8-2


「カイタ、元気ないな?」

「え。そ、そうかな……」


 情報をまとめ終わった後、オレ達はパトロールをしに街へ向かっていた。オレとギンガ、カンブさんとメブキさんの組み合わせで二手に分かれて、他の候補者が神の力を悪用していないか見に行くのだ。

 以前のサラちゃんみたいに、神の力で暴れる人がいないよう、気を付けて見回らないと。

 そんな道中、ギンガがオレのことを心配そうにのぞき込んだきた。


「もしかして、オレが仲間になるのが頼りないってか?」

「そそ、そんなことないけど……!」

冗談じょうだんだよ、冗談。どうせまだまだ強敵がいると思って、怖くなったんだろ?」

「う、うん」


 図星だ。ギンガにはお見通しみたい。


「紫色のオーラの人……あの人をどうにか出来るのか、すごく不安なんだ」

「はは、そんなことだろうと思ったよ」


 ギンガはあっけらかんと笑っている。


「会ったことがないから分からないかもしれないけど、あの人ホントに怖いんだよ?」

「でも、怖がっていたって何も始まらないだろ?」

「それは、そうだけど……」


 ギンガの言う通り、怖がっていても仕方ない。いつかは戦わないといけないんだ。怯えてオロオロしている時間がもったいない。そんなこと、頭では分かっているんだ。

 だけど、体が追いつかない。自然と心臓がバクバク鳴って、全身が怖くて震えちゃうんだ。


「オレっちはさ、カイタ以上にバカだけど……これだけは分かるぜ」

「な、何だよ」

「こういう時は、考えるより行動が一番だってな」


 そう言われて、ちょっと心が楽になった気がした。

 オレはずっと、どうやって紫色のオーラの人を止めようか考えていた。足りない頭でどうしようか悩んでいた。それで力の差があり過ぎだと思って、怖くなっていた。

 でもあれこれ考えるのをやめて、ギンガみたいに思うがまま正直に行動した方が、気持ちはきっと楽だ。


「って、全然解決策じゃないじゃんかー」

「まぁな」

「あと、しれっとバカ扱いしたでしょ」

「お前だって、オレっちのことバカって言ったじゃん」


 ギンガなりに、オレのことを励まそうとしてくれたんだろう。ちょっと強引なところがあるけれど、やっぱりいいヤツだ。


「あ~ら、あなた達。また二人でいるのね?」


 曲がり角でばったりと、ミクさんと出会った。

 長い黒髪はぬれていて、プールバッグを持っている。昨日と同じように、プールで遊んできた帰りみたいだ。


「お前、神の力を悪いことに使っていないよな!?」

「何よ、やぶから棒に。私がそんな最低なことをするとでも?」

「しそうだから聞いているんだよ」

「まぁ、失礼しちゃうわ」


 早速、ギンガとミクさんは口げんかを始める。

 人質をとろうとしたことがあったのは本当だ。でも大人相手にトラブルを起こした時は、神の力を使っていなかった。多分、ミクさんに悪用する気はないはず……だと思う。


「あ、もしかして……また二対一で私を襲うつもりなのね!?」

「はぁ!?オレらがそんな卑怯なこと、するはずねーだろ!?」

「どうだか。男なんてけんか大好き&卑怯大好きだからね~。ああ、怖い怖い」


 小学生相手だから、言い負かすのは簡単だ。ミクさんはノリノリでギンガを責め立てている。


「あ、あの!オレ達に戦うつもりはないんです!」


 オレは大声で割って入った。口げんかが終わりそうになかったからだ。


「進化のことは最後の一人が決めるんじゃなくて、みんなで話し合っていきたいんです!」

「はぁ?そんなことしたら、私の理想の世界が作れないじゃない」

「それは、そうですけど……」


 ミクさんが思い描くのは、美人もブサイクもない世界。そして自分が嫌いな、男がいない世界だ。でも、そんな自分勝手な進化をされたら、みんな困ってしまう。だから神様にさせてはいけないんだ。

 だから色んな意見を聞いて、考え方を変えてほしい。そう思っているんだけど、


「私は絶対勝ち残るの。それ以上も以下もないから」


 オレの話を、一切聞く気がないらしい。分かりやすくそっぽを向いている。


「違うよ。勝ち残るのはボク」


 オレ達の後ろから、突然誰かが現れる。ボブカットヘアーで図鑑を持ち歩く姿は、強敵のシズクさんだ。その体からは、青いオーラがたくさん出ている。


「そうはいかないわ、『原生げんせいのリバイバル』!」

「『海・友マリンメイト―フクロウナギ―』」


 ミクさんの胸から黒い玉が出てきて、体がドロドロの液体になる。

 シズクさんは水玉に入った、大きな口の黒い魚を呼び出す。

 二人とも、ここでバトルするつもりなんだ!


「やめるんだ、『ジャンク組成ダー』!」


 オレは両腕につぎはぎの盾を装備して、二人の間に立つ。


「何よ、あなた。私達の邪魔をするつもり?」

「どいて」

「戦いをやめてほしいんだ、お願いだからオレの話を聞いてくれ!」


 戦いたくて仕方ない二人から、鋭い目つきでにらまれる。お姉さん二人相手で怖いけど、自分の気持ちは曲げられない。そう思っていたら、


「ウザいわね。先にこっちの邪魔者から倒さない?」

「そうね」


 二人の矛先が、オレに向いた。

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