3-2
「戦いたくて仕方ない人が、君と話し合うと思うかい?」
「それは……」
今まで誰一人、オレの言うことに耳を傾けてくれなかった。みんな自分のことばかりで、襲いかかってくる人ばかりだった。
「言葉で分かり合えるのは、同じ強さを持っている人同士だけさ。どちらかが弱ければ、力で抑え込まれるだけ。この世は弱肉強食なのさ」
「そ……そんなの、動物の世界の話じゃないか!」
「人間も動物のひとつさ。そしてどんなに賢くなっても、その中身は昔の……野山を駆けまわっていた時代から、何も変わっていない」
カンブさんの言うことは、多分正しいと思う。結局、力が強い者にはかなわない。立場が上の人の言うことは絶対だ。オレだって、親や先生に言われた通りにやってきたのだから。
「戦う気がない生き物は、最初から負けを認めている。『自分は何をされてもいいです』って意味なんだよ」
「うっ……」
オレには言い返せなかった。
争いたくない、平和に過ごしたい。それが甘えた考えだったと、思い知らされた。
「ムダ話もこの辺にしておこうか。そろそろ、バトルの時間だよ」
もれ出ているオレンジ色のオーラが、激しさを増していく。まるでカンブさんから、炎が吹き出ているみたいだった。
「『アノマロカリス・ミメティクス』!」
カンブさんの右半身が、ゴツゴツした岩におおわれる。右腕には曲がったツメみたいな物が二本付いていて、内側がトゲトゲしていた。
「おどろいたかい?これが僕の能力『バージェス・ミメティクス』さ。この形は名前の通り、アノマロカリスを元にしていてね、体の特徴をバイオミメティクスしたんだよ」
「バ、バイ……なんです?」
聞き慣れない言葉に、オレは思わず聞き返してしまう。
「バイオミメティクス。生き物の形や生き方を調べて、新しい技術を作ることさ。僕はね、『進化の多様性』で溢れていたカンブリア紀にこそ、人類の進化を導くヒントがあると思うんだよ」
岩で形作っているのは、化石を元にしたからみたいだ。難しい話はよく分からないけど、昔の生き物のマネらしい。
「それじゃあ、こっちからいかせてもらうよ」
岩で出来たツメを振り上げて、カンブさんが迫ってくる。トゲがいっぱいで、刺さったら痛そうだ。
「くっ……『ジャンク組成ダー』!」
オレは右手にハンマーを装備。岩を砕くならこれが一番だ。
ガンッ!
岩とハンマーがぶつかり合う。衝撃で小石が飛んできた。
「どうだっ!これなら岩のツメなんて壊せるぞ!」
「これはツメじゃなくて、
受け止めたと思ったツメが、もぞもぞ動き出す。段々丸まっていき、トゲ付きの内側がハンマーをがっちり掴む。
「う、動かない……!?」
「こうやって獲物を掴んで離さないのさ」
トゲが食い込んでいて、ハンマーはびくともしない。
「くっ。それなら、これでどうだ!」
一旦ハンマーを消して、アノマロカリスから抜け出す。そしてもう一度ハンマーを作り直す。今度は掴まれる前に、そのツメみたいな物を砕く。
「うぉりゃあっ!」
思い切り振り下ろして、アノマロカリスを打ち砕く!
「いいね、その調子だよ……『オレノイデス・ミメティクス』!」
また、カンブさんの右半身が岩で包まれる。今度は岩で出来たシャッターみたいな物が、右腕と顔の右半分に付いていた。
「もう一発!」
「それはどうかな?」
ズガンッ!
ハンマーが右腕のシャッターにぶつかる。だけど岩は壊れない。
「オレノイデスは
甲羅……どうりで割れない訳だ。突破するのには一苦労だろう。
「じゃあ、こっちは……『ジャンク組成ダー』!」
正面突破が難しいなら、スピードでかき回す作戦だ。オレは両足にローラースケート靴を履く。
素早く駆け回って、
「『オパビニア・ミメティクス』!」
カンブさんの顔の右側に、岩の目が五個作られる。右腕にはゾウの鼻みたいな物……でも先端は口みたいになっている。
そんなヘンテコな姿で、オレのスピードに対抗するつもりみたい。
それならこっちも、目にもとまらぬ速さで動くだけだ!
ガシッ。
鼻みたいな物が伸びてきて、オレの右腕を捕らえた。
「はい、捕まえた」
「なっ、ウソでしょ!?」
めちゃくちゃに動き回ったのに捕まった!?
どうして……。オレの行動を読んでいたのか!?
「獲物を見つける目が発達したのもカンブリア紀でね、とっても重要な進化のひとつなんだよ」
やられた。
スピードで上回ろうとしたのに、むしろカンブさんの得意分野だったなんて。
「それっ」
「うぐぁっ!?」
捕まえられたまま、オレは地面に叩きつけられた。その衝撃でハンマーとローラースケートが壊れて、光になって消滅してしまう。
「ね、僕が言った通りさ。力で勝てないなら話し合いにすらならない。これが弱肉強食なんだよ」
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