第114話 傷とチョッキ―の実
レイが防御魔法を使ったおかげでコチョウの攻撃はかわしたもののコチョウは旋回し私たちをまた狙ってくる。
「なんでこんなに執拗に狙うんだろう。」
「わからない。でも完全に敵だと思われていることは確かだな。」
レイの言葉に頷く。コチョウがギャアアと一声高く鳴き、レイに爪を立てようとした瞬間レイが結界を網のように広げた。バサッと音を立ててコチョウが結界に入り、それを確認したレイがコチョウが動けないようにとゆっくり網を締めあげていく。
「レイ、コチョウに刺さっている棒を抜いてすぐ止血を。私はヒーリング薬を調合する!」
私は沸かしてあった湯を少しだけすくい手のひらサイズの容器に移すと、そこに薬湯で採ってきた枝を入れ、その枝を石で潰し始めた。ヒーリング効果2の枝が湯に溶けて効果が下がっているのは単純にお湯で薄まり過ぎたせいだと考えた。その為、お湯を少しにして木の濃度をなるべく下げないようにする。その後で布でこし、木の繊維を取り除いた。スキルで見れば効果は2のままである。
思った通りだ。
「レイ、手をどかしてこの布を。」
レイが手をどかすとコチョウは激しく鳴き始めた。コーッッと声を出しているのは威嚇しているのだろう。その傷口にヒーリング薬に浸した布を当てる。
「少しはマシになるから大人しくしていて。」
私が言葉をかけてもコチョウは鳴き続けたが、暫くするとヒーリング効果が効いてきたのか静かになった。布をもう一枚ヒーリング薬に浸して、そっと目にも当てる。その際もコチョウは大人しくしたままレイに身を預けていた。
「レイ、結界を解いてくれ。もう暴れる気はなさそうだ。」
「あぁ、そうだな。」
レイが結界を解くと、つきものが落ちたかのように大人しくなり、その場に座った。
「さっきまでとは大違いですね。」
「そうだな。」
リタの言葉に答えながらコチョウに当てていた布を交換した。傷口は痛々しいままだが出血は止まっていた。
「私たちがここにいる間は誰にも襲わせないから、ゆっくり休むといい。」
私の言葉が聞こえたかのようにコチョウが頭を地面につけ目を閉じた。
「さて、お昼ご飯の用意だ!」
「その前にやることがあるでしょ。」
気合を入れて立ち上がった私の行く先を塞ぐようにレイが立つ。
「また傷つくって。」
「いっ。」
レイが私の頬に触れる。
「いだだだだだだだあ。」
レイが私の傷を少し乱暴に押した。まるでわざと痛みを教えるかのような行動だ。
「痛いって分かったらもっと用心するでしょ。」
その様子を見ていたリタが近寄ってくる。
「ごめんなさい、私のせいで。」
「いや、私が勝手に動いただけだから気にしないで。」
「そうだよ。何も考えずに飛び出したライファが悪いんだからリタさんは気にしないで。」
レイの言い方になんだかトゲがある。
「・・・レイ、怒ってる?」
レイは何も答えずに今度は私の頬に優しく触れると、頬に温かな温もりを感じ痛みが消えていく。
「すごい。レイ様はヒーリングを行うことも出来るのですね。あれ?それなら、コチョウもレイ様のヒーリングで直した方が早いのではないですか?」
レイはリタの方を向くと、ニコッと優しく微笑む。
「人間同士ならいいが、人間が動物にヒーリングをすると拒絶反応が起こる場合があるんだよ。魔力の種類の違いみたいなものかな。だからヒーリング専門士みたいにちゃんと学んだ人以外は、動物にヒーリングはしない方がいいんだ。」
リタには優しいいつものレイだ。納得がいかず、むぅっとしているとレイが私の頬を撫で始めた。
「よかった、綺麗に治っている。」
「おぉっ、ありがとう、レイ。」
「・・・・・レイ?」
いつまでも私の顔を撫でるのをやめないレイから逃れようとグイッとレイの手を押し返すと、むしろ両方の手で顔をつかまれた。
なんですと!?
「ちょと、どうした、レイ?」
「もう一ミリたりとも怪我しないで。」
そんなこと無理だろ!と叫びたくもなったがとにかく早く離れて欲しくて、わかった、わかったと頷く。リタの目を気にしつつ今度こそとレイの両手を持って引きはがす。
「レイ様って・・・お優しいのですね。」
リタがうっとりとレイを見つめていた。
巾着の中からアウトドア用の伸び縮み鍋を取り出すと温泉の淵にある平らな岩の上に置いた。背負っていたリュックから調味料を取り出しつつ、リタに食材のカットをお願いする。
鍋に火と山火花の根を刻んだものを入れて油で炒め香りを出したところで、リタにお願いしていた野菜をいれてよく炒める。火が通ったところでお肉とサワンヤの粉を入れてネットリと混ぜ、羊乳を入れた。クルクルと鍋をかき混ぜる。
「ライファ様はお料理が得意なのですか?」
「得意・・・得意っていうのかなぁ。食べることは大好き、作ることはまぁ、好きって感じ。」
「ライファの料理はいつも美味しいから期待していていいよ。」
「そう、なんですね。」
少し落ち込んだような、含みのある言い方のリタが気になりつつも調味料を入れて味を調え始めた。
シチューのいい香りが漂い始め、匂いにつられたベルがキュンキュンと寄ってきた。あとは、岩の上に火を置いてパンを焼けば完成だ。
パンの焼けた匂いとシチューの濃厚な香りが胃袋をガンガン揺さぶり始めた時、ガサガサっと岩陰から覗く影があった。
まさか・・・。
レイにそっと目配せするとレイも気が付いたようで、こちらを見て頷いた。
そういえばスーチでシュトーの話を聞いた時に、くいしんぼうだという情報があったはずだ。
よし。
私は布の端に2mくらいの紐をつけると布の上に作ったばかりのシチューを置いた。
「どうするのですか?」
何も気づいていないリタが不思議そうな声をあげる。
「ん、ちょっと釣りをね。これから何が起きても大きな声はあげないで。」
私の真剣な声にリタが少し緊張した面持ちで頷いた。
「レイ、結界の用意をたのむ。」
レイが頷いたのを確認して、私は鍋をお湯の吹き出し口に近い位置に置いた。そして、私とレイとリタは鍋から離れて木の影に隠れると、鍋を乗せた布につけた紐を少しずつ引っ張った。鍋はゆっくりゆっくりと吹き出し口から遠ざかる。
ガサっ、ガサガサガサ
最初は一匹だった。周りを伺いながら鍋へと近づき、鍋が動くと鍋を追って歩いてくる。やがて最初の一匹の様子を見ていた二匹目が現れ、それからは芋ずる式にズルズルと鍋にたかるかのように出てきた。私はそのまま紐を引っ張り続け、100匹以上になったとき。背中にオレンジ色の実が二つ揺れているシュトーを見つけた。
レイ、あそこ。
こそっと耳打ちするとレイは細かな網状の結界をバサッとシュトーに被せた。
「やった!」
背中に身を生やしたシュトーは見事に結界の中だ。
「レイ、ナイス!!」
私は急いでシュトーの元へ行くと、シュトーは怯えたようにざわついた。
「ごめんね。この実がほしいんだ。」
私はシュトーを傷つけないようにそっと実をいただいた。
「くれたお礼に君たちにも少しシチューをお裾分けするよ。」
木をざっくりと削った1m程の長い器にシチューを入れ、側に置けば我先にとシュトーが群がった。
「なんか、ガサガサしている大量の虫みたいですね。」
若干引き気味のリタに激しく同意する。
「ちょっと・・・ね。」
そんな二人よりももの凄い反応を見せたのがレイだ。数匹までは大丈夫だったが、この量がそろうとやはり虫感がすごい。シュピンっと自分だけ結界の中に入り、シュトーから完全に距離をとっている。そんなレイを呆れた眼差しで見つめると「いや、だって、ね?」と可愛く爽やかに微笑まれた。
「レイ様、虫が苦手なのですね。かわいい・・・。うん、やっぱり素敵。」
何かを決めたかのようなリタの呟きが耳に残った。
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