8-4


 ということで、次の日から早速特訓開始になりました。


「体力がないとすぐに負けちゃうからね。まずは走り込みをしようか」

「ひーっ、マジかよぉ~」

「体育は苦手だよ~」

「ほら、文句言ってないで走りなさい!」


 朝早くからマラソン大会状態だ。オレとギンガは、メブキさんにドつかれながら走らされる。

 町内を何周も走って、足が棒になりそうだ。

 ゴールの場所――広い空き地に到着したら、すぐにへたりこんでしまった。


「はい、次は筋トレだよ。腕立て伏せに腹筋、スクワットなどなど全力で頑張ろうか」


 カンブさんが考えたメニューもハード過ぎる。走った直後で、オレ達へとへとなんですけど……。


「だらしないわね、あなた達」

「な、なんだと!?」

「どうしてメブキさんは平気なんですか……」

「これでもっ、あたしはっ、田舎いなかっ、育ちっ、だからねっ」


 メブキさんは腕立てをしながら、平然と話してくる。さすが、山の中で生活してきただけあるなぁ。


「さ、二人もやろうか?」

「む、無理っす……」

「あと五分だけ休ませて~……」

「ダ・メ♪」


 ぐったりしているオレ達にも、カンブさんは全然容赦ようしゃをしてくれない。いつもの優しい声が逆に怖いんですけど。

 そんなこんなで筋トレをしたら、完全に力を使い切ってしまった。オレは地面に倒れ伏してしまう。

 なんか、魂が抜けていった気がする。


「さて、ここからが本番だよ」

「えぇ……」


 もう動けなさそうなんですってば。勘弁して下さい。


「一番重要なのはバトルの技術だ。自分の能力をどこまでうまく使えるか、それが勝敗を決めるんだ」

「はぁ、そうですか」

「という訳で、『レアンコイリア・ミメティクス』!」

「うぉわっ!?」


 カンブさんの右半身に、岩で出来た虫みたいな物がくっつく。平べったくて、毛がいっぱいのひれみたいな足。そして長いひげが伸びていて、それをムチみたいにして打ち付けてくる。

 ばしんっ!

 オレは飛び起きて、ギリギリで避けきった。少し遅かったら思いっきり当たっていたぞ。


「危ないですよ、カンブさん!?」

「特訓だからね」

「答えになってないですけど!?」


 いくら技の特訓でも、いきなり攻撃してくるとは思わなかった。……でも、カンブさんってこういう人か。前もいきなりバトルになったもんね。


「それならあたしも……『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」


 今度はメブキさんが参戦。木の根っこがヘビみたいに襲いかかってくる。


「そうはさせないぜ、『紅炎プロミネンス』!」


 それに対して、ギンガは巻き上がる炎を発射。植物に火は効果抜群だ。根っこは丸コゲになっていた。


「オレも負けていられないな、『ジャンク組成ダー』!」


 即席の盾とローラースケートの、いつものセットを作り出して装備。これで準備万端だ。


「これはどうかなっ!?」


 ヒュヒュンッ!

 カンブさんが、岩のムチをしならせてくる。オレはすかさず両手の盾でガードした。


「オレの盾だって、強くなっているんだ!」

「じゃあ試してみるよ、『カンブロラスター・ミメティクス』!」


 岩が一度分解されて、再びカンブさんの右半身にくっつく。その姿はゴツゴツしたカブトガニみたいだ。右手には丸みのあるプレートがついている。


「はっ!」


 ガキィンッ!

 カンブさんの右ストレートパンチ。岩のプレートが盾にぶつかり、火花が弾けた。


「くっ、強い……!」


 防ぐことは出来たけど、肝心の盾がへこんでしまった。プレート部分がすごく硬いんだ。


「『ジャンク組成ダー』の弱点は、急いで作るせいでもろいことだね」

「わ、分かってますよ……」

「それなら、弱点を補う方法を考えないとねっ!」


 ガンッ、バガンッ!

 二連続パンチで、左手の盾が破壊された。砕けた鉄板がボロボロ落ちてしまう。


「次はもう一つの方も壊させてもらうよっ!」

「ど、どんとこいっ!」


 ガンッ、ガンッ、ガンッ!

 何度も殴りかかってくるカンブさん。オレは少しずつ後ろに下がって、パンチが直撃しないようにする。

 でも……間に合わない!

 グシャッ!

 右手の盾も壊れてしまい、オレは無防備になってしまう。


「これでゲームセットだよ」

「それは、どうかな?」


 迫りくる岩のプレート。でも、オレの体には届かない。

 ――ガィンッ!

 左手に作った新しい盾で防いだからだ。


「いつの間に……」

「実は、攻撃を受けている時から、少しずつ組み立てていたんだ」


 右手でパンチを防ぎながら、同時進行で盾を作り直していた。ゆっくり作ったので、そこそこ丈夫に出来上がっている。


「なるほどね。戦いながら作業をする……マルチタスクってヤツだね」

「ま、まる……?」

「色んな仕事を同時にこなすことさ。それを応用すれば、きっとカイタ君の力になると思うよ」


 なんか名前がかっこいい。

 難しいことはよく分からないけど、その『マルチタスク』って技を、オレの『ジャンク組成ダー』に取り入れよう。


「さ、特訓の続きをしようか」

「はい!」






☆キャラクター図鑑・8

飴端あめば美来ミク(三番目の神様候補)

 市立箱舟東中学校に通う、十五歳の女子。超が付くほど男子嫌いで、男子と遊ぶ女子すら嫌う過激派。自分は魅力溢れる人物だと思い込んでいて、批判されるとめちゃくちゃ怒る。アメーバこそ完璧な生物と信じていて、人類も同様の生態を取り入れて進化するのが良いと考えている。

 アイテム:パール(真珠しんじゅ)のイヤリング

 能力名:『原生げんせいのリバイバル』…全身をドロドロの液(アメーバ)状に出来る。分裂や再生が可能。弱点は胸の核だが、逆にここしか攻撃が効かない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る