4-2


 でも、メブキさんが戦いを望んでいるのは、変わらないみたいだ。


「どうして、そんなに神様になりたいんだよ」

「当たり前じゃない。自然を傷つけるばっかりの世界を、自分の力で変えられるのよ?」

「それでも、他の人を蹴落としてまで神様になるなんて、オレはおかしいと思う」

「いいえ、おかしくないわ。勝った方が正義だって、昔から決まっているのよ」


 メブキさんの言うことも分かる。一番になった人の言うことが絶対。そうやって人間は歴史を積み重ねてきた。『勝てば官軍かんぐん、負ければ賊軍ぞくぐん』なんて難しい言葉もある。

 でも、そのせいで大きな間違いをすることだっていっぱいある。一番になった人が、誰の言うことも聞かなかったから。歴史の教科書や偉人の本に、いっぱい書いてあった。

 だからこそ、オレはみんなで協力し合う道を選びたい。


「やっぱり、メブキさんとは分かり合えないのかな……」

「でしょうね。あなたとあたしじゃあ、考え方が根っこから違うもの」


 ピリピリと、緊張が高まっていくのを感じる。セミの声も、段々小さくなっている気がする。

 いつバトルが始まってもおかしくない。その時、


「失礼させてもらうよ」


 オレンジ色のオーラが、目の前に現れた。


「あなたは確か……」

「古石カンブ、君の先輩だよ――メブキさん。覚えておいてほしかったんだけどなぁ」


 カンブさんが、オレ達の間に割って入った。どうやらメブキさんのことは知っているみたい。にらみ合いをしているから、仲は良くないみたいだけど。


「た、助けに来てくれたんですか?」

「いやいや。朝のジョギングの帰りに、偶然通りかかっただけだよ。それで、やけににぎやかだから立ち寄ったまでさ」


 クールに振る舞っているけど、カンブさんはオレと同じ思い。この戦いを止めようとする、熱いハートを持っている。それだけで心強かった。


「もしかして、メブキさんと知り合いですか?」

「一度戦ったことがあるんだ。その時は引き分けたんだけどね」


 ということは、二人は同じくらい強いってことか。ここでぶつかり合ったら、大変なことになりそうだ。


「あなたも……そちら側なのね」


 ギロリと、メブキさんがにらみつけてくる。今にも噛みついてきそうだ。


「まぁね。僕もこの争いは間違っていると思うよ。いくら神様が『やれ』って言ったことでもね」

「絶滅した動物の力を使うくせに、生存競争が間違っているって?」

「争いに負けた者……正しくは環境の変化に耐えられなかった者が、多くの絶滅動物達だね。でも、この戦いは違う」

「何が違うって言うのよ?」

「確かに、進化には限界が来ているのかもしれない。早く新しい道を見つけないといけないかもしれない。でもそれを決めるのは、誰か一人の気持ちだけなんかじゃない。君でも僕でもない……もちろん神様でもない」


 さすが六年生の先輩だ。難しい話で説明していて、メブキさんとの口げんかにも余裕の表情だ。何を言っているのか、オレにはいまいち分からないけど。


「カイタみたいに、みんなで決めましょうって話かしら?」


 一方のメブキさんは、見るからにイライラしている。拳をギリギリと、強く握りしめていた。


「僕達には分かり合うための、『言葉』という手段があるんだから。争うより先に、まずは話し合うことでしょ?」

「それが出来たら、苦労しないのよっ!」


 そして、遂にブチ切れた。

 メブキさんが叫び、カンブさんに向かって枝の剣を振り下ろす!


「『カナディア・ミメティクス』!」


 カンブさんの右半身に、岩で出来た細長い物がくっつく。それはふさふさの毛が生えていて、うねうね動いている。ぱっと見は毛虫だ。


「ひぃっ、毛虫!?」


 びくり、とメブキさんの動きが止まる。不気味な姿が現れたせいで、顔が引きつっていた。

 その一瞬の隙を見逃さないカンブさん。怖がるメブキさんを、岩の毛虫で体を縛り上げる!


「毛虫じゃなくてゴカイの仲間……って、見た目が気持ち悪いのは変わらないか」


 うぞうぞ毛虫を操っている、カンブさん自身は平気そうだ。さすが、昔の生き物大好きなだけある。オレにはムリだ。


「君の言う、自然保護は大事なことだ。でも良い事をしている、と思い過ぎるのもよくない。正義のためなら、どんなに危険なことだって、平気でするようになる」

「う、うるさいわね……」

「自分の意見を通すために、他の人のことなんてお構いなしだ。まさに今の君や、この争いそのもののように」


 カンブさんの言うことはやっぱり難しくて、オレにはちんぷんかんぷんだ。でも、とても大切なことを言っている気がする。


「『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」


 ぶわっ、と花吹雪が舞う。すると、一瞬のうちにメブキさんが、岩の毛虫から抜け出す。花吹雪の風に乗って飛んでいったみたいだ。


「人の気も知らないで……分かったようなこと言わないで!」


 土手の上に降り立つメブキさん。その顔は、今まで見た中で一番怖い。心の底から、とっても怒っているんだ。


「結局、誰もあたしの話なんて聞いてくれないじゃないっ!」


 そう言い残して、メブキさんは走り去っていった。

 メブキさんは、何を言いたかったんだろう。「誰も聞いてくれない」って、どういうことなんだろう。

 それに、とても悲しそうな声だった。


「あの子にも、自然を守りたいっていう、強い気持ちがあるみたいだね」

「なんでそこまで強く思うのか、分からないですけど」


 転校して来た時から、ずっとあの調子だ。クラスの誰とも仲良くならない。物作りを「ゴミを増やすだけ」と嫌い、ポイ捨てする人は誰でも許さずけんか腰。

 メブキさんがこんなに自然のことを思うのは……何かきっと、大きな理由があるんだろう。

 でもオレには、その理由を聞く勇気はなかった。





☆キャラクター図鑑・4

深海ふかみ静雫シズク(四番目の神様候補)

 市立箱舟西中学校に通う、十四歳の女子。いつも冷静で、物静か。読書が大好きで、よく水の生き物の図鑑を持ち歩いている。深海の謎について解明して有効活用することが、人類の進化に必要だと考えている。深海生物は友達。

 アイテム:サファイアのペンダント

 能力名:『海・友マリンメイト』…水玉に入った海洋生物を呼び出す。水玉は保護用で、長時間外に出ていると生物が消えてしまうのが弱点。

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