第7話 アミちゃん、王宮を占拠する
さて、ちょうどその頃、勇者ヤン・テオモは魔族の生き残りを追って竜族が住むというガゴンヒューブ山脈の中にいた。お供として魔法使いのジル、大剣使いのトーマ、シーフのルークの三人という少数精鋭のパーティである。
「どうしたの?ヤン┅┅浮かない顔しちゃって」
「ん?ああ┅┅いや、何か嫌な予感がしてな┅┅」
「おいおい、勇者がそんな弱気でどうするよ。魔王アミルゲウスに比べたら、いくらエンシャントドラゴンといってもたかが知れてるだろう?」
ヤンはたき火に木の枝を差し込みながら、小さく首を振った。
「いや、ドラゴンのことじゃない┅┅」
「ん?じゃあ、何が心配なんだ?」
ルークがウイスキーをカップに注いでヤンに手渡しながら尋ねた。ヤンはじっとたき火を見つめながら低い声で言った。
「アミルゲウスが復活したんじゃないかと思う。確証は何もないが┅┅」
それを聞いた他の三人は思わず小さな叫び声を上げた。
「お、おい、まさか┅┅奴は次元の彼方に消えたんじゃないのか?」
「ああ、その通りだ┅┅だが消滅させることはできなかった。奴は生きている┅┅そして、奴の側近の幹部たちは、目立った復讐はせず、じっと身を潜めて隠れている。ただ、イシュタルだけは魔王城の近辺でたびたび目撃されているがな。彼らは信じているんだ。必ずアミルゲウスが戻ってくると┅┅そして、昨日、魔王城を見張っていた兵士が何者かによって麻痺の魔法を掛けられたと通信があった┅┅」
「えっ?昨日の通信ってそのことだったの?どうしてすぐに教えてくれなかったのよ?」
「すまん、軽く考えていたんだ┅┅その見張りの兵士たちは、青い目のウサギを見たと言っていたらしい。俺は、竜脈に誘われて迷い込んだミラージの仲間だろうと判断した┅┅だが、よく考えてみると知能の低いミラージがパラライズを掛けた後、兵士たちを殺さずそのまま逃げ去るなんてあり得ない。きっと死ぬまで角で突き続けるはずなんだ┅┅」
「ち、知能が高くなったミラージってことはないか?」
「ああ、それは可能性としてある。だが、俺の勘が叫んでいるんだ、このやり方は奴に違いないと┅┅」
「だが、ウサギだったんだろう?変身するにしても何でウサギなんだ?」
ヤンはため息を吐いてウイスキーをぐいとあおった。
「ふう┅┅それがどうも分からない┅┅だから今すぐ引き返そうという気になれなくてな┅┅」
他の三人の冒険者たちも首をひねって考え込むのだった。
そのウサギ、青い目に金色の頭髪の大悪魔アミちゃんは、不平をぶつくさ言いながら、手下の服の中から顔だけ出して、カスナの街の地下下水道を移動していた。
「うう、臭い┅┅確かにワナも感知魔法も仕掛けてないけど┅┅これは辛いぞ┅┅」
「悪魔は何事も忍耐です、わが主┅┅」
ご主人様を胸に抱いたイシュタルはハイテンションになっていた。
「┅┅大昔から、人間族や神族に虐げられてきたわが悪魔族は、しかし我慢に我慢を重ね、粘り強く戦い続けた結果、今や彼らに対抗しうる勢力と力を得ることができたのです」
「うん、それは本当だな┅┅お前、さすがエリート悪魔と呼ばれるだけのことはあるな」
「はあい、もちろんでございますとも┅┅このイシュタル・バルバロス十五世、わが主のために日夜悪魔道に励み続けて五百年、いかなる困難にも耐えてこの究極の┅┅」
「ん?おい、何かいるぞ」
アミちゃんの魔力感知は、前方の地下道に強力な魔力を持つ何かを感じ取った。
「確かにおりますね┅┅魔法使いでしょうか?」
「んん┅┅いや分からん。とにかく用心しながら進もう」
「承知しました」
二人は臨戦態勢になってゆっくりと魔力の強い方へ進んでいった。
「フゴー┅┅フゴー┅┅グフ┅┅ムニャムニャ┅┅ンゴー┅┅」
そいつは下水の中に仰向けになって、大きないびきをかきながら眠っていた。下水道を半分以上占拠したその巨体は、大小の古傷にほとんど埋め尽くされていた。
「こ、こいつは┅┅マアサック┅┅マアサックじゃないか」
「おお、確かに第三師団長マアサックでございます。こんな所に生きていたとは┅┅」
その巨体の持ち主は、かつて魔王軍の一師団長であったトロール族の男だった。
「おい、起きろ、マアサック┅┅我らが主、アミルゲウス様がお帰りになられたのだぞ」
「んん?┅┅うるさいなあ┅┅誰だ?耳元でぶんぶん騒ぐのは┅┅」
「何を寝ぼけている、さっさと起きないか」
トロールはゆっくりと体を起こして起き上がった。そして、太い首をひねって自分の尻の近くにいる男と、その男の服の中から顔だけ出している青い目のウサギを見た。
「マアサック、久しぶりだな┅┅わたしだ、アミルゲウスだ」
「アミル┅┅ゲ、ウス┅┅アミ、ル┅┅う、うがああっ」
「ん?イシュタル┅┅こいつ変だぞ」
「どうやら、魔法で操られているようですね」
「こんなワナを仕掛けていやがったか、くそっ」
魔法を掛けられたトロールのマアサックは、棍棒を振り上げてアミちゃんたちに襲いかかってきた。狭い通路で逃げ道もない。魔法を使えば、地上に仕掛けられた警戒魔法で感知され、帝国軍が襲ってくるだろう。
(ここは逃げて他のルートを探すか?いや、きっと他の所にも同じようなワナが仕掛けてあるだろうマアサックは物理攻撃に強い、このまま戦ったらこっちが不利だ┅┅となると、答えは一つだ)
「イシュタル、マアサックの魔法を解くぞ」
「し、しかし、魔法を使うと敵に知られる危険が┅┅」
「もういい、奴らと全面対決だ」
「それでこそ、わが主!承知いたしました」
アミちゃんはイシュタルの服の中から飛び出すと、ジャンプ力を生かしてぴょんぴょんとトロールの体の上に上っていった。そして、トロールの肩の上に立つとウサギの手を彼の顔に向けた。
「わが僕マアサックよ。古の契約は互いの血が枯れぬ限り、永遠のものと知れっ!」
マアサックの魂にかぶせられた偽りの契約は音を立ててはじけ飛んだ。
「うがあああっ┅┅」
マアサックはがっくりと体の力が抜けて膝から崩れ落ちた。
「うう┅┅んん?┅はっ┅┅お、俺は何を┅┅」
「ようやく目が覚めたか?マアサックよ」
「あっ、イシュタル様┅┅こ、ここは?」
「お前は服従の魔法を掛けられていたのだ、でももう大丈夫だぞ。久しぶりだな、マアサック┅┅」
「ん?何だ、このウサギ┅┅偉そうに┅┅」
「控えよ、マアサック、分からんのか?この艶やかな金色の毛並み、深い知性を秘めた青い宝石の瞳、体中から溢れ出る気品、我らが至高の主、アミルゲウス様だ」
「えっ┅┅ええええっ┅┅あああっ、お、お許し下さい陛下┅┅まさかウサギに変身されているとは知らず┅┅」
「うんうん、気にするな、お前が無事でなによりだ」
「ああ┅┅ほんとだ┅┅その優しいお言葉┅┅ほんのり香るバニラの匂い┅┅我らがアミルゲウス魔王陛下だ┅┅」
「お前、この下水の中でよく嗅ぎ分けられるな?」
「┅┅ウオオオォォン┅┅」
「うわあっ、や、やめろおお、鼓膜が破れるっ」
マアサックが子供のように泣き始めると、そのすさまじい声に辺りの壁や天井が震え、今にもガラガラと崩れ落ちるのではないかと思われるほどだった。
「おいっ、マ、マアサック、マアサック師団長、命令だ、泣き止めぇぇっ」
「ずびばせん┅┅うっうう┅┅嬉じくで、嬉じくで┅┅」
「ああ、わかった、わかった┅┅取りあえず、今使った魔法とお前の声で、敵がわんさか押し寄せてくるから、いいか、戦うぞ」
「敵┅┅あああ、そうだ、何もかも思い出した。俺は陛下の仇を討とうと、ガリウスとヒッポグリフと三人でヤン・テオモに襲いかかっていったんです┅┅だが、奴は卑怯にも逃げやがって、追いかけていったところを帝国軍の待ち伏せに遭って┅┅」
「よし、それは後で詳しく聞こう。マアサック、王宮への道は分かるか?」
「はいっ、もう何日もこの地下道を歩いておりますからね。ついてきて下さい」
アミちゃんたちはかつての部下マアサックの案内で、王宮を目指して進んでいった。
「犯人は見つかったのか?マーバラ┅┅」
「いえ、まだ┅┅ですが、どこにいるかは分かっております。今、兵士と魔導士二百名で捜索しておりますので、やがて見つかるものと┅┅」
ターハッカの王宮は緊張に包まれていた。これから夕食が始まろうというときに、市街地に仕掛けていた警戒魔法が発動し、同時に地下から異様な叫び声と振動が広範囲で確認されたのである。魔族の残党が侵入したと判断した皇帝ヒーゼンクローは、第一級の警戒態勢を指示した。
「あ、連絡が入りました。スクリーンに転送します」
魔導士マーバラは、部下の使い魔が魔石を通して映した映像を、会議室のスクリーンに映し出した。
「イ、 イシュタル┅┅それに、これは洗脳魔法を掛けて地下道に置いていたトロールでない
か。なぜ洗脳が解けているのだ?」
「さ、さあ、分かりません┅┅イシュタルはそのような高位の魔法は使えないはずです。他に何者かがいるのかと┅┅」
「陛下、もう一匹、イシュタルの胸元に┅┅」
近衛隊長の言葉に、皇帝は目を凝らしてスクリーンを見つめた。
「ん?┅┅ウ、ウサギ?」
その頃、アミちゃんたちは前方から突進してくる帝国兵たちを蹴散らしながら、王宮の内部まであと少しの所まで来ていた。
「いやあ、アリのように湧いてくるな、うっとおしい┅┅」
「わが主、後ろからも魔力の気配が近づいて来ております」
兵士だけなら、マアサックとイシュタルだけで撃退することができたが、背後から魔法攻撃をされたら厄介である。
「よし、ここで敵を迎え討つぞ。後ろの奴らは私が引き受けた。前方の道を切り開け!」
「「承知しました」」
アミちゃんは少女の姿に変身するとイシュタルの服の中から飛び出した。
「あっ、ウ、ウサギが女の子に変身したぞ┅┅あ、あれは┅┅」
王宮の会議室では皇帝と側近たちが、固唾を飲んで映像を見守っていたが、変身した少女の姿を見て全員が驚きに声を失ってワナワナと震え始めた。
「ア、 アミルゲウス┅┅」
「ま、まさか┅┅」
「見た目は幼くなったが、あれは、間違いなくあの大悪魔だ┅┅マーバラ、すぐに勇者に、ヤン・テオモに連絡しろ」
「は、はい。でも、彼は今ガゴンヒューブ山脈にいます。帰り着くまでに三日はかかるかと┅┅」
「ええい、そんなことは分かっておるわ!とにかく、一刻も早く戻ってくるように言えっ」
皇帝は王宮の中にある秘密の隠れ部屋へ逃げ込む準備をしながら叫んだ。
「よし、こっちは片付いたぞ」
魔導士軍団は防御魔法を使いながら、火、水、光の高位攻撃魔法を一斉に放ったが、アミちゃんの黒炎獄の魔法の前にあっさりと焼き尽くされてしまった。
「さすがはわが主、お見事です。こっちも、もうすぐ片付き┅┅っ!┅┅危ないっ!」
イシュタルはとっさにご主人をかばって覆い被さった。その直後、大きな石つぶてが無数に飛んできて、マアサックを打ち倒し、イシュタルの体にも何発か当たった。
「グオオォ」
「うぐっ┅┅」
「マアサック、イシュタル、大丈夫か?」
アミちゃんは倒れたイシュタルの体の下から這い出して、二人のケガの具合を見た。そして、すぐにヒールの魔法を掛けようとした。ところが、そこへ帝国兵が一匹の魔獣を押し立てて迫ってきた。
「ヒッポグリフ┅┅お前も服従の魔法を┅┅」
アミちゃんはヒッポグリフの前に立ちはだかった。巨大な鳥型の魔獣は羽をばたつかせながら、鷲の頭を下げて小さな少女を見つめた。
「ヒッポグリフ、お前は後で洗脳を解いてやる。取りあえず、眠っておけ」
アミちゃんはそう言うと、スリープの魔法を放った。
「クウゥ┅┅」
ヒッポグリフは一声啼いた後、そのまま前のめりにバタリと倒れ込んだ。
「弓兵、魔物もろともその娘を射殺せっ!」
帝国兵たちは慌てて逃げながら、後方支援の弓隊に叫んだ。
「ストーム」
アミちゃんの風魔法が兵士たちを吹き飛ばす。
「サンダー」
とどめの雷の魔法で兵士たちは皆失神して動かなくなった。
アミちゃんは小さなため息を吐くと、イシュタル、マアサックにヒールの魔法を掛け、ヒッポグリフには解除の魔法を掛けた。思いがけず王都の地下道で二匹の部下たちと巡り会ったアミちゃんは、三人のお供を引き連れて、いよいよ王宮の中へ突入していった。
「まずい、まずい、まずいぞおおっ┅┅おい、マーバラ、お前、エルフ族の大魔導士なのであろう?何とかして奴らを止めてこい」
「無理でございます。わたくしの魔法など、アミルゲウスには通用しません」
「ぬうう、役立たずめ。だったら、少しでも時間を稼ぐために死んでこいっ!」
「分かりました┅┅陛下、長い間お世話になりました。これにて、永のお別れでございます」
マーバラはそう言うと、秘密の隠れ部屋から出て行った。
「ふん、まあいい┅┅いつ裏切るか分からんエルフなど、死んでくれた方が助かる。先代からの引継で使っていたまでだ┅┅」
皇帝ヒーゼンは強がってそう言うと、ソファにうずくまるように座り込んだ。彼の周囲には今や誰もいなかった。彼は側近も血を分けた肉親でさえも信用していなかった。かつて政略結婚で迎えた王妃も生まれた息子も、いつか自分の地位を脅かすのではないかと疑心暗鬼に取り憑かれて毒殺してしまった。まるで、こちらの世界の某作家が書いた「走れ○○○」に出てくる暴虐の王のような人物だった。
「王宮の割には、守備が手薄だなあ」
近衛兵の一団を入り口の前で撃破したアミちゃんたちは、さしたる抵抗もなく王宮の中を進んでいた。
「きっと、わが主のご威光に恐れをなして逃げ去ったのでございましょう」
イシュタルの言ったことは半分正解だった。
帝都に常駐する帝国軍兵士は約三千名。そのほとんどが家族とともに市街地に住んでいる。魔王アミルゲウスの襲来を受けて、すぐに緊急招集がかけられたが、王宮近衛兵団二百人が一瞬にして壊滅したのを見て、総司令官マシーズ将軍は軍隊を王宮の外に待機させ、自分は急いで屋敷に戻り、財産や家族を領地へ避難させた。他の側近や大臣たちも同様であった。誰も命がけで皇帝を守ろうという者はいなかったのである。
「ん?誰かいるぞ」
マアサックとヒッポグリフを入り口の警備として残し、アミちゃんはイシュタルとともに皇帝を探して上の階へどんどん上っていった。そして、最上階の一つ手前まで上ったとき、広いホールの中央に、白い服を着た美しい女が立っているのが見えた。
「来ましたね、魔王アミルゲウス。皇帝陛下の命により、あなたを排除します」
「エルフの魔導士か┅┅きれいだけど、相当年食っているんだろうな」
「な、何を失礼な┅┅あなたに年のことを言われたくありませんわ」
「おっ、聞こえてた┅┅耳はまだ遠くなってないようだね。へへん、わたしはこの通り、可愛い八歳の女の子だよ」
「嘘おっしゃい、この世の始まりから生きている化け物のくせに┅┅」
「ば、化け物とはなんだ、化け物とは┅┅この若作りババアが」
「きいいっ┅┅わたしは若作りじゃなくて、本当に若いのよっ」
マーバラは床から植物のつるを自在に生やす魔法を使ってアミちゃんたちを捕らえようとした。
「おっと、女のヒステリーは怖いな」
アミちゃんたちは空中に飛び上がってこの攻撃を避けながら、火の魔法を使ってツルを焼き払っていった。
「ウインドカッター┅┅魔光弾┅┅サンダーボルト」
マーバラは矢継ぎ早に、持てる力を振り絞ってアミちゃんに攻撃を仕掛けた。
「そんな魔法じゃ、わたしは倒せないよ」
アミちゃんはシールドの中から平然とマーバラに言った。
「そんなことは┅┅分かっている┅┅チェインメイスっ!」
マーバラが杖の先から枝分かれした鎖付きの槍の穂先を飛ばした直後、背後に回っていたイシュタルが、緊縛の魔法で彼女を拘束した。マーバラは覚悟を決めてがっくりとひざまづいた。
「なあ、一つ聞いていいか?なぜ、エルフが帝国の味方をしているんだ?お前たちも確か帝国に敵対していたんじゃなかったか?」
「┅┅あなたには関係ないことです」
「まあ、魔族もエルフたちから敵対視されてるからなあ┅┅ていうかさあ、エルフが閉鎖的過ぎるんだよ。わたしたち魔族はエルフと敵対する気は全く無いんだけど、話を聞こうともしないからな┅┅ったく┅┅」
「それは┅┅エルフがそれだけ弱い種族だからよ┅┅」
「そうか?弓の腕は凄いし、何百年も長生きできるじゃないか」
「エルフは┅┅一人一人は強くても、決定的な弱点がある。それは、繁殖力が弱いということよ┅┅どんなに長生きできても、種族の人口がほとんど増えなければ、強い種族に簡単に滅ぼされてしまう┅┅」
「そうか┅┅だったら、多種族と交配すればいいじゃないか?雑種は強いぞ」
「┅┅ええ、かつてわたしたちもそう考えた。でもそれは、純血を重んじるエルフにとって、苦渋の決断だったわ。そして、唯一交流があったドワーフ族との交配を試みたの。その結果生まれたのが、ダークエルフよ┅┅」
「へえ、そうだったのか┅┅確かにダークエルフにはドワーフの特徴もあるな」
「ダークエルフは、確かに純粋のエルフより優れた点が多くあったわ。強靱な体、繁殖力、手先の器用さ、魔力の大きさ┅┅でも、彼らには大きな欠点もあった。それは、彼らが好戦的でプライドが高く、傲慢な性格だということ┅┅これは狭いエルフの社会の中では常にトラブルを引き起こすということでもあったわ┅┅その結果、四百年ほど前、エルフの族長は彼らを追放した。その時から、エルフとダークエルフは犬猿の仲になったのよ」
「人間との混血のハーフエルフも、確かエルフたちからは嫌われているんだよな?」
「繁殖力ばかり強くて、魔力もほとんど持たないなんて、種の堕落だわ」
アミちゃんは苦笑しながらため息を吐いた。
「つまり、そういう頑固な所を帝国にうまく利用されたんだな?」
マーバラは悔しげに唇を嚙んで、アミちゃんを見上げた。
「滅ぼすと言えば、エルフはあくまでも戦うだろう。森を利用した戦いが得意なエルフ族相手では、帝国軍にも大きな被害が出るからな。だったら、こちらは無傷でエルフが従う方法は無いか、帝国も考えただろう。わたしが帝国だったら、こう言うだろうな┅┅滅ぼさないでやる代わりに、エルフ領内に人間を移住させろ┅┅」
マーバラは驚いたように目を見開いて、口を開いた。
「ええ、その通りですわ┅┅我々にとっては、戦って死ぬより屈辱的なこと┅┅だから、族長は帝国に従属する道を選んだ┅┅そして、最も大きな力を持つ魔導士のわたしを、従属の証しとして差し出したのです┅┅」
「ふむ┅┅やはりそうだったのか┅┅じゃあ、帝国を滅ぼしてもエルフたちに直接被害は無いわけだな?」
「ア、アミルゲウス┅┅あなたは多種族の争い事には関わらないと┅┅」
「ええ、今まではそういう方針でやってきたけど、勇者と手を組んだ帝国に国を滅ぼされちゃったからね。彼らにこれ以上好き勝手にさせておくわけにはいかなくなったんだ」
ちょうどその時、変身魔法の時間が切れて、アミちゃんはウサギの姿に戻った。
「あらら┅┅魔法が切れちゃった┅┅あはは┅┅これが今のわたし。どう、可愛い?」
「え、ええ┅┅か、可愛い┅┅」
「えへへ┅┅じゃあ、ちょっと皇帝を捕まえて言うこと聞くように脅してくるから、逃げたければ逃げていいよ」
アミちゃんはそう言うと、イシュタルを従えて去って行こうとした。
「あ、ま、待って、アミルゲウス、いえ、アミルゲウス様┅┅」
拘束を解かれたマーバラは、立ち上がってアミちゃんに近づいて来た。
「皇帝は魔法で隠蔽された隠し部屋にいます。わたしがそこまで案内します」
「おお、それは助かるよ。じゃあ、行こうか」
マーバラの案内でアミちゃんたちは、その階の奧の方へ進んでいった。
「マシーズ将軍、先鋒騎馬隊が全滅しました。あの魔物たちをなんとかしないと、城内には入れません」
「ぬうう┅┅冒険者たちはまだか?」
「はっ、ギルドに命じて集めさせておりますが、あのクラスの魔物を倒せる者たちは、あいにくアミルゲウスの手下たちを討伐する任務で各地に出払っておりまして┅┅」
「B級以下で構わん、とにかく引っ張ってこい」
「はっ」
伝令が去った後、軍司令官マシーズは王城を見上げながら、心の中で舌打ちした。
「だから、アミルゲウスには手を出すなとあれほど言ったんだ┅┅ヤン・テオモの口車に
乗せられやがって、バカ皇帝め┅┅」
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