2-3


 次の瞬間、ピーシィさんから灰色のオーラが吹き出した。


「どうしてオーラが……!?」


 さっきまで出ていなかった。だから普通の人だと思っていたのに。


「知らなかったのかイ?オーラが見えるのは、アクセサリーを身に付けている時だけ……ワタシはこの眼鏡をかけていなかったから、オーラが見えなかったのサ」


 そうだったんだ。じゃあオレは丸見え状態で、他の候補者は隠しているかもしれないってことなのか。ああ、もう。神様に詳しいこと、もっと聞いておけば良かった!


「知らない人にホイホイついていっちゃtisk, tiskダメダメ。それとワタシのダディ、アメリカ人だけどマミィは日本人。だけど箱舟市生まれの箱舟市育ち。ユーと一緒だヨ」


 うぐっ。不用心だったのは正論。でもピーシィさんだって、「アメリカから来た」ってウソついていたってことじゃないか。


「さてユー……いや、機組屋きぐみやカイタクン。ワタシに神の力渡してほしいナ」

「オレの名前まで……どうやって!?」

「名前だけじゃないサ。ユーの能力がmanufacturingものづくりってこと、それに戦いたくないことも知っているヨ。ワタシの力があれば、簡単に調べられるのサ」


 オレが神の力を得てからまだ一日。それなのにピーシィさんに知られてしまっている。もしかして、ずっと見られていたのか!?


Battleバトルしないつもりでも、こっちから仕掛けるだけなんだけどネ」


 ピーシィさんが、ニヤリと笑った。すると顔や腕、体中に光る線がいくつも浮き出てくる。先端が丸いその線は、まるで電子回路みたいな模様だ。


「『Cord:Cybersコード・サイバース』!」


 次の瞬間、ピーシィさんの体がたくさんの『0』と『1』の数字になる。宙に浮いた数字は、吸い込まれるようにショベルカーへ流れていく。


「何をする気なんだ……!?」


 数字が全部ショベルカーの中に入り込むと、灰色のオーラが一気に立ち上った。まさか、ピーシィさんはショベルカーと一体化したのか!?


『*/ これがワタシの能力です/* 』


 ショベルカーから機械音声が聞こえてくる。ピーシィさんが話しかけているんだ。


『ワタシの理想の世界=人間の肉体を情報化+ネットワーク上を生きる;

 情報化=人間-肉体+AIによる思考処理速度補助;』


 なんか難しいことを言っているけど、つまり体を捨てて機械の中で暮らそうって話らしい。そうすればAIの力も加わって、人間はパワーアップ。それがピーシィさんの考える進化の形みたいだ。

 そうか。色んな機械の中に入って、オレのことを見ていたんだ。だから名前も能力もバレていたのか。


「面白そうな世界だけど……人間をやめるなんてオレは嫌だね!」

『=IF(情報化=理解不能・怖い,"ワタシと同じになるだけ","問答無用です")』


 ピーシィさんは、「もし情報化するのが怖くて嫌と言うなら大丈夫、自分と同じ『0』と『1』の体になるだけだよ。でもそうじゃなくて嫌なら、言い訳聞かずに倒します」……と言っているようだ。


「って、どっちにしろオレと戦う気なんでしょ?」

『*/ Exactlyそのとおり/* 』

「じゃあどう答えてもダメじゃん!?」


 オレがツッコんだのと同時に、ショベルカーが動き出す。アームが持ち上がり、見るからに重そうなバケットが振り下ろされる!


「うぉおっ、危なっ!?」


 ドスンッ!バケットが地面に食い込んだ。

 動きがゆっくりだから避けられたけど、一発でも当たったらおしまいだ。ブレスレットが壊れる前に、オレが大ケガしてしまう。さすが重機、パワフル全開だ。


「こうなったらオレも……『ジャンク組成ダー』!」


 重機に対抗して、こっちも重機のアタッチメントを作り出す。破砕機はさいきと呼ばれる巨大なペンチを右腕に装備した。


『工業技術<IT技術;

 機組屋カイタ<電乃裏ピーシィ;

 */In other wordsつまり.../*

 P(機組屋カイタの勝利)=0/n=電乃裏ピーシィの勝率100%』

「物作りがITより下なんて、勝手に決めるな!」


 ピーシィさんの考えでは、電子工学の方が偉いらしい。でもそんなのはおかしい。人が作り出した技術に、上も下もない!


「ぬぉおっ!?」


 またショベルカーのバケットが振り下ろされる。オレは破砕機ではさみ、ギリギリで受け止めた。

 すごく重い。腕がしびれてくる。


「ぐぬぬぬ……っ」


 でも、先に破砕機の方が限界だった。急いで作った物なので、バキバキと悲鳴を上げている。本当は鉄筋コンクリートも切断出来るはずなのに……。


 バキンッ!


 重機の重さに耐えきれず、ペンチの部分が潰れてしまう。鉄くずになってしまった破砕機は、光になって消えていった。


「こんな簡単に壊れるなんて……」


 オレの能力が裏目に出てしまった。即席で作ったせいで、強い力をかけるとすぐ壊れる。もっと時間をかけて丁寧ていねいに作らないと長持ちしないんだ。

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