TSアンドロイド ハルちゃん

@pu8

トイレの窓から平行世界


 それは、いつもと変わらない朝だった。

 顔を洗って、嗽をし、トイレに行くまでは。


 トイレのドアに鍵が付いていないのは何故だろう。それから……窓の外が異様に赤い事も気になる。

 

 壁に貼られたカレンダーは、文字化けを起こし気味が悪い。


 それと、さっきからスマホの着信が止まらない。


 恐る恐る見てみると、スマホも文字化けを起こしている。

 

 いつもとは違う非日常に興奮してしまった俺は、ついその電話に出てしまった。


「……もしもし?」


【あー、聞こえますか? 言葉、分かりますか?】


 老人の声……言葉?


「あの、何のようですか?」


【フーッ!! 成功だ!! ここまで長かった……が、しかしこれからが── 】


 電話越しでも興奮が伝わってくる。

 情報が多すぎて訳がわからない。


【ならば訳を説明しよう!】


「そうして貰えると助かるんですが……あれ? 今俺喋ってない……よね?」


【まずはその奇っ怪な文字だが、それはこちらの世界の文字。その真っ赤な空もそうだ。それから── 】


「いやいや!! えっ!? ドッキリ?」


【全て存在する事実だ。気になるでしょ? そのトイレの窓を開けてご覧】 


 なんの疑いもなく、窓を開ける。

 そういえばこの窓、格子が付いてた筈だよな……


「わぁ……す、すげぇ」


 どこまでも広がる巨大な摩天楼。

 見たことの無い乗り物が、空を駆け回っている。

 昔どこかで見た、SF映画のような未来都市。


「これは未来の世界か!? なぁ、あれはどうやったら── 」


【気になる? 気になるでしょ!? じゃあ来なよ、その窓の外へ!】


 すんごい気になるけど……

 仕事行かなきゃだしなぁ……

 帰ってきてからでも……


【この赤い空はあと数分で終わる。そうしたら、もうこちらの世界へは来れないだろう】


「なんだよ……行くしかないじゃん」


【ただ一つ! こちらに来たら、二度と戻れないよ。さ、おいで!!】


「行けるか!!」


 でも……こんなにワクワクしたのはいつぶりだろうか。

 忘れていた子供心、男はいつだって冒険がしたいもの。


【キミ、そんなんだから彼女出来ないんだよ】


「うっさいな!! 人の心を読むな!!」


 行ってやろうじゃないの!!

 勢いよく窓に手をかけ、摩天楼目掛け飛び出した。


 その瞬間、自分の姿を空から見るという不思議な現象が起きた。

 まるで幽体離脱のような……

 そのまま俺の肉体は消滅し、同時に視界はシャットダウンされた。


    ◇ 


 ぼんやりとした光が見える。

 ここは……どこだ?


 目が覚めると、可愛らしいベッドの上にいた。

 やけに身体が軽いな…………え!!?


 か細い手、薄桃色の肌。

 誰だこれ……俺じゃない……


 周囲を見回すと、薄いスクリーンのようなものが浮かんでいた。 

 触れると、鏡のように反射した景色を映し出す。


 桜色の髪。長さは肩まである。

 肌は色白で碧色のパッチリお目々。


 ……


「なんじゃこりゃー!!!?」


「おや、目が覚めたかね。具合はどうだい?」


「いや、どうもこうも……ってその声はアンタ電話してきた……」


「ふっふっふ。どうだい、その身体は。可愛いだろう?」 


 駄目だ、頭が上手く回らない。

 一つ一つ整理していこう。

 えーっとまずは……


「ちなみにキミ女の子になったから。宜しく」


 マジかよ…… 


「マジだよ」

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