二文字の転校生
「あんなに怒んなくてもいいのにな」
あれから夜通しヒロにこっぴどく叱られた。
おかげで寝不足……
っていうか作られた身体なのに、腹は減るし睡眠必須だし……
「不便な身体だよなぁ」
『不完全さこそ、人間の本質なのではないでしょうか。その欠けている部分を人は人間らしさと呼んでいますから。それに、お腹が空いてないのに食べる食事なんて美味しくありませんよ?』
「ははっ、確かにそうだよな。よし、学校に着いたぞ」
初めての授業……どんな人達が学んでいるのだろう。
『ハル様、言葉遣いにご注意ですよ? ハル様はそれはそれは可愛い14歳の女の子。そしてその身体の初めては何れ私が頂くのです』
「おう、サラッと凄い事言ってるぞ?」
“中等A2“ 見たことのない表記だけど多分2年生なんだろうな。
あ、そう言えば……
「この世界でも制服って変わんないんだな。どうして?」
『100年程前に、平行世界から輸入されたモノです。ハル様が昨日壊した月、あれは平行世界と交わる事の出来る装置なのです。年に一回、空が紅く染まる時、平行世界との扉が開かれます』
「へぇ……俺が見たあの空か。って事はあの時俺のいた世界とこの世界は交流してたの?」
『いえ、あの装置を利用してヒロ様が無理矢理ハル様の世界とコンタクトを取ったんです。それは── 』
「ごめん、後でもいい?」
『……心拍数の増加、筋肉の硬直を確認。ふふっ、緊張してます?』
「……人間らしさってやつ?」
教室の前に着く。
大丈夫、俺は14歳の可愛い女の子……
……よし。
意を決して中へ入ると、痛い程の視線を感じた。
ざっと見て50人程はいるだろうか。
椅子のようなモノは宙に浮き、各生徒の前にはモニターが浮かび上がっている。
未来感が半端ないね。
「ようこそ、ヤマト中央校へ。私は担任のネイチャン、宜しくね」
若々しくて可愛らしい先生だ。
ネーちゃん先生と覚えておこう。
手を差し出してきたので握手をする。
これはこの世界でも共通らしい。
「じゃあみんなに自己紹介出来るかな?」
「えー……訳あってこの学校に来ました、ハルと言います。この国に来て間もないので不慣れな所があると思いますが宜しくお願いします」
軽く頭を下げると、生徒達はガヤガヤと騒ぎ始めた。
耳を澄ますと、全員の声が全て聞き取れた。
これもこの身体の能力の一つなんだろう。
「可愛いなオイ……」
「めっちゃタイプなんだけど」
「二文字かー、そこだけだなー」
「青春キター」
主に男共が騒いでいる。
どの世界、いつの時代もこんな感じなのかな。
っていうか二文字ってなんだろう。
後でサクラに聞いてみるか。
「じゃあルイさんの横辺りに座って貰える? ほら、あの後ろの窓際」
言われた方を見ると、女の子が恥ずかしそうに手元で小さく手を振っていた。
昨日文明人から助けた子だ。
「同じクラスだったのか。宜しく、ルイ」
「よ、宜しくね。なんだか偶然だね」
知っている人がいると安心する。
慣れない椅子の座り方に苦戦して、モニターに映し出される授業の内容は、高度過ぎて何がなんだかサッパリ分からなかった。
◇ ◇ ◇
『という訳でお昼休みですね』
「誰に喋ってんの?」
教室を見渡すと、皆どこかへと出かけていった。
弁当じゃないのかな。
「ハルさん、よかったら一緒に食べにいかない?」
「俺も俺も!!」
男十人程に囲まれてランチのお誘い。
なんで野郎なんかと食べなきゃならんのよ。
隣で困っているルイの手を握って一掃する。
「ごめんな、俺この子と食べたいから。ルイ、案内してよ」
「わ、私なんかでいいの?」
「いいのいいの」
悔しがる男共を押しのけて、教室をあとにした。
◇ ◇ ◇
「ごめんルイ、勝手な事言っちゃって」
「ううん、私もハルさんと食べたかったから……」
『なにイチャイチャしてるんですか!!? ハル様、ハル様にはサクラという生涯を誓い合ったフィアンセがいるですよ!!? そこのあなたも気安くハル様に触れないで下さい』
ツッコみたい所だらけだけど、今は面倒なのでやめた。
故障してるのかな……
「わぁ……オーベイだよね? 私初めて見た……」
『ふふんっ!! そうです、私があの全世界に数台しかない内のさらにはハル様専用に作られた世界最高峰の知能をもったオーベイ、サクラです!!!』
「よ、よろしくね……」
『さぁハル様、私が食事処までご案内します!!』
「ルイに頼んだんだしそれは失礼だろ? ごめんなルイ」
「う、うん。こっちだよ」
『この泥棒猫め!! ハル様、本当はサクラの案内が良いのにこの娘に気遣ってるんですよね?』
「はいはい」
◇ ◇ ◇
食堂と言うには広すぎるコレは、レストラン街とでも言えばいいのだろうか。
ルイから聞いた話では、ここだけを利用する為に一般の客が来るそうだ。
俺達学生は全て無料で頼めるらしい。
「すげーな……何店舗入ってんのよ」
『151店舗あります』
「ポケ○ンだな」
『ハル様、今は898匹ですよ?』
なんてフザケていると目の前に人集り。
その群れはどんどんと近づいていくる。
ガラの悪い連中はわざとぶつかる様に通り過ぎてきた。
跳ね飛ばされたルイを抱き寄せると、四方を覆うように囲まれる。
「何だよあんた達は。この子に謝ってくれない?」
「口の聞き方がなってないな。世人は平伏せよ」
世人……って事はこいつら文明人か。
面倒な世界だな、ホント。
「文明人ってのは昼飯の時間邪魔して人にぶつかって来るのな」
「……テメェ、名前は?」
「ハル」
「ハッハッハ!!! コイツ二文字かよ!! 笑わせんなって!!!」
また二文字……
なんだろう、文字数で階級でもあるのか?
文字数とか何人とか、こんなに凄い世界に住んでるのに……
「ホント、ツマンネー奴だな── 」
小さな雷をその場に落とすと同時に、テレポートで包囲網から抜け出した。
奴等から見れば、稲妻と同時に俺達が目の前から消えてみただろう。
「うわっ!! ど、どこに行った!!?」
ルイの手を引いてその場を駆け足で去った。
「昼飯くらいゆっくり食わせて欲しいな。もう少し離れとくか」
「あれ? 私あそこにいた筈なのにどうやって……ハ、ハルさん?」
「ハルでいいよ。さ、何か食べようぜ」
「う、うん……じゃあハルちゃんって呼ばせて貰うね」
『手を離せぇ!! そこは私のポジションなのにー』
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