻かいがらと平たいエビが、流れ星の邪魔をする。


「まだまだぁ!『彗星コメット』!」


 ギンガが撃ち出したのは、光の尾を引く氷の玉。彗星すいせい……ほうき星だ。美しいカーブを描いて、シズクさんへと突撃する!


「守って」


 シズクさんを守ろうと、また貝殻とエビが盾になる。だけど今度は防ぎきれない。二匹を包む水玉が凍って、動けなくなったからだ。


「きゃあっ!?」


 ぼしゅんっ!

 ほうき星は、シズクさんの足元に着弾。目もくらむ光と一緒に、水蒸気みたいな物が噴き出した。


「けほ、けほっ……」


 苦しそうにむせながら、シズクさんが飛び出してくる。可愛かったボブカットヘアーは、水蒸気のせいでボサボサになっていた。


「最悪。宇宙って大嫌い」

「何で嫌なんだよ。謎がいっぱいで、夢とロマン溢れる場所じゃねーか」


 宇宙好きのギンガが反論する。


「海だって謎がいっぱい。全然解き明かせてない。そこにきっと、進化を導く鍵がある。なのに、先に宇宙の謎を解くとかあり得ない」

「宇宙の方が、資源とか色々役立つからだろ。地球の外から、新しいアイディアを探すのが良くないか?」

「海のことを分かっていないくせに、適当なこと言わないで」

「お前だって、宇宙のこと大して知らないだろ!」


 二人の意見は全くみ合わない。人間がまだ知らない謎を追い求めているってところは同じなのに。


「あなたは絶対、ボクが倒す」

「それはこっちのセリフだ!」


 分かり合えないまま、宇宙と深海がまた激突する。


「『天ノ川ミルキーウェイ』!」

「『海・友マリンメイト―ラブカ―』」


 ギンガが作り出したのは、無数の光の粒による激流だ。一方のシズクさんが呼び出したのは、首にフリルが付いたような細い魚だ。その口には鋭いキバが並んでいる。


「噛みつけ」


 光の激流に逆らって、魚がギンガへ迫る。まるで滝登りだ。


「追加で『流星群シューティングスター』!」


 だけど、そこに光の矢が加わって、激流と一緒に魚を一気に押し流す!

 光の中に飲み込まれた魚は、泡になって消滅していった。


「どうだ!お前の深海生物なんて、オレの敵じゃないぜ!」

「なめないでよ、『海・友マリンメイト―ハオリムシ―、―オオグチボヤ―、―タテゴトカイメン―』」


 シズクさんは、一気に三匹呼び出す。先端が赤いチューブみたいなヤツに、大きな口で透明な体をしたヤツ。そして白くて巨大なハープみたいなヤツ。そのどれもが地面から生えていて、まるで植物みたいだ。

 そいつらはギンガが放つ『天ノ川ミルキーウェイ』の光を、どんどん吸収していってしまう。


「こいつら、食べてやがる!?」

「オオグチボヤとタテゴトカイメンは食べているけど、ハオリムシは違うよ。取り込んだ物は、体内の細菌が栄養分に変えてくれる。だから口がないんだ」

「解説ごくろうさん……どっちにしろ、オレっちにとって変わらないんだよ!」


 これ以上撃ち続けていても、三匹のエサになるだけなので、ギンガは光の放出をやめる。その代わりに、


「そっちが地面にいるなら……『無重力ゼロ・グラビティ』!」


 ギンガとシズクさんの体が、無重力状態で宙に浮き上がる。戦場から離れた場所にいるオレ、そして地面にくっついた三匹はそのままだ。


「またこれ……。『《海・友マリンメイト》―サクラエビ―』、やっちゃって」


 無重力空間に対して、シズクさんは弱点を突いてくる。サクラエビ達による、全方位からの一斉攻撃。「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」作戦だ。


「そいつらが来るって、読んでいたぜ!」


 だけど、ギンガだって想定済みだ。この一週間の間に、対策の技だって用意してある。


「『重力特異点ブラックホール』!」


 ギンガが両手の指で円を作ると、そこに黒い穴が生まれる。光すらも吸い込むと言われる、超有名な天体だ。黒い穴の周りには、歪んだ光が円盤状に輝いている。

 攻撃しようとしていたサクラエビの動きが止まり、

 ――ズゴゴゴゴゴゴ……ッ!

 次の瞬間には黒い穴に引き寄せられていく。その様子は、まるでサクラエビが引き延ばされていくかのように見える。


「ボクの友達が、吸い込まれている……!?」

「正しくはむげんだい級の重力から逃げられなくなっているんだ!」


 宇宙の事象は規模が違い過ぎる。さすがのシズクさんも、なすすべがないようだ。

 そしてサクラエビは、黒い穴の中に消えていった。


「はぁ……はぁ……やっぱ、キツイわコレ……」


 だけど、ギンガはひざをついてしまう。とんでもない大技なので、それだけ体力を使ってしまうのだ。ギンガの体から出る白いオーラも、小さくなっている。


「人間が扱うには、宇宙は大き過ぎるってことだね」

「へっ。それってつまり……宇宙はスゲーって、認めてくれるってことだな?」

「……っ!違うよ、『海・友マリンメイト』―ダイオウイカ―!」


 いつも冷静なシズクさんが、声を荒げた。

 呼び出したのは名前の通り、超巨大なイカだ。大きな目玉がギョロリと、ギンガのことを見つめている。


「これで、おしまいにしてあげる!」


 イカの長い足が、ギンガを捕まえようと伸びてくる。ギンガはまだ立ち上がれない。


「ギンガ!」

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