3-3


「ぐぅ……っ。そんなこと……」


 そんなことない、って言い切れない。

 実際、オレはこうしてやられたい放題だ。どんなに平和にしたい気持ちがあっても、やり遂げられないと意味がない。


「いくら弱い者が話し合おうなんて言っても、ムダってことさ。それどころか『戦うつもりがない』なんて言うんだから、倒されちゃうだけだよね」


 カンブさんの言うことは間違っていないと思う。

 オレが今まで教えられてきたのは、大人の思う『いい子』の姿。大人にとって都合が良い、ただの理想。だけど自分の思いを押し通したいなら、弱いままじゃいけない。受け身じゃいけない。

 でもそれは争い戦って、相手を蹴落とすってことじゃない!


「それでも……オレは、みんなと平和に過ごしたい!」

「口だけなら、何とでも言えるさ。『アノマロカリス・ミメティクス』!」


 再び岩がツメみたいな形になり、カンブさんの右半身にくっつく。トゲトゲ付きの、オレに食らいつこうとする形だ。


「これで、おしまいにしよう」


 岩のツメを振り上げて迫ってくるカンブさん。獲物を狙うハンターの目で、オレに食らいつこうとしている。


「『ジャンク組成ダー』!」


 オレは左腕に即席の盾を作り出す。つぎはぎまみれの、心許こころもとない盾だ。

 ガキンッ!

 激しくぶつかり合い、鉄で出来た盾がへこんだ。


「結局守ってばかりだね、君は!」


 カンブさんがどんどん力を強めていく。そのせいで盾はひしゃげて壊れる寸前だ。


「それは……どうかな!」


 ベキョッ、と盾が壊れた瞬間、中からくさりが飛び出す!ぐるぐると、一気にアノマロカリスに巻き付いて、動きを完全に封じる!


「ふぅん、そうきたか――」

「まだまだ、『ジャンク組成ダー』!」


 右腕にハンマーを作り出し、岩をぶち砕く!

 更に、ほどけた鎖をカンブさんに巻き付け直して、ぐるぐる縛り上げる!


「これでどうだ!」

「……やられたね」


 みんな戦いたくて仕方ない。だからオレの話を聞いてくれない。それなら聞いてくれるようになるまで、オレが強くなればいい。

 その第一歩が、縛り上げる技だ。相手を傷つけず、戦えなくする。そしてオレの話を聞いてもらうんだ。

 今はまだ、こんな技しか出来ないけど。もっともっと強くなって、絶対に戦いを止めてやるんだ!


「さぁ、カンブさん!もう、こんな戦いはやめるんだ!」

「うん、そうだね」


 その時。

 巻いたはずの鎖が粉々に砕け散った。


「『ハルキゲニア・ミメティクス』……油断大敵だよ」


 カンブさんの右半身が、岩のトゲで覆われている。あのトゲが飛び出したせいで、鎖が壊れたんだ。


「……まだ戦うつもりなんですね!?」

「いいや、これ以上やり合う気はない」


 まだバトルは終わっていない。そう思って身構えていた。

 なのにどうしてなのか、カンブさんは能力を解いた。オレンジ色のオーラも出ていない。


「実はね、僕もこの戦いには反対なんだ」

「は、はい?じゃ、じゃあ、何でこんなこと……?」


 しかも、オレと同じ思いだったことも打ち明けてきた。

 何が何だか分からない。頭の中が『?』マークでいっぱいだ。


「口だけ達者なのかどうか、君を試しただけだよ」

「試したって……」

「意地悪なことして悪かったね」


 本当に意地悪過ぎる。本気で襲ってきたと思ってしまったじゃないか。

 と、文句を言いたい気持ちもちょっぴりある。

 だけどそれより、やっと同じ気持ちの人に会えた喜びの方が大きかった。


「合格だよ。カイタ君は戦いの中で、大事なことに気付けたみたいだからね」


 先輩からのお墨付き。オレは認めてもらえたみたいだ。

 でも、カンブさんが言う大事なことって何だろう。


「それって、みんなを説得するなら強くなれ……ってことですか?」


 自分を守ってばかりな、声だけ大きいヤツのままじゃダメだってことだろうか。オレが思ったまま答えると、


「正解さ。戦いを止めたいなら、それなりの努力をしないとね」


 合っていたみたいだ。


「もちろんですっ!」


 嬉しさ余って、オレは大きな声で返事をした。


 カンブさんは敵じゃなかった。ちょっと荒っぽいやり方だったけど、オレの甘えた考えを叩き直してくれたんだ。

 わざわざ博物館にいたオレに声をかけて、外でバトルして……――あ。


「ギンガのこと忘れてた!」


 そうだった。もうとっくにトイレから戻っている時間だ。


「ああ、友達のことだね」

「ごめんなさいっ。オレ、帰りますっ!」


 カンブさんにペコリと頭を下げる。そしてオレは、猛ダッシュで博物館へ戻るのだった。





 今日も一日大変だった。

 博物館へ遊びに行ったのにまさかのバトル。カンブさんはすごく強かったけど、敵じゃないって分かって良かった。

 でもギンガをほったらかしにしたせいで、博物館で迷子になった。広い館内を行ったり来たり、たくさん歩いたと思う。ギンガもオレを探していたみたいで、入れ違いになっていたらしい。


「はぁ……眠い」


 自分の部屋の、ベッドに寝転がる。するとすぐに眠くなってしまう。体が休みたがっているんだ。このまま一眠りしちゃおうかな……。


「って、ダメだ。アレを作らないと」


 そう、オレにはやることがある。

 バトルを止めるためにも、作っておきたい物があるんだ。


「『ジャンク組成ダー』!」


 便利な能力を使って、あるアイテムを作る。

 その名も『バトル発見ダー』。近くで神様候補の子がバトルを始めたら、音で知らせてくれる優れ物だ。

 いつもの即席じゃなくて、ゆっくり時間をかけて良い物にしよう。


「よーし、いいかんじだ」


 物作りはやっぱり楽しい。それに今は神の力があるから、大人でも作れない物まで制作出来る。ワクワクが止まらない。


「この調子でどんどん組み立てるぞー♪」






☆キャラクター図鑑・3

思念堂しねんどうサイ(六番目の神様候補)

 私立箱舟中央学園に通う、十四歳の女子。お金持ちのお嬢様で、庶民のことを見下している。性格が悪く高慢こうまんだが、学校では目立たないタイプ。人間の脳の、使っていない領域を目覚めさせて、超能力者に進化しようと考えている。

 アイテム:トパーズのアンクレット

 能力名:『PSI』…様々な超能力が使用出来る。ただし使い過ぎると激しい頭痛に襲われる。能力名の読みは、使う超能力によって変わる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る