6-3


「そんなの付けたって、関係ないもんっ!」


 ガン、ガン、ガン!

 サラちゃんが、オレに向かって連続パンチ!鎧と拳がぶつかって、激しい音が鳴る。でも、オレにダメージはほとんどない。


「う~~っ、このこのこのっ!」

「おぅっ!?」


 ガン、ガン、ガィンッ!

 でも、音と衝撃は結構キツイかも。キーンって耳鳴りがする。


「はぁっ!」

「きゃんっ!」


 ヒュンッ!

 枝の剣が風を切る。

 サラちゃんは当たる直前で後ろに下がり、避けきっていた。


「やっぱり、動きも速くなっているみたいね」

「そうだよ、サラはとっても強くなったんだもん!」


 変身したことで、パワーもスピードも大幅アップ。魔法の力で運動能力も強化されているんだ。

 じゃあ、どうやって動きを止めたらいいのか。メブキさんは力の源を直接狙っているみたいだ。


「あんな小さいまと、攻撃出来るのかよ」

「チャレンジしてみる価値はあるでしょ」


 サラちゃんの右手の中指。そこにはまった指輪だ。金色で赤い宝石、神の力が宿ったアイテム。それを破壊すれば、魔法を使えなくなるはずだ。

 ……それは、サラちゃんが神様候補じゃなくなるということ。進化を巡る争いをすることと同じだ。

 本当は捕まえて戦えなくして、サラちゃんを説得したい。でも今のオレには出来そうにないし、メブキさんは倒す気でいる。


「あ~、サラの指輪を狙っているんでしょ~?」


 本人にはバレバレみたいなんだけど。


「そんなことさせないもんね~っ、えいっ!」

「うわっ!?」


 かかと落としが振り下ろされる。オレはギリギリで避けるが、そのせいでよろけてしまう。やっぱりこの鎧、重たい。


「隙ありだよっ!」


 ガンッ!

 そこを狙われて、サラちゃんの回し蹴りを思いっきり食らってしまった。

 ゴロゴロ……っと、道路の上を転がってしまう。


「いてて……って、あなたは――」

「……面白そうだね」


 そこに一人、本を読んでいるお姉さんがやってくる。青いオーラを体から出しているのは……シズクさんだ。


「『海・友マリンメイト―メガマウス―』」


 シズクさんの横に、巨大なサメが現れる。大きな口とギョロリとした目が不気味だ。

 そんなサメが、オレに向かって突撃!


「へぶっ!」


 体当たりが直撃して、オレははね飛ばされてしまう。金属製の鎧はベッコベコにひしゃげている。もし鎧がなかったら、今頃大ケガだったかもしれない。


「……これはマズイ。かなりマズイヤツだ」


 変身ヒロインになったサラちゃんだけでも大変なんだ。それなのにシズクさんの相手もしないといけない。

 戦力が足りない。このままだとオレ達は負けてしまう。


「そうだ、それなら応援を呼ぼう!」


 人手が足りないなら呼べばいい。幸い、頼もしい先輩がいるんだから。

 オレは急いでスマホを取り出して、カンブさんに電話をかけた。


 ――プルルル……ガチャッ。

『どうしたんだい、カイタ君?』

「あ、もしもしカンブさん!?ちょっと大バトルになっていて、助けて――うわぁああっ!?」


 電話中なのに、またサメが襲ってくる。カンブさんに、ゆっくり状況を説明する暇もない。

 オレは壊れた鎧を脱いで、すぐに逃げる。


「もうめちゃくちゃだっ……『ジャンク組成ダー』!」


 再びローラースケートを作り出して、オレは猛ダッシュでサメから離れる。これ以上体当たりを食らったら、本当に大ケガだ。


「こらーっ、どっか行くなーっ!」

 

今度は空の方、真上からサラちゃんがやってくる。まるで隕石いんせきみたいにパンチしてきた。


「どわっ!?」


 ドカッ!

 避けきれず右足の、ローラースケートのタイヤにパンチが当たってしまう。これじゃあもう走れない……!


「おにーさんは、サラが絶対倒すんだもんっ!」


 オレは敵キャラ扱いみたい。変身ヒロインのやられ役ってことなのかも。まるでごっこ遊び……いや、神の力のせいで全然『ごっこ』じゃないや。


「飲み込んじゃって」


 その時、後ろに巨大な影。ガバッとサメが大きく口を開けて、オレを食べようとしている。真っ黒な穴が迫ってくる!


「うわぁぁあっ!?」

「あたしが相手してあげるわよ!」


 そこに、メブキさんのハイキックが炸裂さくれつ!直撃したサメは、たまらず消滅した。


「そう……『海・友マリンメイト―サクラエビ―』」


 それでもシズクさんは冷静なまま。今度は水玉の中に入った、小さなエビの大群を呼び出した。サクサクなかき揚げで有名なサクラエビ。いつもなら「おいしそう」と思うけど、今回は敵として登場だ。


「それならこっちも、『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」


 対するメブキさんは桜吹雪を起こした。夏真っ盛りだけど、ピンク色の花が舞っている。どうやら桜対決にするようだ。


「よそ見してないでよっ!」

「ぅおっと!?」


 目の前にサラちゃんの拳が迫る。オレはとっさに背中を後ろに曲げて、強烈パンチをかわす。


「それっ!」

「ぐぁっ!?」


 だけど、続けてローキックが飛んできた。ガツン、と弁慶べんけいの泣き所にぶつかる。目玉が飛び出るくらい痛かった。


「どーだっ!そこはとっても痛いとこだよーっ!」

「知ってるよっ……おぉ、いてぇ……っ」


 本気の蹴りじゃなかったおかげで、骨折はしていない。でも絶対青あざになっていると思う。


「ぐぅっ……、今度はこっちの番だぜ、『ジャンク組成ダー』!」

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