第6話 アミちゃん王宮に潜入する

 ターハッカ帝国は、自ら神の子孫を名乗る皇帝一族が代々支配している中央集権制の軍事国家である。皇帝はターハッカ教の教皇も兼任している絶対権力者で、現在の皇帝の名をヒーゼンクロー・ダ・ターハッカ三世という。


 アミちゃんたちは、もうすぐ日暮れになろうとする頃、ターハッカの帝都カスナに着いた。

「あらあ、魔法結界なんて張っちゃってるよ┅┅よっぽど警戒してるんだね。この様子じゃ、中も相当ワナが仕掛けてあると考えた方が良いかな」

「この際です、王都丸ごと火の海にして┅┅」

「だめっ。もう、それは前から言ってるでしょう?住民は犠牲にしない。賄賂は受け取らない┅┅」

「不正は許さない┅┅はい、十分承知しております」

「まあ、お前の気持ちは分かってるよ。大切な仲間を何人も殺されたんだ、わたしだって帝国が憎い┅┅でも、それをぶつける相手は皇帝とその手先、そして勇者だ」

「はっ、承知いたしました」

「じゃあ、注意しながら皇帝の所まで行くとしますか」

 アミちゃんたちはゆっくりと地上に降りていった。


「ほら、急げ、門を閉めるぞ!」

「はいはーい、待ってくださーい」

「ん、見かけぬ顔だな、よそ者か?」

「はい、行商人です。何度かここにも寄らせてもらってますよ」

 門番の兵士はじろじろと小さな少女と背の高い男を見ながら、あごに手をやった。

「通行許可証は持ってるか?」

「えっ、つ、通行許可証?以前来たときはそんなものいらなかったですよ」

「ああ、新しく決められたものだ。魔族の王国ソアマノヤが滅ぼされたのは知っているだろう?」

「┅┅はい、知っています」

「その魔族の残党が入り込まないように、二週間ほど前に帝都の住人と出入りの商人たちに発行されたものだ」

「あちゃあ、そんなの知りませんでしたよ┅┅」


 少女はそう言うとズボンのポケットに手を突っ込んで、何かを取り出した。

「今日の所はどうか見逃してくれませんか?ね?」

 少女は門番の手を握ると、そっと銀貨を握らせた。

「おい、テッド、規則は規則だ、見逃したら俺たちが┅┅」

「そちらのお兄さんも、今日の所はどうか┅┅」

 少女はもう一人の門番にも駆け寄っていって手を握った。

「う、うむ┅┅まあ、行商人なら知らなかったのも仕方ないだろう┅┅」

「そ、そうだな、よし、通れ。明日、ちゃんと商人ギルドで許可証を作ってもらうんだぞ」

「はーい。ありがとうございまーす」

 少女とフードを目深に被った男は、門番たちに頭を下げて町の中に入っていった。


「ふう┅┅やれやれ┅┅金に目のくらむ門番で助かったな」

「人間とはあんなものです」

「うん、まあ、おおかたそうだろうな。でも、違う人間もいるぞ」

「わが主は、いつから人間に詳しくなられたのです?」

「ふふん┅┅その話はいずれゆっくりしてやろう┅┅」

 

 二人は大通りの突き当たりにある広場の前まで歩いて行った。

「さてと┅┅どうやって王宮の中に入ろうか┅┅」

 ウサギの姿に戻ったアミちゃんはそう言うと、周囲をじっと見回した。魔力感知魔法を使って、どこにワナや警報発動魔法が掛けられているか確認するためである。

「うっひゃあ┅┅よくまあ、こんだけ仕掛けたものだな┅┅こりゃあ、地上を行くのはかなり危険だぞ。かといって、飛んでいけば目立つしなあ┅┅」

「では、決まりですね?」

「うん┅┅じめじめして臭くて嫌いだけど┅┅下水道を通っていくしかあるまい」

 二人は頷き合うと、通りを引き返し、途中の角から曲がって裏道に入っていった。


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