命名、ハル
「ではこの世界について説明しよう!」
「急だな」
「この世界はキミがいた世界から見た所の
「
「例えばキミが魚屋に魚を買いに行ったとしよう。秋刀魚か鯖で迷ったキミは、迷った挙げ句秋刀魚を買った。それがキミのいた世界。そしてこの世界は鯖を買った世界だ」
「……ちょっとズレた世界って事か」
にしてもアレだな……
可能性だけでこんなに世界が違うもんなのか?
「そう、根本的な所が違わない限りそこまで世界は変わらない」
「……その心を読むやつは何?」
「テレパシーと言えば分かりやすいだろうか? この世界はね、所謂第六感というモノが発達した世界なんだ」
「平行世界にテレパシーね……で、次は何が出てくるんだ?」
許容範囲を超えすぎた世界に頭がついていかない。読んだことのないオカルト雑誌を読まされている気分だ。
「そして根本的に違う事。この世界は超古代文明が今に至るまで一度も滅ぶ事なく、この星で繁栄し続けてきたんだ」
へぇー。すごーい。
「少しは考えなさい! で、この星は超古代文明を作ってきた張本人である
空がキレイだなぁ。
「キミねぇ……まぁいいや、とりあえずキミの名前を登録しなきゃいけないから。手を前にかざしてみて」
「…………わっ? すげぇ、なにコレ」
目の前に黄緑色のモニター?が現れる。
まさにSFだな……
「僕コーヒーいれてくるから、後は頼んだよ」
「頼んだってどうすれば── 」
『こんにちは。私はアナタ様専属のオーベイです』
目の前のモニターから声がする。
それはスイスイと意思を持つように、俺の周りを飛び交っている。
「よく分かんないけど凄いな……オーベイって何?」
『この世界で数台しかない、超高性能人工知能です。アナタ様をお守りする為に、私は作られました』
「へぇ、この体がそんなに大事なの?」
『この世界の叡智が詰められたアンドロイド、それがアナタ様です』
「……高性能なんだよね? この世界の事を端的に教えてくれる?」
『分かりました。文明人はこの星を繁栄させる為に、奴隷として新たな人類を作りました。
「おー、分かりやすい。あのオジサン長ったるいんだよね」
『年をとる事は罪深いですね』
「ははっ。ねぇ、名前を登録するって言ってたけど……なんで?」
『この星では、名前に使われる言葉によってイクスと呼ばれる超能力の量や方向性が変わっていきます。長年積み重なった言葉には魂が宿り、言魂として大きな力が備わります。その言魂から名前を決める事が、この世界では義務付けられています』
「なるほど……どんな名前がいいかなぁ」
『こちらが一覧です。左が日本語、右がこの国の文字になります』
マリ……カヤ……タマ……ポチ……
どれも二文字の、パッとしない名前達。
せっかくの可愛い女の子なんだし、可愛い名前がいいよな。
「……ねぇ、今って何月?」
『アナタ様の世界で言うところの四月です』
「四月か……決めた! 俺の名前は── 」
名前を伝えた途端、足元から蠢くような地鳴りが聞こえた。空からは轟くような雷鳴。窓の外は暴風雨が吹き荒れている。
「な、なになに!!?? キミ何したの!?」
コーヒーをこぼしながら勢いよく戻ってきたオジサン。こんな世界だけどコーヒーって変わらずに存在するんだな。
「いや、名前を決めたんだけど……」
「なんて!!?」
「ハル」
その瞬間、眩いほどの光りと共に雷が落ちた。
見たことのない雨粒達が建物を叩きつけている。
「ハル……hal…まさか繝上Νかっ!!?」
「まぁまぁ、落ち着きなよ。文字化け起こしてるよ?」
『更年期でしょう』
「おバカ!! キミの登録した名前はね、文明人が万年恐れてきた言葉なんだ!! 途方も無く強い言魂……リストの中には無かった筈なのに……」
「いやぁ、四月だし。ハルって感じしょ?」
遠くで何発もの爆発音が聞こえる。
これはいよいよヤバいかな。
「キミね!! その名前を呼ばないで!!」
「ハルって?」
「えっ!!? バカなのっ!!?」
『警告です。大量のエネルギーがこの場で圧縮し始めました。三十秒後に崩壊し、五十キロ圏内全てを破壊します』
「終わった……始まる前に終わった……」
『\(^o^)/オワタ』
「オーベイ、なんかいい方法はないの?」
『ハル様は空間移動、テレポーテーションが使えます。この写真を見て下さい。強くこの景色をイメージして下さい』
長閑な山脈、空は青く鳥の囀りが聞こえてきそうな素晴らしい写真だ。
「いや、こんな状況で無理でしょ? 何故この写真をチョイスしたの?」
『大丈夫です、落ち着いて下さい。ハル様なら出来ます』
「……オジサン、そのコーヒー頂戴」
「はい、最後の晩餐」
コーヒーの良い香りが駆け抜けていく。
朝の一杯、こういった落ち着きが俺には必要だったのかもしれない。
『ハル様、もうお昼です。爆発まであと十秒』
「急かすなって…………よし、イメージ出来てるよ!」
『強制手段です。テレポートと叫んで下さい』
「テレポート!!」
瞬きした瞬間、周りの全てが吹き飛んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「……あれ? もしかして失敗した感じ?」
『成功です。無事あの山脈を吹き飛ばしました。文明人に見つかる前に戻りましょう。先程の部屋をイメージしてテレポートと叫んで下さい』
「それって無事なのか? ……よし、テレポート!」
◆
「おかえり。いやー、良かった良かった」
部屋に戻ると、オジサンが嬉しそうにコーヒーを啜っていた。あれ程荒れ狂っていた窓の外はとても穏やかだ。
「遅くなったが……私はヒロ。宜しく」
「なんか照れくさいな。俺は……ハル。ハルだ。よろしく」
『爆発まで二十秒』
「えっ!!? バカなの!!?」
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