第128話 帰宅とお祭り
「ただいまー。」
声を出すとパタパタパタっと足音が聞こえた。
「ライファさん?レイさん?良かった。無事に帰ってきた!おとーさーんっ、タイラーっ、ユウーっ帰ってきたよーっ!」
皆がぞろぞろと玄関に出てきて出迎えてくれる。
「おかえり、寒かっただろう。どうぞ中へ。」
「導きの葉はあった?」
「わるいやつ、やっつけた?」
タイラーとユウが聞いてくる。
「コラ!ユウもタイラーもお話はあと。まず二人に温まってもらわなくちゃ。疲れたでしょう?」
そう言いながらも皆の目が答えを知りたくて疼いていた。
「導きの葉、みつけたよ。」
リビングに座ってお茶をいただきながらことの顛末を話す。勿論、伯爵家で彼女たちがどんな扱いを受けていたかは内緒だ。
「近日中に調査団が屋敷にやってくると思います。辛いでしょうが彼女たちにはそれまで伯爵家に残って貰うことにしました。」
「そうか。早く家に戻れるといいが・・・。」
「きっと早く帰れますよ。心強い味方がいますから。」
レイの言葉にジェシーがふっと緊張を解き、ユウが心強い味方ってだぁれ?と聞いた。
「ほらほら、お話はもうおしまいよ。あんたたちは寝る時間。ライファさんたちはお風呂でもどうぞ。レイさんも、いつまでもお化粧したまんまじゃ、ね?」
「あ、そうだった。」
レイは忘れていたとでもいうように、少し恥ずかしそうな顔をした。
「そういえばジェシーさん、少しですが伯爵の家から持ってきたんです。」
私がジェシーに導きの葉を渡すと、ジェシーは目を細めた。
「あぁ・・・。」
それ以上言葉にならず、導きの葉を大事そうに受け取り私たちに頭を下げた。
翌朝、導きの葉と狩りで獲ってきた肉をご近所さんに配るのだと出かけていったジェシーとメイリンが走って戻ってきた。
「ライファさん!レイさん!騎士団が伯爵家へ入っていきました!!これで、これでみんな帰って来られますよね!!」
メイリンも村人たちも密かに賑わい出したその日の夕方には事情聴取を終えた娘たちが村に帰ってきた。導きの葉についても騎士団が責任をもって村人に返してくれることになり、村はお祝いムード一色だ。
「村の中央でこれから始まる漁の安全を祝うお祭りを行うのですが、お二人も来ませんか?」
「いや、しかし村人ではない私たちが行くのは・・・。」
遠慮しようとする私に、息子の命の恩人ということで村人も歓迎してくれますよ、とジェシーが言う。
「そうよ。一緒に行きましょう。おいしい料理もたくさんあるのよ!」
「美味しい料理・・・。」
「ぷっ、そんな顔しなくても参加させてもらおうよ。」
レイが笑いをかみ殺している。そんなに変な顔をしていたのだろうか。
「ぜひぜひ、さぁ、行きましょ!!」
メイリンに引っ張られるようにしてジェシー家を出た。
私たちが着くと会場はもうすでに大盛り上がりだった。笑い声があちこちから上がり、お酒を飲んで上機嫌の歌声まで聞こえる。会場は平屋の建物で床は無く、木を切った簡単なテーブルや椅子が火を囲むように配置されていた。
こんなに盛り上がっていたら村人ではない私たちがいてもあまり目立たないだろうと思うくらいだ。タイラーやユウは友達を見つけるとあっという間にいなくなり、メイリンも久しぶりに会う友達と楽しそうに話をしている。
「まったく、みんなお客様を放っておいて。」
ジェシーはそう呟いたが、やがてジェシーも村人に呼ばれてしまった。
「私たちは大丈夫ですからジェシーさんも楽しんできてください。」
「えぇ、美味しい食べ物があるだけで十分楽しいのですから。特にライファが、ね。」
「その言い方、私が食いしん坊みたいじゃないか!」
「その通りでしょう?」
「・・・そうだけど。」
そんな私たちのやり取りに笑いながら、ジェシーも村人の方へといなくなった。そしてベルも私の方を振り返ると、キュンキュンとテンションの上がった声を上げて料理の方へ消えていった。
レイと二人になる。といっても、たくさんの人の中に二人ではあるが。
・・・昨日の今日でなんとなく緊張する。
「ライファ、あっちに食べ物があるよ。いただきに行こうか?」
「うん。」
緊張しているのは私ばかりのようで、レイはいつもと変わらない。昨日のことは夢だったのではないかと思う程、レイの態度は自然だ。よく考えてみれば、好きだとお互いの気持ちを確認したところで何になるのだろう。
結婚できる身分ではないから婚約者になるわけでもないし、愛人になってと言われたわけでもない。これで思い切ってデートに誘えるとか、二人で過ごす時間が増えるとか、そんな変化があるわけでもない。
二人で旅をしているのだから、むしろそこらへんの恋人たちよりも一緒に過ごす時間は長いだろう。
そうか、何も変わらないのか。
ならば、緊張する必要もないか。
「レイ、見てこれ。魚をすごく薄く切って盛り付けてある。」
夢で見たフグ刺し。あの薄さにカットしたカラフルな魚の刺身がお花のように盛り付けられている。
「すごくきれい・・・。」
「これはドーヤ名物、花魚盛りと言います。」
突然話しかけられて顔を上げると、昨日見た顔が華やかに笑っていた。
「シャンティ。」
「ライファ様っ!!」
キャァッと声をあげてシャンティが抱き付いてきた。その体をしっかりと受け止める。
「良かった、無事に戻って来られて。」
「ユーナ、こちらが私たちを助けて下さったライファ様とレイ様よ。」
シャンティが私から離れながら、隣にいた女性に私たちを紹介した。
「私たちを助けてくれてありがとうございます。・・・本当に男性だったのですね。」
ユーナはレイを見上げてしみじみと声にした。
「大きいとは思っていましたが本当に男性だったとは。仕草も表情も素敵だったからつい。」
「女性の姿のレイ様も素敵でしたけど、やっぱり男性の姿の方が素敵ですね。」
「シャンティ、うっとりしたって駄目よ。レイ様にはライファ様がいるのだから。でなければあんなに濃厚な・・・。」
ユーナはそう言うと顔を真っ赤にした。
「ユーナ!シャンティ!」
二人を呼ぶ声が聞こえて、もう一度お礼をいうと二人は去って行った。
「ライファ、どうして顔が赤いの?」
「え?」
「そ、そう?」
「昨日のこと、思い出した?」
「いや、そういうわけじゃ・・・。」
レイはくすっと笑うと私の耳に唇を近づけた。
「思い出したのはライファが私に迫ったところ?それとも噴水の地下室でのこと?」
思い出したのは地下室で見たレイの欲情を帯びた目のことで、耳に感じる近すぎるレイの気配にビクッと体を震わせた。
「あぁいうのが好きなら、何度でも再現してあげるよ。」
あぁ、もう、ほんとうに。
「・・・そういうことを言うのはやめて欲しい。」
顔を半分隠しながらレイを見上げると、レイがハッとした顔をした。そして私の顔を隠すようにして立つ。
「ほら、花魚盛り、食べないとなくなっちゃうよ。」
レイはそう言って私に魚を渡しながら、今度からは人前では言わない様にするね、と納得がいかない返事をした。
「レイさん、ライファさん、楽しんでいるかい?」
村人たちとの話を終えたジェシーが戻ってきた。
「えぇ、本当に美味しい料理ばかりで嬉しくなります。」
「そうか、それはよかった。ところで、先ほど漁に出た村人に聞いたのだが、森の奥を移動しているエンヤ族を見たそうだ。明日にはこの村の近くにあるエンヤ族の土地に戻ってくるだろう。明日の午後がいいかな。案内するよ。」
「「よろしくお願いします!」」
エンヤ族か・・・。どういう人たちだろう。
私は甘い余韻を追い払うかのように姿勢を正した。
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