第四章:困惑?メブキさんが戦う理由って?

4-1



 次の日の朝。

 ビーッ、ビーッ、ビーッ。

 うるさいブザーが、部屋の中で鳴り響いている。


「ん~、何だよぉ……」


 まだ眠いので、目覚まし時計を止めようとする。

 ……けれど、音は鳴りやまない。

 ばしばし叩いているのに、全然止まらない。


「あれぇ……おっかし~な~……」


 どうやら、鳴っているのは目覚まし時計じゃないみたいだ。

 じゃあ何が鳴っているんだろう。

 オレは寝起きでフラフラしながら、うるさい元へ歩く。

 で、すぐに目が覚めた――すごく、びっくりしたから。


「え、もう反応したの!?早速かよ!?」


 それは昨日、夜遅くまで作っていた物。『バトル発見ダー』だった。手のひらサイズの箱型で、ランプとブザーで知らせてくる単純な仕組みだ。位置は小さなモニターで映してくれる。


「朝早くから、まったくもう!誰が戦っているんだ!」


 オレはパジャマを脱いで、急いで外用の服を着た。今すぐ止めに行かないと……そう思っていた時。

 ぐぅ~、とお腹が鳴った。


「うぅ……腹減った……」


 まだ起きたばかりで、朝ご飯を食べていない。

 一日の元気は朝食から。バランス良く、しっかり噛んで食べましょう。

 と言いたいところだけど、そんな余裕はさっぱりない。

 ということで、オレはお腹の音を無視して、すぐに外へ飛び出す。

 戦っている場所は、モニターを見る限り少し遠い。隣の学区あたりみたいだ。


「『ジャンク組成ダー』!」


 即席のローラースケートを両足に履いて、猛ダッシュで向かう。

 こんなに朝早くから戦うなんて。きっと早起きな子同士なんだろう。夏休みなのに健康的でいいと思う。でも、それで争いごとは起こしてほしくない。

 一体、どんな子なのだろう。そう思っていたんだけど、


「えぇ……またなの……」


 現場にいたのは、ポニーテールにジャージ姿のメブキさんだった。現在、河原で絶賛バトル中。緑色のオーラで植物を生やしまくっていた。

 戦っている相手は初めて見る子だ。まだ小さい女の子、低学年くらいだろう。こちらはツインテール頭。色も対照的で、赤いオーラを出している。

 こんな幼い子まで神様を目指して戦っているなんて、思いもしなかった。


「食らいなさい、『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」

「嫌だもん、『マジ☆マジ魔ギカ』!」


 メブキさんが飛ばした種の弾丸を、女の子は魔方陣みたいなバリアで防いでいた。どうやらあの女の子は、いわゆる魔法使いみたいだ。


「へっへ~んだ。そんなへなちょこ効かないも~ん」

「それなら、これでどう!?」


 挑発されて怒ったのか、メブキさんは枝の剣と木のみきの盾を手に突撃。まるで西洋の騎士のようだ。


「『マジ☆マジ魔ギカ』!」


 女の子が呪文を唱えると、ほうきが出てきた。木で出来た、昔ながらの形だ。掃除には使いにくそう。


「お空にゴー!」

「なっ!?」


 箒にまたがると、女の子は空を飛ぶ。そのせいでメブキさんの攻撃は避けられてしまう。

 相手の女の子は小さいけど、戦い慣れているみたい。メブキさんの攻撃が当たらないなんてスゴイ。


「って、感心している場合じゃない!」


 バトルを止めに来たんだから、のんきに観戦していちゃダメだ。


「今日はこれだ……『ジャンク組成ダー』!」


 オレは手錠を作り出して、両手に持った。これで二人を捕まえて、戦えなくする。話はその後ゆっくりすればいい。


「二人とも、バトルはそこまでだ!」


 戦いの場に颯爽さっそうと登場。オレは二人の間に入って、手錠を放つ。


「またあなたね!」

「うわ、変なおにーさん来た!」


 だけど飛ばした手錠は当たらない。メブキさんは盾で防いでいているし、女の子のいる空までは届いていない。計算が甘かったみたいだ。戦いを止める、もっと良い手を考えないといかないな。


「本当にしつこいわね」

「悪かったな。でも、オレは絶対戦いを止めるって決めたから」


 昨日のカンブさんとの一戦で、オレの覚悟は決まっていた。みんなが自分の思いを通すなら、オレも自分が信じるものを貫けるようにする。もっともっと強くなって、戦いを止めてみせるんだ。


「何よ何よ~。サラ相手に二人がかりとか、ひど~いっ」


 女の子は、オレが加勢しに来たと思っているみたい。ほっぺを膨らませて、分かりやすく嫌がっている。あと女の子の名前は、サラという名前らしい。この子、自分のことを名前で呼ぶんだ。


「あーあ、つまんな~い。サラもう帰るっ」

「あ、ちょっと待って――」


 引き留めようとしたら、サラちゃんは行ってしまう。箒に乗って飛んでいってしまったのだ。あの子にも「戦いはやめよう」って話を、聞いてもらおうとしたのに。


「あなた、余計なことしてくれたわね」


 メブキさんの方は、すっごく怒っているみたい。緑のオーラも、さっきの戦いより多く吹き出ている。メラメラ炎みたいだ。


「オレは誰にも争ってほしくない。進化のことは、みんなで話し合いたい。そう思っているから」

「だったら最悪ね」


 ぴしり、と言い返されてしまった。


「それ、どういう意味なんだよ」

「知らないの?あの子は、神の力を人前で使っている……しかも、暴れるために」

「えっ……」


 メブキさんが、サラちゃんについて話す。

 普通の子供に向かって魔法を放ち、傷つけていること。隣の小学校では、それが問題になっていること。


「あたし達はね、神様にこころざしを認められたの。なのにあの子は悪用している……それが許せないから、あたしは戦っていたのよ」

「そうだったんだ……」


 そんなこと、知らなかった。神様候補同士の戦いを止めるのも大事。でも、普通の人達が巻き込まれないようにするのは、もっと大事だ。

 メブキさんがしていたことは、正しかった。

 なのにオレは先走ってしまったんだ。


「ごめん。オレ、てっきりメブキさんが小さい子を襲っているとばかり――」

「まぁ、敵を減らすって意味では間違ってないけどね」

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