1-3


 サイさんが、右手をオレの方へと向ける。


「食らいなさい、『PSIサイコキネシス』!」

「ぐふおっ!?」


 突然、オレの体がふわりと浮く。そして次の瞬間、近くの木に叩きつけられた。投げられていないし、突風が吹いた訳でもない。本当に、いきなり吹っ飛ばされた。


「い、今のって……超能力!?」

「うふふ、正解ですわ。『PSIサイコキネシス』!」

「うわぁああっ!?」


 ご褒美ほうびの代わりに、また木にぶつけられた。二度も背中を思いっきり打ったせいで、体がしびれるみたいに痛い。


「超能力……いえ、超力と言った方がよろしいですわね。これこそが人間の新たな進化の形ですわ」

「ど、どういうこと……なんだっ」

「人間の脳にはまだ使っていない領域があるんですの。そこを目覚めさせれば、今の人間の力を越えた、超力者になれるということですわ」


 それがサイさんの思い描く進化なのか……何て強いんだ。確かにみんながこんな力を使えるようになったら、人はもっと先に進めるかもしれない。でも、


「こんなことやめよう!戦って決めるなんてダメだ!」


 子ども同士争って次の神様を決める。そんなの絶対おかしい。オレだって、自分の思いを曲げる気はないぞ。


「あっそう。『PSIパイロキネシス』!」


 でもサイさんは聞く耳持たず、今度は手をかざして炎を放ってきた。


「あっ熱い!?」

「戦わないのでしたら、あなたは丸コゲになるだけですわよ?」


 戦う意志がないのに、サイさんは容赦ようしゃない。炎の勢いもどんどん増している。


「くっ」


 オレは神社の近くにある、大きな池の方へと走る。


「あら、逃がしませんわよ。『PSIレビテーション』!」


 でもサイさんは空を飛び、オレより先に池へ降り立つ。先回りをされてしまった。


「ふふ。今度こそしっかり焼いてさしあげますわ。『PSIパイロキネシス』!」


 右手をかざし、また炎が放たれる。さっきよりも強火で、オレを飲み込もうとしている!


「う……うわあああああああああっ!」

「うふふふっ!これでわたくしの勝ちですわね……――あら?」


 だが、オレはその炎で焼かれることはなかった。


「ど、どうだ!これがオレの進化の力だぜ!」


 右腕には金属を貼り合わせて作った、即席の盾付きガントレット。つぎはぎで不格好だけど、炎を防ぐには十分な強度だった。

 思い描いた道具をその場で作り出す、オレの物作りへの思いが形になった能力。その名も、


「『ジャンク組成そせいダー』だ!」


 これで決まりだ。


「油臭そうな能力ですわね。さすが庶民しょみんといったところかしら?」

「そりゃあ、庶民ですけど」

「でしたらわたくしのような、高貴な者の邪魔じゃまはしないでいただきたいですわ」


 サイさんは、明らかにオレのことを見下していた。オレだけじゃない。自分よりもお金を持っていない、普通の人達もだ。


「庶民に超のう力なんてもったいない!選ばれた者だけが目覚めれば十分ですわ!」


 偉い人と、そうではない人とで分ける。そんな考え、間違っている。

 サイさんが新しい神様になったら、恐ろしい世界になってしまう。オレが止めないと……!


「さぁ、バトルの続きですわ。『PSIテレポーテーション』!」


 サイさんの姿が一瞬で消える。


「遅いですわ」

「えっ……――ぐあっ!?」


 背中を思いっきり蹴られる。サイさんがいつの間にか、オレの真後ろにいたみたい。瞬間移動ってヤツだ。


「くそっ……『ジャンク組成そせいダー』!」


 オレは右腕の盾を解体して、グーパンチの形を作り出す。ピストン運動で強力なパンチを繰り出す、ロボットアニメみたいな武器だ。これまた急いで作ったので、内部の構造が丸見えだけど。


野蛮やばんな形をしてますわね。それでわたくしを殴る気ですの?」 

「ああ!これでサイさんを止め――」


 いや、ダメだ。殴っちゃダメだ。

 そんなことしたら、奪い合いの戦いと変わらないじゃないか。

 オレの大嫌いなけんかと変わらない、ただの争いになってしまう。


「まぁだ、迷っているのですね。ふふ、可愛かわいいですわ」


 サイさんの顔が目の前に現れる。また瞬間移動してきたんだ。


「でも、甘いですわね!」

「うぐっ!?」


 驚いて動けなかったオレのお腹に、サイさんのこぶしがめり込んだ。

 お腹の中がひっくり返ったみたいに気持ち悪い。

 オレは立っていられず、ひざをついてしまう。


「うげぇっ……はぁっ……はぁっ……」


 しかも集中が途切れてしまったせいで、右腕のグーパンチグローブが消えてしまう。武器を失ってしまったのだ。


「今度こそ、わたくしの勝ちですわね!『PSIパイロキネシス』!」


 サイさんの右手から炎が吹き出す。

 もう、ダメだ。そう思った時、


「……あれ?」


 オレの体はたくさんの木の枝に持ち上げられていて、焼かれることなく済んでいた。オレは助けられたみたいだ。


「だ、誰ですの!?」

「あなたみたいな人に、名乗る名前なんてないわ」


 さっそうと現れたのは、一人の女の子。

 鋭い目つきが怖いクラスメイト――メブキさんだった。

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