第4話 復活、大悪魔の小さなウサギ

 一方、その頃悪魔アミルゲウスが討伐された世界では、世界の覇権を狙う人間の国同士の争いに魔族の残党たちも巻き込まれて、いつ果てるともない戦争が続いていた。

「あーあ┅┅こんな廃墟の見張りなんてやる必要が本当にあるのかねえ┅┅」

「まあ、勇者ヤン・テオモがうちの皇帝陛下にそう進言したっていうんだから、しかたないさ」

 かつてアミルゲウスが治めていた魔族の国ソアマノヤは、今は世界制覇に最も近づいたと噂されるターハッカ帝国の領土になっていた。

 まだ領主が決まっていないため、アミルゲウスの城は勇者との争いで壊れた部分はそのまま放置された状態の無人の城だった。


 突然、その無人の廃墟であるはずの城の中からドドーンという大きな音とともに、

「痛ってえええっ!」

 という、甲高い叫び声が聞こえてきた。

「なっ、何だ?」

「し、城の中から聞こえたよ、な?」

 二人の見張り兵は、ごくりと唾を飲み込んで恐る恐る城の中に入っていった。


「痛いなあ、もう┅┅わっ、たんこぶができてる┅┅くそう、勇者の奴め、わたしが転移しないように壊していったつもりだろうが、へへん、馬鹿め、魔方陣には修復魔法が掛けてあったのだ┅┅しかし、床が傾いていたんだな┅┅おかげで出てきたとたんに壁に激突してしまった┅┅」

 大きく傾いた床には転移魔方陣が描かれ、周囲の壁からは濃密な魔力が溢れだしている。ここは地下を流れる大きな竜脈の真っ只中にある。魔王アミルゲウスが最も大切にしていた地下室だった。


「確かこの辺りから人の声が┅┅」

 勇者が破壊したために壁も扉もなくなり、秘密の地下室は地下通路の先にオープン状態でさらされていた。

「ん、な、何だ?┅┅ウサギ?」

 二人の兵士はその地下室の傾いた床の端っこに、額に大きなこぶを作った一匹のウサギを見つけた。

「ウサギにしては変だぞ┅┅頭の所だけ金色の長い毛が生えてる┅┅それに、見ろよ、あ、あいつの目は青いぞ┅┅」

「ああ、ほんとだ┅┅魔物かもしれんな」

 二人の兵士は頷き合って、そっと忍び足で近づいていった。


「さてと┅┅ふっふっふ┅┅戻ってきたぞ、われは┅┅待ってろよ、勇者┅┅貴様を倒し、われは再びこの世界の王となるのだ┅┅ふふふ┅┅あははは┅┅あーはっはっはあ┅┅」

「ウ、ウサギがしゃべってる」

「ウ、ウサギが笑ってる」

「へ?ウサギ?どこ、どこ?┅┅てか、誰?お前たち┅┅」

「魔物め、覚悟しろっ」

「うわっ、危ないじゃないか┅┅そうか、思い出したぞ。その鎧はターハッカの兵士だな?ということは、勇者のバックにいたのはターハッカ帝国だったのか┅┅」

 ウサギはジャンプして瓦礫の上に飛び乗り、悔しがる兵士たちを見下ろして言った。

「┅┅にしても、わたし、凄いジャンプ力だったな。あっちの世界ではちょっと走っただけで息切れしてたのに┅┅ん┅┅?あれ┅┅?何、この足?┅┅え?、ええっ┅┅えええええっ!」


 転移門を通るとき、物質は一度原子の状態に戻る。そして、再構成されて別の転移門から出て行くのである。その再構成の時に、本人の血で魔方陣が描かれていたら、完璧に本人に再構成される。だが、別の人間の血だったら、一度別の人間のDNAで再構成された後、本人のDNAで上書きされる。つまり、土台が別の人間で、中身は本人という現象が起こるのである。


「ああ┅┅どうじよう┅┅ううう┅┅」

大悪魔アミルゲウスは、校舎の裏で捕まえたウサギ(恐らく飼われていたウサギが野生化して繁殖したやつ)の血を使って魔方陣を描いたために、土台がウサギで中身が人間という大変不幸な状態に再構成されたのだった。


 たとえウサギの見た目でも、中身は魔王クラスの悪魔である。魔力が十分使える環境のもとでは、一国の軍隊が束になって襲いかかっても勝てる相手ではない。二人の兵士をパラライズの魔法で麻痺状態にした後、ウサギになったアミルゲウス、アミちゃんは懐かしい自分の寝室のベッドの上でさめざめと涙を流していた。そしてシーツにシミが出来るほど泣いた後、アミちゃんは決然として愛着のある自分の城を出て行った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る