第123話 理由
ジェシーが困ったように頭に手を置いた。
「旅人さんに聞かせるような話ではないのだが・・・。ドーヤは見てのとおりの港町で、漁で生活する村人がほとんどでね。こんな氷の海に漁に出ることが出来るのは導きの葉と呼ばれる葉のお蔭なのだ。その葉から抽出した液を船の外側に塗ると、氷が避けてくれる村にとっては宝物のような葉だ。導きの葉はドーヤの森にだけ生息している大切な植物あのだが、ある日突然森から消えてしまい、今では伯爵家の敷地に生えているものだけになった。伯爵家に生えているといっても確証はないのだが・・・」
メイリンがお茶のおかわりを持ってきた。
「あんた達は他の部屋で遊んでなさいな。」
「うんっ、ほら、お兄ちゃんはやくっ。」
「いや、俺はここにっ。」
ここにいたいと言いつつもユウに引っ張られて部屋を出る。子供たちが部屋を出てい行ったことで、ベルが安心したように私の膝に座った。
「きっと伯爵家にあるわよ。だって、私が伯爵家に行けば漁に出られるようになるってアイツそう言ったんだから。それってお屋敷に導きの葉があるよってことでしょう?」
メイリンの言葉にジェシーが無言で答える。
「つまり、メイリンを差し出さなければ導きの葉はやらんという脅しですか?なぜメイリンを?」
「私じゃなくてもいいの。女なら誰でもいいのよ。自分の周りに女をはべらせて好きにしたいだけなんだから。」
「・・・村の者の中には泣く泣く娘を差し出した者もいる。彼らは漁にでることができるようになったがみんな辛そうだ。」
「その方たちにガルシアの王都へ訴えてもらってはどうですか?そうすれば取り締まるなり指導するなりしてくれるのでは?」
レイの言葉にジェシーは首を振った。
「訴えたところで王都が動いてくれるとは限らないし、何より彼らは訴えることは出来ない。娘たちは人質に取られているも同然なのだからな。」
「いつからこの状態なのですか?」
「二年前からだ。娘を差し出さなかった者たちは漁を諦め森へ狩りに行って生活している。だが、この辺の森は狂暴な魔獣も多く、魔力の低い我々では太刀打ちできない。畑を始めようにもこの雪の大地ではそれも難しくてね。情けないことに室内で僅かな野菜を育ててなんとか生活している有様だ。」
ジェシーはそう言って野菜を育てている部屋を指さした。丁度向かい側の部屋に、青々と茂っている野菜が見える。
「なんだか湿っぽい話になってしまったな。でも、まぁ、気にしないでくれ。私はこの子たちに勝る宝などないのだから。」
「狩りか・・・。私が何か狩ってこよう。」
「ええっ!?」
メイリンが驚きの声を上げた。
「こんな時間では危険が増すばかりだぞ。」
ジェシーも声を上げる。
「夜の森には慣れていますし、危ない時はちゃんと逃げますから。お世話になるのだからこれくらいは。」
「しかし・・・。」
ジェシーが心配げな声で反対するも背後から期待に満ちた目が現れた。
「お兄さん、狩りに行くの?今日のご飯はお肉なの?」
「マジかっ!?久しぶりの肉か!?」
キャッキャする弟たちにメイリンが頭を抱えた。その様子に思わず笑う。
「俺も狩りに行きたい!」
「僕もっ!」
「君たち二人はお留守番ね。夜の森には慣れていても、君たち二人を守る自信はないから。」
「「えぇ~」」
レイに断られて二人は口を尖らせたが、お肉が食べられなくなるわよ!のメイリンの一言にピタッと静かになった。
「私は行くぞ。」
「うん、そうだろうと思った。」
焚火で温められたコートを羽織り、夜の森へと急ぐ。
「レイがうちの森で過ごしていた日々が役に立つな。」
「だね。でも、慣れているとはいってもあの森だけだ。ここの森のことはよく知らないからライファは私から離れちゃだめだよ。」
「わかった。」
夜の森は静けさの音が響く。夜に目覚めた鳥の鳴き声、木から木へ飛び移る動物によって起きる葉の音。
レイが目を閉じて外に集中しているのが分かった。魔力を感知して魔獣を探しているのだろう。
カッ。レイが目を見開き、一目散に駆けてゆく。
離れない様にとは言われているけれど、足に魔力を宿したレイについていけるわけなどないじゃないか。
「あーぁ。」
呟きながらも巾着からシューピンを取り出し、飛び乗った。前傾姿勢にするとシューピンが滑らかに走りだしスピードを上げる。
すごい。今までよりもずっと滑らかで安定感のある走りだ。つくづくグラントの腕の良さを感じた。
レイの背中が見えた。レイは腰から剣を抜くと易々と魔獣を一突きした。
さすがだな。
レイの見事な一突きに、ひゅぅっと息を吐いた時、右側の木がガサッと動いた。巾着から小弓を取り出し、反射的にウニョウ玉を発射する。
バサッ
小弓から飛び出したウニョウ玉は音を立てて木の枝に飛んでいき、うにょうにょと巻き付いた。
ガザガザと音が激しくなりグアっグアっと鳴き声がする。
「何か捕まえたの?」
レイが魔獣を引きずって戻ってきた。
「たぶん・・・。音がしたからウニョウ玉を投げてみたんだけど。レイは?」
「捕まえた。なんの魔獣かは分からないけど、食べられるんじゃないかな。」
レイに言われてスキルで効力を見ると、【防寒効果2】の文字。
「へぇ、この魔獣の皮は防寒効果があるみたいだ。なるべく綺麗に運んで行こう。何かの役に立つかも。」
「じゃぁ、結界でくるむか。ライファが捕まえたやつは?」
「これから見に行ってくる。」
私はシューピンを浮上させ葉をめくった。
「ライファ、下がって!」
身をかがめてシューピンを下げると同時に葉の向うから魔力玉が飛んできて背後の葉っぱがバチッと燃えた。幸い葉が湿っていたようで燃え広がることは無い。レイは木の幹を蹴ってウニョウの高さまで駆け上がると葉を左手で避けながら剣を振った。魔獣はウニョウごと雪の上に落ち、赤い染みを作った。
「お、アカントじゃん!疲労回復効果もあるし、美味しいし、干せば日持ちもする。最高の獲物だな。」
レイは雪の上に綺麗に着地すると私の頬を両手でむぎゅっと挟んだ。
「ライファ、ああいう時には慎重にいかないと。攻撃された時のことを考えて防御の姿勢を取っておくんだ。わかった?」
「ふぁい。わかりまひた。」
「ぷっ、変な顔。」
レイが笑いながら両手を離す。
「むぅ、自分でやっておきながらひどいっ!」
「嘘。ライファは可愛いよ。」
「なっ、何を・・・。」
顔が赤くなっていくのを止められず、そっぽを向いた。可愛いなんて初めて言われた・・・。嬉しいと恥ずかしいが混ざって動揺する胸の内を悟られないように魔獣をつかんで歩き出す。
「早く帰ろう。きっとみんな待ってるよ。」
「待って、私が持つよ。」
そうして私たちは家路を急いだ。
「やばっ!父さん早く来て!!本当にお肉持ってきてくれた!!」
家の前まで行くと私たちの帰りを待ちわびていたタイラーが顔を出し、背後にある荷物を見て喜びの声をあげた。
「まさか・・・これはジャマンジェじゃないか。村人が数人がかりでやっと倒すことが出来る魔獣だぞ。こっちのアカントもそうだ。あの魔力玉でどれだけの者が傷を負うか・・・。それをたった二人で捕まえるなんて一体どれだけの魔力が・・・。はっ、まさか貴族か?」
「それは内緒にしておいてください。これでも平民として旅をしているので、態度も今までのようにしていただけると助かります。」
「しかし・・・。」
「いいんです。レイは隠しているのがいつもバレて落ち込んでいるくらいなので、今まで通りに接してあげてください。あ、私は本当に平民なのでお気遣いは無用です。さぁ、早くこの魔獣たちを捌いてご飯にしましょう。」
「そう言って貰えると助かる。おーい、メイリン、手伝ってくれ。」
こうしてその日はジェシーとメイリンが腕を振るったガルシアのお肉料理を堪能した。
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