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 石版は浮いたまま、話を続ける。


『お主は進化という言葉を知っているか?』

「もちろんだよ。サルが人間になったり、人間が頭良くなったりしたことでしょ?」

『うむ。ワシはな、そんな人間の進化を見守ってきた神様なんじゃ』


 神様は今までずっとこの場所で、オレ達人間の進化を見てきたそうだ。恵殿神社が出来るより、ずっと前から。


『だが最近の人間は全然進化しなくてのぅ。このままだと衰退……滅びてしまうかもしれぬ。だからてこ入れしようと思ってな』

「てこ入れ?」

『ちょっと、思いっきり修正しようってことじゃよ』


 ちょっとなのか思いっきりなのか、どっちなんだよ。

 とにかく、神様は新しい進化の方向性を探しているみたい。


『そこで将来有望な子供達に考えをぶつけてもらい、勝ち残った子を次の神様にして、人類の進化を導いてもらうことにしたのじゃ』

「それって、つまり」

『十人のうち、誰かが次の神様になるのじゃよ』


 あまりにも軽いノリで言っているけど、この神様はとんでもないことを話している。

 このオレにも、神様になるチャンスがあるんだ。ってことは、オレが望む物作り大好きな世界が作れるってことだよな……?


『もちろんじゃ。ただし勝ち残ったら、じゃがな』


 そう言って石版は、金色に光るブレスレットを、ぽいっと雑に渡してくる。


『それはワシの力の十一分の一じゃ。他の九人にも神の力を分けてある。お主達はその力を集める。そして最後に全部持っている子が優勝、次の神様になるということじゃな』


 え~っと。ということは全部集めると一、二、三……あれ?なんで十一なんだ?


『最後の一個はワシの分じゃよ』

「ああ、なるほど」

『そのブレスレットを付けていれば、お主の思い描くが能力になる。その能力を使って戦い合い、勝ち残るのじゃ』


 うんうん、分かりやすい。つまり他の神様候補から神の力を奪っていけば、神様になれるってことだな。……って、ちょっと待て。


「オレは誰かと戦うなんて嫌だよ!?」


 他の子を蹴落としてまで、自分が神様になる。そんなの絶対おかしい。それにオレは、誰かと争うなんて嫌だ。もっと平和に生きていたい。


『そんなこと言っても、もうお主に決めてしまったしなぁ』

「じゃあせめて、戦い合わずに決める方法を――」

『そうは言っても、他の子は結構やる気満々じゃぞ?』

「そんな……」


 オレと同じように神の力を手にした子が、戦い奪い合おうとしている。新しい神様になるため、相手を打ち負かして。


「そんなのダメだ!戦いなんてオレが止める!」

『ふ~む、それがお主の願いか。進化とは少々道は違うが、それも面白いのう』


 神様は戦いを止める気がない。それならオレが他の子を止めるしかない。

 今の人間には進化が必要なのかもしれない。でも、それを戦いで決めるなんて間違っている!


『それではお主の健闘、楽しみにしておるぞ。ほっほっほ……』

「うわっ!?」


 まぶしい光が、石版からぱっと出る。すると、辺りは一気に真っ白。思わず目を閉じてしまう。その短い間に、石版はいなくなっていた。


「うぅ……、何だったんだ」


 まるで夢の中のような出来事。でも夢なんかじゃない。

 オレの左腕には金色のブレスレット。その真ん中にはキラキラ輝くクリスタル。神様から渡された、戦うための力の一部だ。体からは虹色のオーラまで出ている。


「これから、戦いが始まるのか……」


 同じような神様候補の子が、お互いの力を巡って戦い合う。楽しい夏休みのはずが、とんでもないことに巻き込まれてしまったみたいだ。

 これからどうしようか……。

 オレが頭を抱えながら石段を降りていくと――下には制服を着たお姉さんが一人。あの服は箱舟中央学園――お金持ちが通うことで有名な学校のものだ。髪型も縦巻きロールで、見るからにお嬢様。でもそれより気になるのは、


「お姉さん、何者……?」


 体から吹き上がっている黄色のオーラだ。湯気みたいにすごい勢いで出ている。


「わたくしは思念堂しねんどうサイ。あなたと同じ、神様候補の一人ですわ」


 そう言ってお姉さん――サイさんは、自分の左足を指さす。そこには金色のアンクレット、オレのブレスレットにそっくりな模様が入っていた。


「どうして、オレが候補だって分かったんだ……!?」

「あら、神様から聞いておりませんの?これを身に付けていれば、神様候補かどうかが分かるって」

「それって……ああ、そういうことか」


 オレがオーラを見ることが出来るように、サイさんにもこの虹色のオーラが見えているんだ。


「でも、あなたにはもう関係ないことですわよね」

「……え?」

「だってここで、あなたは負けるんですもの」

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