第4話  リオの家族と秘密

 リオには、自分でも知らない、秘密があった。両親だけだ、しかも父親は、2年ほど前に仕事中に、心臓発作による、突然死していた。

 そんな中、20歳になったリオに、話す機会を逸していた。母親も悩んでいた。そのまま時間だけが、過ぎていくのだ。

 リオは、大好きな、還暦を迎えた男と、楽しく過ごしていた。何も知らないまま。

 その日は、朝から雨で気も滅入っていたので、男に「哲也、今日は、雨だから歌でも歌いに行こうよ」とシャワーを浴びて洋服を楽しそうに選んでいる。元アパレル店のカリスマ店長だった。「どんなのがいいかな?」と、男に聞いた。男は、「そうだなぁ、雨だから、思いっきり派手な色がいいんじゃないか」とリオが嬉しがるように言った。彼女の好みは、充分に理解していた。何しろ半年以上、彼女に全て世話になっており、なるべく彼女に合わせて生活していた。男には、まったく理解できないままだったが、もう、理解しようとも思わなかった。ただ、なるべく彼女が喜びそうな、言葉を使っている。

 一方、リオも理由がわからないまま、彼の事が好きで、いっしょいる。毎日、隣に彼がいるだけで心が軽くわくわくしていた。初恋の様に。彼女は、親友にも自慢してツーショット写真を見せて、「リオ、キモいよ、変態だね!」と言われても、それがかえって嬉しいぐらいだ。そんな二人が出かけようとした時、インターホンがなった。リオが、「なんか、買った?」いつもの通販かと思って、男に聞いた。

 男は「いや、何も買ってないよ」と答えて、インターホンに答えた。「はい、居ますよ」

「リオ、おまえにだよ」若い男だ、やな気分にさせられる客だと思った。二人は、身なりの整った、エリート意識の高そうな若者を迎え入れた。哲也は、「ヤバイ、この男、30年前の俺の様だ」直観的に思った。

 男は、「三上 慎一です」と名乗って名刺を差し出した。リオと哲也は二人で三上の話しを聞く事なった。リオが、怖がって一人なら聞かないと言い張って揉めたからだ。

 三上が、淡々と話し始めて、リオと哲也は、別の意味で、驚愕していた。リオは、「そんなの、嘘だ!」と言いながら、涙を流してる。

 哲也は、それこそ、小説か物語の様な話があるはずない!と心の中で叫んでいた。「まさか、嘘だろ」逃げなきゃ今すぐに、気が動転して、まったく考えがまとまらなくなっていた。

 とにかく、一旦相手の、会長への報告は2週間ほど、待って貰う事が出来た。三上にも弱味があった。リオのなんでもない、顔を見て内心ハラハラしていたからだ。

 三上と名乗る男が、帰ってから二人は、暗くなり始めるまで、黙っていた。リオも哲也も考えがまとまらなく、話す言葉も見つからない。

 哲也は、「いいじゃないか、そろそろ終わりだ、今まで、ありがとう出て行くよ」

「リオも、もう仕事辞めて幸せになれるよ。」

リオは、大きな目から、とめどなく、大粒の涙を流しながら、かすれた声で、「今が、一番幸せなの!、終わりになんかしないよ」一晩中泣きじゃくっていた。目が腫れて、気分悪く、とても仕事には行けないと、店に連絡して、しばらく休む事にしたらしい。

 少し、落ち着いたところで、哲也は、リオに相手の、会長について話すよと、ポツリとつぶやいた。

 リオは、「えっ!、知ってるのなんで?」かなり驚いて聞いた。

 「うん、俺も、三上ってやつの、話しを聞いて驚いたよ。」

 「本当に、こんな事があるとはなぁ。」

哲也はリオに、自分の昔の事を話し始めた。

 九条 哲也は、東大法学部卒業後、大手の法律事務所に入っていた、あり得ない勝率で、関わった案件全て勝利していた。天狗になっていたのだ。法曹界も大した事ない、大物弁護士が、勝てないと言った案件も、大した事なく勝てた。

 しかし、違ったのだ、別の意味で勝てないと言ったのだった。

 勝てない、いや勝ってはいけないのだった。

会長こと、進藤 憲一の案件だった。

 進藤 憲一は、明治時代初期からの財閥の本家の御曹司だった。今どき、なんだとか思うけれど、日本のトップは、首相ではない。

 ごく一部の、旧薩長や旧財閥系の元華族に、完全に仕切られている。完全に裏に回っており、何があっても、表には出てこないのだ。

 しかし、日本の経済や、政治、外交政策全てにおいて、関係または、指示している。

 唯一、過去に関係していない時が合った、政権交代あった時だ、国民の期待はすぐ裏切られた。最後には、政権交代のせいで、あの東日本大震災が起きたとまで言われることもあった。

 すぐ、彼らの手に戻り、彼らの思うような、体制になった。進藤 憲一は、東大卒業後すぐに、そんなメンバーの一員だった。

 哲也は、そんな男の案件に手を出してしまった。完全に潰されてしまい、今、ここにいる。

 リオは、何時間も哲也の話しを、黙って聞いていた。哲也が話し終えると、ふーっと大きなため息をして「凄すぎ!、本当に映画か、小説じゃない」

哲也は、「ああ、そうだな、だが映画でも、小説でもない、俺は、今ここにいるだろう。」

こんなに、過去の出来事を話すのは始めてだった。涙が自然と出ていた。

 リオは、優しく彼の顔を自分の胸に、抱き寄せた。しばらくして、続けた、「リオ、おまえは、その男の孫娘だ、だから終わりにするしかないんだ」俺の、30年間が、全て奪われたんだ。

 リオは、大きく首を振り言った、「違う、私と出会う為の30年よ」優しく抱きしめた。

 哲也は、何もわかってない、ただ若いから早く、解放してやらなければ、すぐに、忘れられるだろう。

 約束の2週間後、二人は進藤の待つ部屋に、入っていた。

 進藤 憲一は、不機嫌そうな顔で、

「九条おまえ、どうしてこんな事になったんだ」声を震わせながら、言った。

 哲也は、「挨拶も無しか、相変わらずだ。」

そして、「そんなの知るか、彼女に聞いてくれ。」

 リオは、間髪入れず「あんたに、答える気なんかないよ!クソジジイ」「会うだけの約束だろう、話しなんかない」キッパリいい切って、

哲也の手を取り、部屋を出て行こうとしたが、秘書に、止められた。

 進藤は、二人で話そうと、言ったが、その瞬間リオは、机の上にあったペーパーナイフを、自分の首に当て「ためだ、私達を部屋から出せ」とわめき出した。すでに首から、血が滲んでいた。進藤は、「わかったから、止めろ」と言った。すぐに、あきらめて二人を帰らせる様、秘書に、目配せした。

 哲也は、「急になにする、バカな事はしないでくれ、頼むよ、俺のことは、もう本当にいいから」と言って、リオを引きよせ。首の傷を覗き込み、「これで、押さえて、ドラックストアだな、探そう!」支える様に歩き出した。

 リオは、「まだ、ぜんぜんよくない、ずっと一緒にいるもん」傷を押さえながら、ニコニコしながら言った。「早く帰って、エッチしよ!なんか、いまので興奮しちゃったぁ。」

哲也は、「なに、考えてんだ、おまえ」とポンとリオの頭を指先で押した。

「だって、こんなの初めてじゃん、それにてっ

ちゃんの、すごく気持ちいいんだヨ!」と周りには、聞こえないよう耳元で、ささやいた。

 哲也は、ため息をついた、「このまま、済むわけないだろう、帰って少し考えよう、それより、傷治療しよう。」ドラックストアに、入って行った。




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