9-2


「カンブさん、どうして……!?」

「君が遅刻するなんて珍しいからね。みんなで手分けして探していたんだよ……!」


 ベキベキベキベキ…………バカンッ!

 岩のシャッターにひびか入ると、あっという間に砕けてしまった。カンブさんの能力でも、パンチに耐えきれなかったんだ。


「ハッ!」

「『ウィワクシア・ミメティクス』!」


 左ストレートのパンチを繰り出す、紫色のオーラの人。

 それに対してカンブさんは、右半身に岩のうろこを貼り付ける。そしてそこから十本の、ナイフみたいなトゲを生やした。これでカウンターを決める気なんだ。


「ヌゥッ……」


 びたり。

 パンチが、トゲに刺さりそうになる直前で止まった。紫色のオーラの人は、カンブさんの技を読んでいたんだ。だから刺さらないように途中で止めて、


「何っ――ぐぁあっ!?」


 次の攻撃に繋げてくる!

 身をひるがえして、回し蹴りが繰り出される。岩でおおっていない、カンブさんの左脇腹に命中した。

 ガラガラガッシャァァアン!

 カンブさんの体が、ゴミ捨て場の中に蹴り込まれてしまった。


「そんな……こんなの、勝てっこない」


 あのカンブさんですら、手も足も出ない相手。オレ達が挑むには、格が違い過ぎるんだ。


「諦めちゃダメだ、カイタ君……!」


 ゴミ捨て場からヨロヨロと、カンブさんがい出てくる。頭を打ったようで、おでこからは血がしたたっている。とても痛そうだ。


「『オパビニア・ミメティクス』!」


 右半身に、岩で出来た五つ目の生き物を装備する。たくさんの目で、攻撃を見切ろうとしているんだ。


「これで……どうかな……?」


 あの技を使えば、高速で動き回っている相手もよく見える。これなら紫色のオーラの人の動きだって分かるはずだ。でも、


「フンッ」

「そこだ……――ぐわっ!?」


 ガンッ、バガンッ!

 岩の武器は簡単に殴り壊されてしまった。動きを追えたとしても、重過ぎる技を受け止めきれない。オレ達の能力が、全く通用しないんだ。


「『アノマロカリス・ミメティクス』!」


 それでもカンブさんは諦めない。何度も岩の生き物を壊されても、紫色のオーラの人に食らいついてる。オレを守るために、必死に戦っているんだ。


「フッ、ハッ、ハァッ!」


 ドカッ、ガスッ、バキャッ!

 でも、敵わない。カンブさん最強の技も、あっという間に岩のかけらにされてしまう。パンチ数発で、打ち破られてしまったんだ。


「う……あ……」


 どさっ、とカンブさんが倒れた。オレンジ色のオーラは、もう出ていない。立ち上がれない。

 紫色のオーラの人は傷だらけのカンブさんのことは気にせず、アイテム――金色のバッヂをむしり取った。


「……フンッ」


 ペキンッ。

 バッヂが強く握られると、軽い音を立てて、ひしゃげて壊れてしまった。


「カ、カンブさんが……負けた」


 オレンジ色の光が、紫色のオーラに混ざって消えていく。カンブさんの神の力が、なくなっていく。


「に……げる……んだ」


 最後の力を振り絞って、カンブさんが言う。

 オレを逃がそうと、必死に伝えてくる。


「で、でも……」

「いい、から……逃げろ、カイタ君ッ!!」

「は、はいっ!」


 オレは弾かれたように駆け出す。体中が痛みで悲鳴を上げているけど、止まる訳にはいかない。

 あんなに必死なカンブさん、初めて見た。いつも優しいカンブさんが、それだけの思いで叫んだ。

 それは、オレに助かってほしいって思ったからだ。

 だから、悔しいけど逃げるしかないんだ。


「『ジャンク組成ダー』……!」


 オレはローラースケートを履いて、アスファルトの上を駆け抜ける。急いでギンガとメブキちゃんと合流しよう。そして紫色のオーラの人をどうするか、話し合いをしないと……。


「フン……ッ」

「うわぁっ!?」


 後ろから声がして、振り返ると――そこにはフード姿。

 紫色のオーラの人が走って追いかけてきている。もうすぐそこまで迫っているのだ。

 オレのローラースケートダッシュに、追いつきそうなくらいのスピード。あまりにも足が速すぎる……!


「フッ……ハァーッ!」

「うがっ!?」


 そこに後ろから、紫色のオーラの人が跳び蹴りを炸裂させる。

 ――ズガッ!

 蹴り飛ばされたオレは、ゴロゴロと道路の上を転がっていく。まるでボウリング球がレーンを滑るみたいに……。


「げほっ……ごほっ……!」


 体中すり傷だらけになる。けど、止まっていちゃダメだ。すぐに逃げないと、今度こそやられてしまう……!


「『星雲ネビュラ』!」


 ぶわっと、光る煙が辺り一面を包み込む。キラキラ星みたいな、美しく輝くその煙を出せるのは、


「助けに来たぜ!」


 オレの親友――ギンガだ。ボロボロのオレを、肩で支えてくれる。……同じようなこと、つい最近あた気がする。


「今のうちに行くぞ!」

「あ、ありがとう……!」


 特訓の成果で、ギンガの能力は強くなった。この『星雲ネビュラ』も、以前よりたくさん出ている。これなら、紫色のオーラの人から逃げられる。

 オレ達は輝く煙の中をかき分けて、危機から抜け出すことが出来た。





「そうか……カンブさんがやられたのか」

「うん……オレのことを、最後まで守ってくれたんだ」


 戦場を離れて、オレ達は元々の集合場所――特訓用の空き地に辿り着いた。しかしそこには誰もいない。カンブさんはもちろん、メブキさんも――


「あ、いいところに来た」


 ――でも、なぜかシズクさんはいた。

 よりにもよって、こんな時に強敵と出会ってしまうなんて。

 こういうのを「一難去ってまた一難」「泣きっ面にはち」って言うんだろう。最悪の状況だ。


「ど、どうしてここにいるんだよ!?」

「ここ、あなた達の修行場所でしょ?だからだよ」


 どうやら、最初からオレ達を狙って待ち伏せをしていたらしい。

 せっかく、紫色のオーラの人から逃げ切れたと思ったのに……。これ以上戦うなんて限界……むちゃ過ぎる。


「大丈夫だ。カイタは休んでいろ」


 だけどギンガは、オレを空き地のすみっこに降ろす。ギンガ一人で、シズクさんに立ち向かうつもりなんだ。


「だけど……っ!」

「お前はケガしてるじゃねーか。今は休んでいろ。……こいつは、オレっちが倒す!」

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