逃亡

 走って、走って、走って……ただひたすらに走り続ける。ここはもう安全ではない、見られてしまう前に急いで逃げるんだ。余計なことは考えるな、考えている暇があったら足を動かせ、腕を振れ、逃げろ、逃げろ、逃げろ……


なんでこうなってしまったのか、誰にもわからない、否、私にはわからない。こんなはずじゃなかったのに、全てはあいつのせいだ……あいつが打ち明けていなければこんなことにはならなかった……。それとも、信じて話した私が間違っていたのか。

「未逮捕殺人犯のむすめ

この言葉の強さを、重みを知っているか? 知っているわけがないか。この言葉一つで私の人生は終わった。父親をかくまっているに違いない、娘も殺しているに違いない、根も葉もないことをたくさん言われてきた。私しか事実を知らないのだから仕方がないと思いながら生きてきた、でも、限界だった。18になったとき私は今まで根も葉もないことを言ってきた人たちに本当のことを伝えた。信じてもらえたかはわからないが、私が一人で暮らしていることと、アルバイトを掛け持ちしながら学校へ行っていることで納得はいったのだろうか、ひどいことは言わなくなった。それだけで私は嬉しかった。父は誰も殺めておらず、その事件で私を庇って死んだのが私の父だ。犯罪に詳しくないからどうして被害者と容疑者が入れ替わってしまったのかはわからないが、これが事実だ。本人が事実を打ち明けても聞いてもらえないのに、赤の他人の言った根拠のない言葉はみな信じる。どうせ誰もわかってくれない、だったら私だけがわかっていればいい……それなのに邪魔されてしまった。マスコミ様様だよ本当に……。付き合って6年になるあいつに自分は殺人犯だと言われている男のむすめだと打ち明けたら、次の日にはこの様だ。人の不幸は蜜の味って言いますもんね。10数年経ってやっとみんなが忘れ始めたときにまたマスコミが爆弾を投下した。私はもうこれまで通りの生活はできないし、きっと警察がまた話を聞きに来る……端から私を信じるつもりなんてないくせに。生きるってなんだ、幸せってなんだ、当たり前ってなんだ……何回も何回も考えたが答えが出ることはなかった。もうこんなことを考えるのもこれで終わりだね。

 父さん、だれが何と言おうと私は父さんのことを誇りに思っているよ。私を守ってくれるのは父さんだけだから……今から逢いに行きます。


私の人生拍手喝采、round of applause.



文字書きワードパレットより

12アプロウズ(急ぐ 告白 終わり)

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