2-2


「『海・友マリンメイト―オウムガイ―』」


 でも、その目の前で大きな巻き貝が通せんぼ。邪魔されてしまう。


「何この貝殻かいがら!?」

「違う。オウムガイはイカ・タコの仲間」

「どっちでもいいわよ、このっ!」


 ひょろひょろした触手を動かして、オウムガイが迫ってくる。そこにメブキさんは思いっきりハイキック!サッカーボールみたいに泡の中へゴールイン!


「ひどい」

「あなたが呼び出したんでしょ!?」


 メブキさんのツッコミがごもっともですね。っていうか、あの生き物って本物?それとも神の力で作った?

 うん、よく分からない。


「『海・友マリンメイト―センジュナマコ―』」


 今度は白くて丸い体をしていて、背中に変な突起が生えた生き物が出てきた。何でさっきからにょろにょろ系で、絶妙に気持ち悪いのばっかりなんだ?あ、でも丸々太っているみたいで、ちょっと可愛いかも。キモかわいい系?


「って、ぼーっと見ている場合じゃない!」


 目の前でバトルが繰り広げられているんだ。今度こそちゃんと止めないと。戦って傷ついたって、悲しいだけなんだから。


「やっちゃって」

「出来るものならね!」

「やめろ!『ジャンク組成ダー』!」


 三匹の生き物と剣のような枝がぶつかる――その瞬間。オレは割って入って受け止める!


「ぐぎぎ……っ。結構キツイな……」


 もちろん生身じゃない。両手を金属のグローブで包んで、攻撃を受け止めたんだ。


「ちょっと、何のつもり!?」

「君、邪魔」


 そうしたら、二人から怒られちゃった。


「戦っちゃ……ダメだ!自分が神様になるために……人を、蹴落とすなんて……間違ってるよ!」


 でも、オレは自分の思いを曲げない。神様だとか進化だとか、難しい話は苦手だけど。子供同士で争うなんておかしいってことだけは分かる。


「はぁ……。仕方ないわね」

「そうね」


 オレの思いが通じたのか、溜息混じりだけど二人は分かってくれたみたいだ。

 と、思ったけど。


「あんたは引っ込んでなさいっ!」

「同意」

「ぶげふぉっ!?」


 二人同時にグーパンチ。オレに向かってストレートパンチ。

 オレは思いっきり殴り飛ばされて、頭からゴミ用バケツにすっぽりだ。





「ん……あれ?」


 目の前は真っ暗。どうやらバケツにはまったままみたいだ。殴られてから、ずっと気絶していたのか。


「いてて……って、おわっ!?」


 バケツを取ると、目の前にはメブキさん。すり傷だらけだけどきれいな顔。ああ、びっくりしたぁ……。


「何よ、あたしが海の化け物にでも見えた?」

「そ、そそそんなこと全然……!」

「そう。じゃあいいわ」


 あのグロテスクな生き物とは似ても似つかないよ。当たり前じゃないか……――あ、そういえば。


「シズクさんは!?」


 さっきまでバトルの真っ最中だったんだ。どこに行ってしまったんだろう。


「もう帰ったわよ。引き分けたわ」


 どうやら勝負はつかなかったらしい。力は互角だったみたいで、メブキさんはすごく悔しそうだった。


「それじゃ、あたしも帰るから」

「え……ちょっと待って――」


 呼びかけたのに無視して、メブキさんはさっさと行ってしまう。オレが目を覚ますのを待っていただけみたいだ。

 でも、その間にオレを倒そうとはしなかった。やっぱりメブキさんは正々堂々としていて、曲がったことが嫌いなようだ。





「うぅ、まだ痛いな……」


 殴られたほほがまだズキズキする。両方ともやられたから、真っ赤なほっぺになっていそうだ。街中を通って帰っているけど、笑われないかちょっと心配。


「アノ、スミマセーン」

「は、はいっ!?」


 そんな時、タイミング悪く道に迷っている人に会ってしまった。黒い眼鏡めがねをかけた、中学生くらいのお兄さん。金髪で青い瞳……外国の人みたいだ。


「ココ、ドウヤッテイク?オシエテクダサーイ」

「ええと、ここは……ああ、近くですね」


 行きたい場所は近所みたいだ。確か新しい建物の予定地になっているはず……もしかして、この人の引っ越し先なのかな?


「ソコマデ、ツレテッテホシイデース」

「あ、はい。いいですよ」


 どうせそんなに遠くない。歩いてすぐの場所なので、オレはお兄さんを案内してあげた。


「お兄さんは、どこの国の人なんですか?」

「ハーイ。ワタシ、アメリカカラキマシタ!」

「へぇ、そうなんですか。オレなんか、この街から出たことないなぁ」


 などなど、色々話しながら歩いていたらすぐに着いた。

 その場所は広くて、平らな土地にショベルカーやダンプカーなどの重機があった。家にしては広過ぎる……と思ったら『病院建設予定地』って看板が立っていた。


「あれ?じゃあ、お兄さんは何しにここへ……?」


 引っ越しじゃないなら、どうしてこんな何もないところに?


「それはね、ユーに用があるからさ。いや、ユーの持つ、神の力に用があるんダ」

「えっ……」


 お兄さんが、急に日本語ペラペラになる。それにどうして神の力のことを知っているんだ……!?


「ワタシの名前は電乃裏でんのうらピーシィ。神様候補の一人だヨ」


 そう言ってお兄さん――ピーシィさんは眼鏡を外す。そして代わりに、金色の眼鏡をかけた。

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