第10話 深夜の調合
ぷはっ。
口元から毀れそうになった回復薬を手で拭った。本日3本目の回復薬だ。一日に飲む回復薬は3本までにするようにと師匠から言われているのでこれが本日最後の回復薬になる。回復薬の飲みすぎは体に異常をきたすためだ。薬材を調合するのはスキルのおかげで魔力を使わないが、火をおこしたり、長時間鍋を混ぜたりしていれば着実に魔力は消費する。
「どうすれば・・・」
先ほどから調合を繰り返しては薬の効果をあげられず、味が変わっただけの薬を量産する始末だ。コツコツと部屋の中を歩き回りながら、使用する薬材を選びなおすところから始める。
「ブンの木の葉はそれ自体眠りの効果3だ。武器にするならば眠りの効果6は欲しい。」
そういえば前に師匠が大元となる薬材の効果を助けてやるように薬を調合すると効力は上がると言っていたな。眠りの効力を上げるには、リラックス効果のある薬材を混ぜるのが良いかもしれない。あとは、体がほんのり温まるようなものか。薬材棚の前に立って薬を見つめる。
棚には乾燥させた薬材があっちにダラリ、こっちにダラリとはみ出しながら一応は並んでいる。スキルを使ってそれぞれの効果を見ていく。
ハクの花は鎮静効果1なんだよな。鎮静効果は2ぐらいあった方が良い気がする。他に何かないかな、視線を他の薬材に移そうとしたとき、鎮静効果2の文字が見えた。ん?と引き返してハクの花を見ると、花の中に花びらの内側がわずかに青っぽくなっている花があった。その青みがかったハクの花、それだけが鎮静効果2の文字が表示されていたのだ。
「そうか、同じ花でも花によって効力に差が出ることもあるのか。」
これは新しい発見だった。だが、よく考えれば納得がいく。同じ果物でも育った環境で甘さが違うなんて当たり前のことだ。同じ薬材でも効果に多少の違いがあってもなんらおかしなことはない。
「・・・今まで、同じ薬材の効力をチェックするなんてことなかったもんな。」
私は鎮静効力2のハクの花を使うことにした。
同じようにブンの木の葉を見れば、すべてが眠りの効力3の表示で、効力が違う薬材が混ざるのはそんなによくあることではないのだと知った。次は体がほんのり暖かくなるような薬材を探そう。一番最初に見つけたのはボーボーの木の皮で熱効果3だ。熱効果というのがあんまりよくわからないが、熱というくらいだからあったかくなるのではないかと思う。しかしながら、効果3は強すぎるな。あくまで眠りの効果を助けねばならぬのに、ボーボーの木の皮を使えば、眠りの効果も吹っ飛んでしまいそうだ。
「何か他に丁度良いものは・・・」
そう呟いて思い出した。お風呂場にあるではないか。寒い日やゆっくり温まりたい時に入れる山火花の粉末が!赤い葉っぱが集まったような花で、山に咲いている一般的な保温材だ。
材料が揃ったら調合だ。
水にブンの木の葉を入れて、沸騰させないように温めてゆく。沸騰する直前で火を止めて木の葉の効力を水に移す。そこにハクの花びらを一枚ずつ1花ぶん入れる。このまま30分放置。十分に効果が移ったことを確認し、花と木の葉を取り出す。山火花の粉末を入れひと煮立ちさせたら完成だ。
気になる効力は!!と見てみると【眠り効果5】の文字。目標には届かなかったもの身の回りにある薬で作ったわりにはよくできたのではないだろうか。
「あとは、この薬を凝縮させて固体にするだけだ。液体を薄くて強い膜で丸く覆って閉じ込めるイメージ。直径2cmくらいの丸にしたい。」
私は眠り薬に手をかざすと、ぎゅーっと凝縮するイメージを薬に伝えた。液体がググッと動いて体積が縮む。もっと濃厚に、とギューッと魔力をこめたところで、よろけて倒れた。魔力を使いすぎたな、そう思った時には瞼は重く、眠りの中に引きずり込まれていった。
「キャーッ!!殺人事件みたーいっ!」
茶化すような甲高い師匠の声に目を開けると、師匠の足の先が見えた。昨夜、というか明け方、魔力を使いすぎて倒れてそのまま寝ていたらしい。
部屋の惨状を見て察しがついた師匠は、はぁあああああと盛大なため息をついた後「もうお昼なんだけど」と言った。
「・・・昼・・か。」
床に寝ていたせいでバキバキになっていた体を解しながら立ち上がった。そういえば、昨日倒れるまで作っていた薬、どうなったんだろう。鍋に近寄り、ヘラでかき混ぜてその感触を確かめる。微かにとろみがかっていた。念のため、もう一度スキルで効力をチェックする。
「眠り効果6!?効果がアップしてる!」
私の声を聞いた師匠が、おぉっと寄ってくる。
「どうやって調合したんだ?」
師匠に聞かれるまま、調合に使った材料と調合方法を話した。
「ブンの木の葉の効力はせいぜい3のはず。それを調合で6まで効力をアップさせるとは。全く、センスが良いとはこのことだな。」
若干呆れたような声色だったのが気になったが、師匠に褒められて体のバキバキ感も眠気も全部ふっとんだ気がした。
「あとは固体にするだけだ!」
顔の前で拳を握って勢いよく言った。言った!・・・何か忘れているような。
記憶を探れば、即効性という文字が頭の中に取り残されていた。
「即効性、忘れてた・・・。」
膝をついてガックリとうなだれた私を見て、師匠が「まぁ、ご飯にしようや。」と言った。
ううううう。
今日の朝食、いや、昼食は私が昨晩つくったハンバーグをパンに挟んだハンバーガーだ。パンの間に野菜も一緒に挟むことで、食感も楽しくなるしさっぱり食べることも出来る。羊乳にキノコの菌を混ぜて発酵させたヨーグルトに果物を混ぜたものを一品、野菜のスープを一品、柑橘系の果汁と塩、ハーブで和えた野菜サラダを作れば昼食のできあがりだ。
「これがハンバーガーか。」
師匠は珍しそうに眺めたあと、あむっと大きな口を開けて食べた。
「ふご、ふご、これは、パンなのに食べ応えがあってうまい!ハンバーグとパンが良く合うな!」
師匠の言葉に私も食べてみれば、なるほど、パンとハンバーガーの相性がすごく良い。このハンバーガーは冷めてもおいしそうだ。ピクニックにも良いだろう。クッキーにお茶にハンバーガー、うん、楽しいピクニックができそうだ。食べ物好きの会の次のピクニックメニューにしよう。そんな妄想にニヤニヤしていると「ところで、さっきの惨状を見ると、自分の身を守る方法を何か思いついたんだろう?」と師匠がハンバーグを持ったまま言った。
「はい。自分に何ができるか考えたときに、攻撃用の薬を調合することだと思いました。攻撃用と言っても、思いつくのは眠り薬とかしびれ薬ですが。襲われた時、緊急時に使うとなると、ある程度効力は高く即効性の高いもので、皮膚から侵入できるもので・・・」
昨晩思いついたことを説明する。
「とりあえず、眠り薬からと思って昨晩作っていたのですが」
「即効性を入れるのを忘れた・・とな。」
「そうです。というか、即効性を持つ薬材ってどんなのだろう。ドゥブ毒ってどうやって作るんですか?そこに即効性のヒントがあるかもしれない。」
「ふむ。自身を守る為に一生懸命になることも、研究熱心なのも良いことだ。知識こそが自身を導くものだからな。いいだろう。今のお前に最適な人物を紹介してやろう。少々難はあるが、一点においては優秀な人物だぞ。」
師匠はそういうと「午後から向かう」とチョンピーを飛ばし、「来るときにはご飯持ってきてー!」という少女の声のチョンピーが返ってきた。
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