6-2


「オレは戦いを止めたいだけなんだ!」

「それが邪魔なんだもんっ!『マジ☆マジ魔ギカ』!」

「どわっ!?」


 呪文と共に、ものすごい勢いで水がぶつかってきた。まるで消防車のポンプみたいだ。おかげでオレは吹っ飛ばされて、電信柱に叩きつけられてしまう。しかも全身ビショビショだ。暑いからちょうどいいけどね。


「サラはね、魔法がいっぱいの、幸せな世界を作るの!」

「だからその戦いを――ぶべらっ!?」


 立ち上がったら、また水流で吹っ飛ばされた。


「パパとママに褒めてもらうために、サラは頑張らなくちゃいけないの!」

「それでも、神の力で暴れていい理由にならないわ」


 メブキさんは、もう枝の剣を手にしている。今すぐにでも斬りかかりそうだ。


「うるさいうるさいうるさいっ!サラのこと、なんにも知らないくせに!」

「知るわけないでしょ、そんなこと――」


 言い返そうとして、メブキさんは言葉につまった。


 ――「人の気も知らないで……分かったようなこと言わないで!」

 ――「結局、誰もあたしの話なんて聞いてくれないじゃないっ!」


 河原の戦いで、メブキさんが言った言葉だ。今のサラちゃんと同じようなことを言っていた。

 自分のことでいっぱいいっぱいになって、人の言うことを聞こうとしない。思い込んだら止まらない、突っ走り続けちゃう。

 サラちゃんの必死な姿が、自分と重なって戸惑っているみたいだ。


「『マジ☆マジ魔ギカ』!」

「危ないっ!『ジャンク組成ダー』!」


 オレはいつもの即席ローラースケートを履き、スライディングでメブキさんを助け出す。そのすぐ後、炎の球がメブキさんがいた場所に直撃して、地面を焼いていた。危ないところだった。


「た、助けてなんて頼んでないんだけどっ!?」

「頼まれていなくても、やっちゃうのがオレなんだよっ」


 メブキさんはそっぽを向いている。嫌っているオレに助けられたのが、恥ずかしかったみたいだ。顔を真っ赤にしていて、普通の女の子みたいだった。


「あたし、あの子みたいになっていたのね」

「まぁね、大体あんなかんじ――いてっ」


 すぱーん。思いっきり頭をはたかれた。


「ストレートに言わないでよ」

「えぇ……」


 照れ隠しだったみたいだけど、それにしては強めに叩いたな。結構痛かったぞ。


「でも、少しはあなたの話を聞いてあげてもいいって思えたわ。ただし、この場をどうにか出来た後だけどね」

「オッケー、約束だからな」


 それでも、メブキさんはオレの話を聞いてくれるそうだ。

 ひとまず、結果オーライってことにしておこう。


「このぉ~、『マジ☆マジ魔ギカ』!」

「『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」


 箒に乗って突撃してくるサラちゃん。それをメブキさんは、植物のつるで出来た網でガード。虫取り網みたいに、飛び回るサラちゃんを捕まえていた。


「ちょっと、何よ~っ。これ全然取れない~っ!」


 つるが足に絡まったみたいで、サラちゃんはジタバタしている。動けば動くほど、余計にこんがらがっている。


「はぁっ!」


 そこへメブキさんが斬りかかる!


「そんなものっ……『マジ☆マジ魔ギカ』!」

「くっ」


 サラちゃんが作り出した魔方陣のバリアが、枝の剣を受け止めた。しかもその衝撃で、絡まったつるも切れていってしまう。


「どーだっ!サラのバリアは無敵だぞ~っ!」

「そんなっ……!」


 攻撃が届かなかったメブキさんが落ちていく。サラちゃんは勝ち誇って、高笑いをしている。


「今度はこっちから行くよ、『マジ☆マジ魔ギカ』!」


 つるを引きちぎり脱出して、サラちゃんはまた飛び立とうとする。でも、


「あれ?……何コレ!?」


 今度は足に鎖が絡まって取れない。そのせいで飛べなかった。


「へへん、それはオレが作ったトラップさ!」


 そう、メブキさんのつるの中に隠しておいた、『ジャンク組成ダー』で作った鎖だ。バリアが解かれた瞬間を狙って、うまく付けることが出来た。


「あなた、いつの間に……」

「オレだって、戦いを止められるように、色々努力しているんだよ」

「あっそう」

「うわぁ、冷たいなぁ」


 メブキさんはまた目線をそらす。なぜかオレの顔を見てくれない。少しは分かってくれたかと思ったけど、物作りのことはまだ嫌いなのかな……。


「何よ、もうっ!ふざけないでよっ!」


 鎖が取れなくて、サラちゃんはイライラしている。ガッチリ鍵がかかっているから、そう簡単には抜け出せないぞ。と思ったら、


「こうなったら『魔ギカル・チェンジ』!」


 鎖が粉々に砕け散った。


「ウソでしょ……」


 サラちゃんのパンチ一発で壊れたんだ。


「どう、これがサラの変身……『魔ギカル・サラ』だよ!」


 真っ赤なロングヘアーに、ひらひらフリルの真っ白ドレス。それにちびっ子とは思えないパワー。日本中の女の子が憧れる、まさに変身ヒロインそのものの姿だ。


「なんか、日曜朝の番組みたいね」

「多分、それで合ってると思う」


 魔法の力と変身ヒロイン。それがサラちゃんの願いが詰まった神の力。キラキラパワーいっぱいな世界を望んでいるんだ。


「それっ!」


 ドガンッ!

 サラちゃんの跳び蹴りがアスファルトを砕いて、地面にめり込んだ。オレ達は直前で避けたからギリギリセーフだ。


「直撃したらヤバイな……」

「それなら、『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」


 メブキさんは自分の体に木の鎧を生やす。つやつやピカピカで、とても硬そうだ。


「それならオレも……『ジャンク組成ダー』!」

「マネしないでよ」


 同じことをされたくないみたいだけど、いいアイディアなので使わせてもらう。

 オレはメブキさんと同じように、鎧を身にまとった。もちろん、材質は金属だ。


「お、重い……」

「でしょうね」


 すごく、動きづらいけど。

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