8-3


「それっ!」

「食べちゃって」


 液体パンチ&大きく口を開けた魚が、オレのところに迫ってくる!


「『紅炎プロミネンス』!」


 ギンガの手のひらから、真っ赤な炎が飛び出す。その炎はパンチと魚とぶつかり合って、見事にはじき返した!


「どうだ、これが太陽の力だぜ」

「あなたも邪魔する気なのね!」

「当然だろ」


 にらみつけるミクさんに立ち向かうギンガ。

 一方的にやられそうなオレを助けてくれたんだ。


「ありがとう、ギンガ」

「へへっ。オレっちがいれば百人力だぜ!……なんてな」


 ギンガはやっぱり頼もしい。オレと二人でコンビを組めば、どんな相手でもへっちゃら。理由はないけど、そんな気がした。


「……君、宇宙の力を使うんだ」


 シズクさんは、珍しく不機嫌そうだ。いつもは表情を変えないのに、今はみけんにしわを寄せている。


「もちろんさ。オレっちは宇宙こそ、未来の力になると思っているからな!」

「許さない」


 あー……、これは確実に怒っているね。聞かなくても分かるくらい、シズクさんの顔が歪んでいるんだもの。


「『海・友マリンメイト―テヅルモヅル―、―タカアシガニ―』。やっちゃえ」


 シズクさんは一気に二匹呼び出す。モジャモジャしたヒトデと、足が長いカニだ。出てきてすぐに、オレ達に突撃してくる。


「『無重力ゼロ・グラビティ』!」


 ふわり、とギンガの体が宙に浮く。いや、違う。ギンガだけじゃない、オレ達全員の体がふわふわ浮いていた。


「これが無重力だぜ!動きづらいだろ?」


 ギンガはふわ~っと、自由自在に動き回っている。でもヒトデとカニはジタバタしているばかり。全然攻撃出来ていない。


「……水の中と違い過ぎる」

「そういうこと!お前の生き物達も、宇宙空間じゃあ自由に動けないのさ!」

「オレも困っているんだけど……」

「あ、ごめん」


 この場にいる全員に影響があるせいで、オレも無重力で動きづらい。慣れているギンガ以外には、とても戦い辛いフィールドだ。


「このっ……早く元に戻しなさい!」

「お前達が戦いをやめるなら、戻してやるよっ!」


 ミクさんの液体パンチも、あさっての方向に飛んでいく。狙いをつけても真っ直ぐに打ち込めないようだ。でもそれは、適当な攻撃も下手したら当たるかもしれない――「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」っていうことじゃないか……?


「その必要はない。『海・友マリンメイト―サクラエビ―』」


 シズクさんが薄ピンク色の小エビを大量に呼び出す。どうやらシズクさんも、この無重力空間の欠点に気付いたみたいだ。一斉に攻撃して、力尽くで攻撃を当てるつもりだ。


「みんなやっちゃえ」


 サクラエビ、黒い魚、ヒトデ、カニが同時に襲いかかる。全部ギンガに向かっている……この量は避けられない!


「させないっ!」


 オレはギンガの前に出て、両腕の盾で攻撃を防ごうとする――けど、深海生物は緩やかに避けていってしまう。シズクさんの生き物達も、無重力に慣れ始めてきたんだ!



「ぐぁあっ!?」

「がはっ……!」


 オレとギンガに、深海生物達の攻撃が次々と直撃……!何発も体当たりを受けて、二人そろって倒れてしまった。

 それと同時に『無重力ゼロ・グラビティ』も解除されてしまう。ミクさんとシズクさんは、ゆっくり道路に着陸した。


「宇宙なんて、この程度なんだね」

「男子なんておバカなんだから、私達に勝てると思っちゃったんでしょうね~?」


 勝ち誇ったように、二人が歩み寄ってくる。まずい、このままだと神の力を奪われてしまう。立ち上がらないと……!


「ぐぅっ……」


 でも、体中傷だらけで力が入らない。立ち上がれない。

 やられてしまう……!


「『星雲ネビュラ』……!」


 キラキラキラ……。

 光を放つ煙みたいな物がわき出して、周りが見えなくなる。


「今度は何よ!?」

「全然見えない」


 それは二人も同じらしい。煙の中からミクさんとシズクさんの声が聞こえるけど、どこにいるのかは分からなかった。


「カイタ、逃げるぞ……!」

「うわっ!?」


 オレの体が持ち上がる。どうやらギンガが、肩で担いでくれたみたいだ。


「待ちなさいっ、逃げるなんて卑怯よ!」

「ずるい」


 後ろから悪口が飛んでくる。だけどオレ達は気にせずに、戦闘から抜け出したのだった。





「ごめん、カイタ。……オレっち、ちょっと調子に乗ってた」

「そんなことないって……いてて」


 ひとまず、オレの部屋まで戻ってきた。

 ギンガは格好付けたのに、結局逃げることになったのがショックだったみたいだ。帰ってきてから、ずっと部屋のすみっこで落ち込んでいる。


「しょうがないよ、二人がかりだったし。強くて当然だよ」


 あの二人は年上で能力も強過ぎる。技が全然効かなかったり、仲間をどんどん呼び出したりするんだもの。


「鳴り物入りで出てきたわりには弱いのね、ギンガって」

「う、うるさいな。きっと相性が悪かったんだよ」

「どうなんだか」


 パトロールから戻ってきたメブキさんに、嫌みを言われている。メブキさんだって、前はシズクさんに負けていたくせに。

 

「それなら、僕達で特訓するってのはどうだい?」


 カンブさんが、一つの提案を出してきた。


「特訓、ですか?」

「そう。僕達がまだまだ弱いなら、鍛えて鍛えて鍛えまくって、強くなればいいんじゃないかな?」

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