二文字の転校生


「全く……キミが付いていながらどうしてこんなことになるんだい?」

『接触は時間の問題だったので早いほうが良いかと。それから、ハル様がこちらの世界に来た時点であの装置は必要ないかと思い半壊させました。メールクリオルスのデータも採れたので上々かと』

「初日だよ? 段階ってものがあるでしょ?」

『身に起こるリスクを知らなければハル様に選択肢を与えることが出来ません』

「やり方があるでしょやり方が」

『私はハル様ファーストで考えています。世界がどうなろうが関係ありません』

「でもね──」


 ◇  ◇  ◇  ◇


 夜が明けてもサクラとヒロは口論をしていて、登校時間になるとサクラは『ハゲ』と言い残し俺に付いてきた。


「スゲェ悲しそうな顔してたな」

『分からず屋にはあれくらい言わなければいけません』

「……俺が壊しちゃったから揉めたんだよな? ごめん」

『ハル様に非は一切ありません。ハル様がしたいように、生きたいようにしてください。私は何時だってハル様の隣にいますから』

「……ははっ。なんかプロポーズみたいだな」 

『ふふっ』

 

 わけの分からない世界の中でも一人じゃないと感じられるのは、サクラの優しさのおかげだ。

 しかしまぁ……


「ロボットなのに情動は人並みってのはどうなの?」

『ガワだけです。心はハル様ですから』

「ふーん……完全無欠ってわけじゃないのね」

『不完全さこそ、人間の本質なのではないでしょうか。その欠けている部分を人は人間らしさと呼んでいますから。それに、お腹が空いていないのに食べる食事なんて美味しくありませんよ?』

「ははっ、確かにそうだよな。よし、学校に着いたぞ」


 初めての授業……どんな人達が学んでいるのだろうか。

 俺のクラスは中等A2。見たことのない表記だけど多分2年生なんだろうな。そう言えば……


「この世界でも制服って変わんないんだな。どうして?」

『100年程前に平行世界から輸入された物です。ハル様が昨日壊した月、あれは平行世界と交わる事の出来る装置なのです。年に一度、空が紅く染まる時平行世界との扉が開かれます』

「へぇ……俺が見たあの空か。って事はあの時俺のいた世界とこの世界は交流してたの?」

『いえ、別の世界と繋がっていましたが、あの装置を利用してヒロ様が無理矢理ハル様の世界とコンタクトを取ったんです。それは── 』

「ごめん、後でもいい?」

『……心拍数の増加、筋肉の硬直を確認。ふふっ、緊張してます?』

「人間らしさってやつ?」


 意を決して教室へ入ると、痛い程の視線を感じた。ざっと見て20人程はいるだろうか。

 椅子のようなモノは宙に浮き、各生徒の前にはモニターが浮かび上がっている。

 未来感が半端ないね。


「ようこそ、ヤマト中央校へ。私は担任のネイチャン、宜しくね」


 若々しくて可愛らしい先生。ネーちゃん先生と覚えておこう。

 手を差し出してきたので握手をするけど、これはこの世界でも共通の挨拶らしい。


「じゃあみんなに自己紹介出来るかな?」

「えー……訳あってこの学校に来ました、ハルと言います。この国に来て間もないので不慣れな所があると思いますがよろしくお願いします」


 軽く頭を下げると、生徒達はガヤガヤと騒ぎ始めた。耳を澄ますと、全員の声が全て聞き取れた。これもこの身体の能力の一つなんだろう。


「ガチで可愛いなオイ」

「めっちゃタイプなんだけど」

「二文字かー、そこだけだなー」

「青春キター」


 主に男共が騒いでいるが、どの世界いつの時代も似たようなものなのだと笑ってしまう。

 っていうか二文字ってなんだろう?


「じゃあルイさんの横辺りに座って貰える? ほら、あの後ろの窓際」


 言われた方を見ると、女の子が恥ずかしそうに手元で小さく手を振っていた。昨日文明人から助けた子だ。


「同じクラスだったな。よろしく、ルイ」

「よ、よろしくね。なんだか偶然だね」


 慣れない椅子の座り方に苦戦して、モニターに映し出される授業の内容は高度過ぎて何がなんだかサッパリ分からなかったから、窓から空を見上げて昼寝した。

 

 ◇  ◇  ◇  ◇


『という訳でお昼休みですね』

「誰に喋ってんの?」


 教室を見渡すと、皆どこかへと出かけていった。弁当じゃないのかな?


「ハルさん、よかったら一緒に食べにいかない?」

「俺も俺も!!」


 陽キャ五人衆に囲まれてランチのお誘い。

 どうやって断ろうか考えていると、ルイが隣で縮こまって俯いていた。そんなルイの手を握って一掃する。


「ごめんな、俺この子と食べたいから。ルイ、案内してよ」

「わ、私なんかでいいの!?」

「いい   のいいの」 

 

 悔しがる男共を押しのけて、教室をあとにした。


 ◇  ◇  ◇  ◇

 

「ごめんな、勝手な事言っちゃって」

「ぜ、全然!! わ、私もハルさんと食べたかったから……」

『ハル様、いくら女生徒といえ距離が近過ぎます。もう少し警戒してください』

「まぁまぁ。ルイは大丈夫だろ」 

「わぁ……オーベイだよね? 私初めて見た……」

『サクラと申します』

「よ、よろしくね」

「……なぁ、機嫌悪くない?」

『気の所為です。ハル様、こちらが食堂です』


 食堂と言うには広すぎるコレはレストラン街とでも言えばいいのだろうか。

 ここだけを利用する為に一般の客が来るそうで、俺達学生は全て無料で頼めるらしい。


「すげーな……何店舗入ってんのよ」

『151店舗あります』

「ポケ○ンだな」

『ハル様、今は1025匹ですよ?』


 なんてふざけ合っていると、嫌な空気感が鼻に付く。十人程の人集りが当たり前のように道のど真ん中を歩いてきた。 

 連中はわざとぶつかる様に通り過ぎ、跳ね飛ばされたルイを抱き寄せると四方を覆うように囲まれた。


「なぁ、この子に謝ってくれない?」

「口の聞き方がなってないな。世人は平伏せよ」


 世人……って事はこいつら文明人か。


「どうでもいいから謝ってよ」

「テメェ、名前は?」

「ハル」

「ハッハッハ!!! コイツ二文字かよ!! 笑わせんなって!!!」


 また二文字……

 なんだろう、文字数で階級でもあるのか?

 文字数とか何人とか、こんなに凄い世界に住んでるのに──


「ホント、つまんない奴だな」


 小さな雷をその場に落とすと同時に、テレポートで包囲網から抜け出した。

 奴等から見れば、稲妻と同時に俺達が目の前から消えてしまった感覚だろう。


「うわっ!! ど、どこに行った!!?」


 デコピン一つしようかと思ったけど、腹も減っているのでルイの手を引いてその場を駆け足で去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TSアンドロイド ハルちゃん @pu8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ