変態百出
前髪を切った
先見えぬ将来への不安を隠すために、現実から目を背けるために、過去から逃げるために、ずっと伸ばしていた前髪を切った。切れば何かが変わるのではないか、と少しだけ期待を胸に抱いていた。欲を言うと何かを変えてみたかった、自分の力で、頭で。
「何かを変えるには先ず自分が変わらないといけない」
そんな誰が言ったかも分からない、成功者が好きそうな言葉を真に受けて前髪を切った。
私は変わったのに世界は変わらない。今日も視界は真っ暗で何も見えない、迷子だよ。
結局私一人が変わろうとしたところで、変えようとしたところで、何も変わらないんだよ。そりゃあそうか。私みたいな何の影響力も持たない人間が髪型一つ変えたところで世界を、他人を、知人を、ましてや自分のありかたを変えられるわけがない。なんて烏滸がましいことをしていたのか、考えていたのか。自分が恥ずかしい、殺してくれ。私中心に回らない世界なんてくそ喰らえ。
何かを変えてみたかったなんて大層なこと言っているが、変えたかったのはきっと自分だし、前髪を切ったのをきっかけに外見以外の私の何かも変わるかもしれない、変えたい、そう思っていたからだ。そう思って頑張ってきた人は日本に、いや、世界に腐るほどいる。努力した結果何者にもなれず、何も変われず、何も変えられず朽ちていった。名前を残すことすら許されないまま、この世から消えていった。努力するだけ無駄じゃないか。身を粉にした結果何も得られず消えていくこの世界が嫌いだ。世の中が変われよ。
馴染めなくて苦しんでいる人、死にたがっている人、悩んでいる人が変えようと頑張るだけじゃ駄目なんですか、足りませんか。少数派が何か騒いでいると鼻で笑われてお終いですか、そうですか。だったら死んだほうがましですね、さようなら。
そんな汚い、不適合な想いを消すために、社会に溶け込むために、前髪の次に腕を切って、なんとなく伸ばしていた他の髪もバッサリ切った。変わりたいという私の想いはきっとその程度のものだったんだ。自分の容姿を変えるだけで満足してしまう自分が憎い。辛い思いをして自分を捨てるか、辛い思いをして自分らしく生きるか、きっと正解なんてないしどっちを選んでも苦しい。苦しまないで自分らしく生きる、それが私にはできなかった。強い人はきっと自分自身を貫いて、それを一般化する。自分の生き方を当たり前にする、それすらもできない惨めな私。周りになんと言われようとそれを貫いて少なくとも、自分にとっての当たり前にすればいいのに、全てを捨てて逃げ出した。自分が間違っているとは思わない。でも、私にとっての正解へと導いてくれる人が、物がないから、どうすることもできない。少数派にはなれなかった。マイノリティーにもマジョリティーにもなれないそんな世界。
くそ喰らえ、弱い私。
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