1-2
石版は浮いたまま、話を続ける。
『お主は進化という言葉を知っているか?』
「もちろんだよ。サルが人間になったり、人間が頭良くなったりしたことでしょ?」
『うむ。ワシはな、そんな人間の進化を見守ってきた神様なんじゃ』
神様は今までずっとこの場所で、オレ達人間の進化を見てきたそうだ。恵殿神社が出来るより、ずっと前から。
『だが最近の人間は全然進化しなくてのぅ。このままだと衰退……滅びてしまうかもしれぬ。だからてこ入れしようと思ってな』
「てこ入れ?」
『ちょっと、思いっきり修正しようってことじゃよ』
ちょっとなのか思いっきりなのか、どっちなんだよ。
とにかく、神様は新しい進化の方向性を探しているみたい。
『そこで将来有望な子供達に考えをぶつけてもらい、勝ち残った子を次の神様にして、人類の進化を導いてもらうことにしたのじゃ』
「それって、つまり」
『十人のうち、誰かが次の神様になるのじゃよ』
あまりにも軽いノリで言っているけど、この神様はとんでもないことを話している。
このオレにも、神様になるチャンスがあるんだ。ってことは、オレが望む物作り大好きな世界が作れるってことだよな……?
『もちろんじゃ。ただし勝ち残ったら、じゃがな』
そう言って石版は、金色に光るブレスレットを、ぽいっと雑に渡してくる。
『それはワシの力の十一分の一じゃ。他の九人にも神の力を分けてある。お主達はその力を集める。そして最後に全部持っている子が優勝、次の神様になるということじゃな』
え~っと。ということは全部集めると一、二、三……あれ?なんで十一なんだ?
『最後の一個はワシの分じゃよ』
「ああ、なるほど」
『そのブレスレットを付けていれば、お主の思い描く進化の形が能力になる。その能力を使って戦い合い、勝ち残るのじゃ』
うんうん、分かりやすい。つまり他の神様候補から神の力を奪っていけば、神様になれるってことだな。……って、ちょっと待て。
「オレは誰かと戦うなんて嫌だよ!?」
他の子を蹴落としてまで、自分が神様になる。そんなの絶対おかしい。それにオレは、誰かと争うなんて嫌だ。もっと平和に生きていたい。
『そんなこと言っても、もうお主に決めてしまったしなぁ』
「じゃあせめて、戦い合わずに決める方法を――」
『そうは言っても、他の子は結構やる気満々じゃぞ?』
「そんな……」
オレと同じように神の力を手にした子が、戦い奪い合おうとしている。新しい神様になるため、相手を打ち負かして。
「そんなのダメだ!戦いなんてオレが止める!」
『ふ~む、それがお主の願いか。進化とは少々道は違うが、それも面白いのう』
神様は戦いを止める気がない。それならオレが他の子を止めるしかない。
今の人間には進化が必要なのかもしれない。でも、それを戦いで決めるなんて間違っている!
『それではお主の健闘、楽しみにしておるぞ。ほっほっほ……』
「うわっ!?」
「うぅ……、何だったんだ」
まるで夢の中のような出来事。でも夢なんかじゃない。
オレの左腕には金色のブレスレット。その真ん中にはキラキラ輝くクリスタル。神様から渡された、戦うための力の一部だ。体からは虹色のオーラまで出ている。
「これから、戦いが始まるのか……」
同じような神様候補の子が、お互いの力を巡って戦い合う。楽しい夏休みのはずが、とんでもないことに巻き込まれてしまったみたいだ。
これからどうしようか……。
オレが頭を抱えながら石段を降りていくと――下には制服を着たお姉さんが一人。あの服は箱舟中央学園――お金持ちが通うことで有名な学校のものだ。髪型も縦巻きロールで、見るからにお嬢様。でもそれより気になるのは、
「お姉さん、何者……?」
体から吹き上がっている黄色のオーラだ。湯気みたいにすごい勢いで出ている。
「わたくしは
そう言ってお姉さん――サイさんは、自分の左足を指さす。そこには金色のアンクレット、オレのブレスレットにそっくりな模様が入っていた。
「どうして、オレが候補だって分かったんだ……!?」
「あら、神様から聞いておりませんの?これを身に付けていれば、神様候補かどうかが分かるって」
「それって……ああ、そういうことか」
オレがオーラを見ることが出来るように、サイさんにもこの虹色のオーラが見えているんだ。
「でも、あなたにはもう関係ないことですわよね」
「……え?」
「だってここで、あなたは負けるんですもの」
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