宣戦布告


「バトル物なんて聞いてないけど!?」


『ハル様、距離を保ちつつ戦いたい所ですが街への負担を考えると至近距離での戦闘が不可避です。相手の攻撃をよく見て避ける。これを繰り返しましょう』


「それじゃあ倒せないけどいいの?」


『小手調べですよ。相手方のデータも欲しいので、とにかく避けてください。来ます』


 瞬きをする間、ほんのコンマ何秒だろう……

 10メートルは離れていたであろう距離から、いきなり目の前に現れた。

 青白い髪をした……男か?コイツ……


『速い……これ程までに仕上がってるとは……』


 捕獲と言っていた通り、ヤツは俺を掴もうと動いてくる。

 速いけど……なんだろう。

 俺の方が速くない?


「サクラ、余裕で避けられるよ。すげーなこの身体!!」


『それはもうハル様ですから。相手も全力では無さそうですね。せっかくですから一撃ブチかましましょう』


 ヤツの手よりも速く拳を腹にめり込ませる……筈だった。

 めり込むどころか、拳はそのまま腹を突き破った。


「っ!!? サクラ……俺人殺しになっちゃうよ……」


『大丈夫です。相手もハル様と同じアンドロイド。自己修復機能がついていますのでご安心下さい。それと、彼に自我はありません』


「自我がないって……」


『その辺に建っているビルだと思って下さい。いいですか?』


「お、おう……」


 そんな事言われてもな……

 どう見ても人間だし……痛くないのかな……


『やはりアナタにして良かった……ハル様、私がデータを取り終わるまで避け続けて下さい』


「それなら得意だよ。ホレっ!!」


 テレポートでヤツの背後に回る。

 まるで大人と子供の鬼ごっこ。


 ヤツは諦めたのか息を荒らげながら後退りしている。

 

『ハル様、避けて下さい!!!』


「へ?」


 上空に巨大な光の玉。

 ソレは周囲の建物を巻込みながら大爆発を起こした。


 ◇  ◇  ◇


【…………目標の生存を確認】


「いやー、死ぬかと思ったわ」


『ハル様……いつの間にそんな術を?』


 俺達の周りを囲む見えない壁。

 まぁ何でもありな身体だとは思ってたけど正解だったな。


「鬼ごっこってさ、バリアが使えるんだぜ?」


『ハル様……私、濡れちゃう』


「どこが濡れるんだ、どこが」


【強力な電磁場を確認。不可能な技術。データを送ります】


 ヤツは立ち止まり、空を見上げている。

 小声で誰かと会話をしているようだ。

  

「よし、じゃあ今のうちに帰るか」


『何言ってるですか!! やられたんですからやり返しましょう!!』


「最高峰の頭脳が言う台詞じゃないぞ?」


『メールクリオルスを通して文明人がハル様を見ている筈です。これは…………ヒロ様達から彼らへのメッセージ。ハル様、全力でブチかましましょう』


「……アイツは再生出来るんだよな?」


『保証は出来ません。ハル様の力が如何ほどかも定かでは無いので……』


「……この身体の力を見せつけられればいいんだろ? じゃあ俺のやり方でやらせてもらうよ」


 強力な一撃。

 何かイメージ出来る言葉があれば何とかなりそうな……

 よしっ!!


「俺のこの手がまっ── 」


『ハル様、パクリは……』


「……衝撃のぉ、── 」


『ハル様、そうではなくてですね……』


 ◇  ◇  ◇


 15分後


「めんどくせぇな!! もうこれで行くぞ!?」


『行っちゃいましょう!!』


 俺を逃さないと監視しているヤツの背後にテレポートで回り込み、そのまま全力で上空に放り投げた。

 それを追うように、俺も空高くジャンプする。


 未来都市の壮大な夜景を背に、ヤツは2つの月を背に。

 

「俺の名前はハル。この顔、よく覚えとけ」


『フゥ〜、ハル様カッケー♪』


 この身体、何でも出来る訳では無い筈。

 先程ヤツが言っていた電磁場という言葉。

 つまりは何かしらの現象が起きたからバリアが使えたのだろう。

 まぁ俺はバカだから粒子とか原子とか言われても理解出来ないのだろうけど……

 人が想像出来る事なんて、いつかは実現する筈だ。

 

 だから俺の手からエネルギー波が出たっておかしく無い…………よね?


「よっしゃ、行くぞ? ハルちゃん…………ブラストッ!!!」


 前に突き出した掌から放たれた巨大な波動砲。

 目的はヤツ……の真横に位置する2つの月。

 ヤツが振り返った瞬間に着弾し、片方の月を3分の1程破壊した。


「うっし、帰るか」


 ◇  ◇  ◇


「お帰り。随分遅かったね」


「あぁ、月ぶっ壊してきたからな」


「…………ふぁっ!!?」

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