命名、サクラ


「で、文明人ってのが悪さしてるからこのロボットの身体で戦えって事?」

「アンドロイドね。その身体には様々な機能がついている。乱暴な言い方だが、この星の何よりも強いだろう」


 正直、争い事とか好きじゃない。

 権力とか腕力とか無縁な人生だったし……せっかくこんなに凄い世界に来たんだから── 


「それから、戦うかどうかはキミが決めなさい」

「えっ? いいの?」

「キミのその目で、この世界を見てきて欲しい。教えなきゃいけない事は山程あるが……都度オーベイが教えてくれるだろう」


『まずはハル様の言語をこの星のモノに切り替えましょう。出なければ口から名前を発する度に街が無くなります。私に触れて下さい』


 言われた通りに触れると、頭の中が一瞬光った。何かと言われると分からないけれど、その何かが切り替わった感覚がする。


『変更完了です。日本語で聞こえていると思いますが、私はこの世界の言葉で話しています』

「へー……初めからそうしておけば良かったんじゃないの?」

『そのお身体はハル様のモノですから、無垢な状態でお渡ししたかったのです。お陰で最強の名前になりましたね』


 まさかそこまで計算して……いや、考えすぎかな。自分で付けた名前だし愛着が湧くし、前途有望だ。


『表向きはこの国のハルで登録しておきました。ではハル様、行きましょう』

「行くってどこに?」

「学校だよ。制服着てるでしょ? 頑張ってね」

「マジかよ……」


 ◇  ◇  ◇  ◇


 外へ出ると、そこには想像以上の未来都市が広がっていた。どこまでも続く摩天楼は地を離れ宙に浮いている。

 乗り物は当たり前のように空を飛んでいて、高さによって進行方向が決まっている様だ。

 ゴミ一つ落ちていない、区画された綺麗な街並み。俺達の世界とはレベルが違う。


「凄いな……俺がいた地球は土人レベルだったのか」

『文明人も、元は遺伝子操作で作られた人類でした。それから数万年この星で栄えてきたのですから、差は出て当然かと』

「えっ? じゃあもっと凄いヤツがいるの?」

『宇宙には数え切れない程います。所詮、人類は叡智を授かっただけにすぎないのです。西の空を見てください』


 摩天楼を掻き分けて見上げるとそこには月が…………いや、随分大きくない?っていうか遠くに見慣れた月があるんだけど……


『遠くにある物は正真正銘の月です。手前に見えるもう一つは、宙の民がこの星に授けた叡智……あの赤い空を作り出す為の装置です』

「宙の民とかスケールがデカすぎて頭に入ってこないや。腹減ったな」

『ハル様は難しい事が苦手ですから、またお話しますね』

「おう、言うね」


 ◇  ◇  ◇  ◇


 学校への道すがら、この世界の基本的なことを教わる。テレパシーがあるから俺の思ったことを汲み、噛み砕いて説明してくれる。

 

「ねぇ、オーベイ……あれ? オーベイって名前とかあるの?」

『ありません。そのような概念はこの世界には存在しませんので。機械に自我を持たせてはいけない決まりになってますから』

「自我……心ってこと? でもさ、せっかくこうやって一緒にいるんだから呼びやすい方が…………そうだ! サクラってのはどう?」

『サクラ……ハル様の世界で春に咲き誇るあの植物ですか?』

「そうそう。俺が春だろ? だから桜。一体感あるし、どう?」

『サクラ…………では、これよりサクラと名乗らせて頂きます』

「おう。よろしく、サクラ」

『…………ふふっ。はい』


 ◇  ◇  ◇  ◇


『ハル様、ヒロ様から連絡です。繋ぎますね』

「こちらハル、どうぞ」

【キミね!! どこにいるの!!? 学校から何回も連絡来てるんだけど!!!?】

「サクラとお茶してるけど?」

【バカなの!!? サクラって誰よ!?】

『私です。ハル様をバカ呼ばわりしないで下さい。次に呼んだら社会的に抹殺しますから。覚えておきなさい、このツルッパゲ野郎』

【ハ、ハゲてないもん!! まだ両サイドに── 】


 どうやらサクラが強制的に通信を切ったらしい。ヒロの髪型は、ツルッツルのゆで卵に鳥の巣がついたような髪。

 ……気にしてたんだな。


『では参りましょう』


「どう見ても自我有り有りな感じするけど?」

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