嫉妬深い人工知能


「そういえば……昨日は世界中が大変だったみたいだね。私も朝のニュースでビックリしちゃった」


 柄の悪い文明人様から逃げた後、サンドイッチの様なものを食べながら紅茶を啜る。

 お茶ってのはこの世界でも変わらぬ形で残っているらしい。

 反面、野菜なんかはだいぶ違う進化を遂げているみたいだ。


「ふーん。昨日なんかあったんだ?」 


「えっ!? ハルちゃん知らないの!?」


 ルイは驚いて少し固まるが、目の前に手をかざしモニターを表示させた。

 あれって俺にも出来るのかな……


『この世界ではある程度成長すると体内にチップを埋め込みます。そのチップにより、様々な恩恵を受けることが出来るのです。勿論ハル様は出来ませんよ? 何せこの私サクラがいますから!!』

 

 へぇ……そうやっていつも心の中を読むんだな。


『そりゃぁもう、私とハル様はツウツウの仲ですから』


 出会って二日目なんだけどな。

 嫌いじゃないけど。


『愛の告白と見做してここに婚姻の誓いを認めますね』


 やっぱり故障してんのかな……

 帰ったらヒロに見せてみるか。 

 

「ほらハルちゃん、これだよ」


 そう言ってルイが見せてくれたモニターには、三分の一程欠けた月の写真がデカデカと載っていた。

 この事だったのか…… 


「こんな事が出来るなんて、宇宙の民しかいないよね」


「宇宙の民? どっかで聞いたような聞かないような……」


『平たく言えば、この世界の創造主ですね。遺伝子操作によりこの星に人間を創り、あの月の片割れを押し付けてきた張本人達です。文明人も宇宙の民には頭が上がらないのです』


「へぇ、ジャイ○ンの母ちゃん的な存在なのね。ルイはその宇宙人を見た事あるの?」


「ううん。都市伝説みたいなモノだから……でも政府も否定はしてないから、実際にはいるんだろうね」


 となると、文明人じゃなくてその宇宙人が諸悪の根源って可能性もあるのか……

 待てよ、じゃあ昨日のアンドロイドも……


『いえ、昨日のアンドロイドはヤマト独自開発の物です。むしろハル様の── 』


 サクラの話を遮るように、正午の鐘が鳴る。

 学校だけではなく、この地域一帯に巨大な鐘の音が響いているようだ。

 なんとも神秘的というか、神々しい。


 思わず聞き入っていると、ルイが笑っていた。

 鐘の音に呼応するような微笑みに、胸の奥が疼く。


「ふふっ、ハルちゃんってヤマトに来るの初めて?」


「うん。その……昨日初めて外の世界に出たから」


 それ以外に言いようが無いよな。

 平行世界から来ましたって言って通じるのかな……


「よ、よかったら放課後……街に行かない? 私で良ければ、その……街案内とか……む、無理にとは言わないんだけど……」


 尻窄みになっていくその姿に、疼く心が反応している。

 体の故障かな……?


『駄目です。放課後は遊びに行く時間ではありませんよ? そもそもですね、学業とは──── 』


 長々と、高圧的に講釈を垂れるサクラのせいでルイは涙目になっている。

 放課後は駄目ね……


 俺はルイの手を取り、その場から逃げるように走り出した。

 まぁ、逃げてもサクラは俺の一部だからついて来るんだけど。


「ハ、ハルちゃん!?」


「放課後が駄目なら今から行こうよ。それなら問題無いだろ?」


『ハル様!! それは屁理屈です!!』


「じゃあ三人でデートな。それなら良いだろ?」


『…………良き』


「あははっ。ルイ、案内頼むよ……ルイ?」


「は、はい!! デ、デートなんて生まれて初めて……」


 と言う訳で、授業放ったらかしでヤマト散策に出発だ。

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