18

「18」という数から何を思い浮かべるか。

成人、自立、進学、r-18……とたくさんあると思う。人によって思うことは違う、みんな同じでいなきゃダメという決まりはない。そのため普通とは違う、少しかわった考え方をする人もいる。私は18という数から少しかわったかことを考えるタイプの人間だ。

18は私にとって死だ。

 私は18で死ぬ。9月23日、自分の誕生日に首を吊って死ぬ。自分の部屋で自殺するつもりだ。約4年前、私が14歳になった夜にひっそりと心に誓った。私は死にたがり、誰か私を殺してくれないかとずっと願っている。

 家族や友人とうまくいかず、教師にもあまり好かれておらず、毎日を無駄にしている。だらだらと過ごすよりは死んだほうがいいと思っている。理由は他にもあるが、これが一番大きな理由だ。

 

 今日は9月17日。あと6日、ついに一週間をきってしまった。4年という年月は長いようで短く、あっという間だった。失敗したらどうしよう、見つかるのに5日以上かかったらどうしようできるだけきれいな状態で見つけてほしいんだよな……。遺書か何かを書いておくべきか、何を着るべきか、やっぱり制服の方が良いのか。不安なことはいっぱいある。でも、失敗するわけにはいかないのだ。どうせ母さんは心配してくれない。兄さんも私のことなんてどうだっていいと思っているに違いない。私たち3人はお互いに興味がないのだ。血はつながっているが母と兄は私をいないものとして扱っている。いつからかは覚えていないし、どうでもいい。ただ、2人は私のことが嫌いらしい。小さい頃、私も少しは他人のこと、他人の目を気にしていたことはあったが今は全くない。

 父さんがいなくなってから何とも思わなくなった。父さんはある日突然、姿を消した。母に何か知らないか、連絡は取っていないのかと何度も聞いたが、答えてくれることはなかった。もう他人に興味をもたない、信用しないと私はその時自分の心に誓った。

 生きていても誰も私のことなんて気にしない。きっと私が死んでもそれは変わらないだろう。存在感が薄く、特徴もない。こんな人間なんかが死んだところで何も変わらない。

 そうこうしているうちに、誕生日の3日前になっていた。あと3日で私の誕生日。あと3日で私は死ぬ。

 珍しいことに今日、母が私に話しかけてきた。

「誕生日に欲しいものはなに?」と、本当に私に聞いているのかと思い周りを見渡してみたが私以外に誰もいなかった。機嫌が良いにしてもおかしくないか? この17年間母とはまともな会話をしてこなかった。

「家族」としての話は幼少期に数回した程度だ。母は私の顔を見ると、ものすごく不機嫌になる。兄といるときはずっと笑顔でいるのに……。学校へ行く時も朝早くに家を出て、母が帰ってくる前に自分の部屋に入る。生活をするのに必要なお金を渡してくれていたから、食事などはどうにかなった。1日2食、朝と昼はコンビニのお弁当やパンを買い、1人で食べていた。

 そんな人が急に部屋に入ってきて、欲しいものはないか、と聞いてきた。同じ空間にいるのも嫌で、死んでほしいと言っていたのにそんなことを聞いてくるのは正直、気持ちが悪い。私は携帯が欲しい、と恐る恐る言ってみた。そんなもの必要ない、いらないと言われると思っていたがすんなりとOKをしてくれた。

「一緒には買いに行けないから買っておくね、どんなのが欲しいの?」と聞かれたとき、本当に買ってもらえるとは思っていなかったため何も考えておらず、後で紙に書いておくと答えた。どうせ死ぬんだからそんな新しくなくてもいいと思い、2年程前に発売されたものにした。珍しく機嫌の良い母、これからもずっとそうであればいいのに。母には申し訳ないが私は携帯をもらったその日に死ぬ。携帯一つでかわるほど弱い決心じゃない。3日後の今、私はもうこの世にいない。

 母が部屋を出るときにふと見せた、悲しく辛そうな顔から目をはなすことができなかった。

 あっという間にその日は来た。いつもと何一つ変わらない朝を迎え、今日という一日が始まった。最初で最後の18歳。学校へ行き、帰って少ししたら消えようか。今日少女が1人自ら命を絶とうとしているのに私の周りは何も変わらない。

 せっかくだし、いつもとは違うものを食べて帰ろうと思い、いつも行っているコンビニとは逆方向にある店に向かうことにした。最後にコンビニのお弁当以外のものを食べたのはいつだろう。ふと、そんな疑問が頭の中に浮かんだ。父さんがいなくなったのが10年くらい前だから7年くらいかな……。食に対してのこだわりはもとからあまりなかったから気にすることはなかったが、よく同じクラスの女子が「毎日コンビニ弁当って可哀想だね」と言っていたのを覚えている。コンビニ弁当の何がいけないのか、胃に入れば全部一緒なのにどうしてそこまで食にこだわるのか、私にはわからない。トリュフやフォアグラもそうだ。消化されて下から出てくるだけなのに。あんなばかみたいに高いお金を出す価値はあるのか、他にお金を使うものはないのか貯金はしなくてもいいのか。そもそもそういう人はお金持ちか……。 

 お金をたくさん払って美味しいものを食べるより、安くて美味しいもの方が普通は嬉しいんじゃないのか。高くて美味しいのは当たり前じゃないか。高いパソコンの方が安いパソコンよりもたくさんの機能があって長持ちするのと同じじゃないか。と、無駄なことを考えながら私は黙々と食事を口にした。初めて一日で食べ物に使った合計の金額が5千円をこした。いつもは千円も使わないから、少しドキドキした。

 時間は瞬きをするかのように過ぎ、気づけばもう23時を過ぎていた。さぁ、家に帰ろう。なぜかはわからないが、いつもより足取りが軽かった。家に帰れば自由になれるからか。明日が来ないということを私はこんなにも楽しみにしている。期待に胸がいっぱいで口元が少しニヤッとしてしまいそうだ。やっと……やっと私は死ねるんだ! 興奮しないわけがないだろ! 4年間……4年も待ったんだ! そして今日、ついに、私の夢が叶う!

 こんな時間なのに家の電気が付いていない。誰もいないということか? 

鍵を開け、居間に行くと、何かがぶら下がっていた。ぶら下がったものを確かめるために私は電気を付けた。

 驚いた。何でこんなことになってしまったのか。私の計画をずっと、ずっと前から知っていたかのように母と兄が2人並んで首を吊っていた。怖くはなかった。嬉しくも悲しくも、何ともなかった。なのに涙が止まらなかった。私は泣きながら、笑っていた。自分のことが一瞬わからなかった。しばらく自分の感情がコントロールできなくなっていた。

 しばらくして、辺りを見渡してみると、テーブルの上に手紙のようなものが置かれているのに気付いた。私に向けて書かれた手紙だった。


陽莉へ


 今までごめんね。辛い思いいっぱいさせてきたよね。

謝って許されることじゃないのはわかっている。だから、春斗と一緒に死ぬことにしたの。死んでどうにかなるわけでもないけど、許してほしいな。

 陽莉が欲しいって言っていた携帯、買っておいたよ。いっぱい使ってね。

 こんな遅くに手紙でなんかで伝えることじゃないけど、今父さんは仕事で遠くにいるの。今日か明日帰って来るはずだからちゃんと家に入れてあげてね。ずっと黙っててごめんね。

 最後に……18歳おめでとう。


                                                                                                                       陽子より


 無責任すぎる……こんなのおかしいよ。ねぇ、母さん。

「ただいま」

生まれて初めてこの言葉を口にした。今まで言おうともしなかったのに……。

「ねぇ、ただいま……ただいまって言ってるじゃん! 答えてよ……お母さん!」

死人が話すわけがなく、家の中に自分の声だけが響きわたる。何で最後の最後で私の邪魔をするのか、これだと遺書を書いた意味がないじゃないか。びりびりに破き、その場にばらまいた。携帯の電源を入れて、メモを開いた。「お母さんありがとう、ごめん」と打ち、自分の部屋に行った。私の机にまた、手紙……兄からの手紙が置いてあった。内容は母のと同じだが、最後に「俺はずっとお前が羨ましかったよ」と書いてあった。

 もうやり残したことはない……さようなら。そして、おやすみ。



『広島県に住む家族が9月23日に集団自殺と思われることをしました。母、藤坂陽子43歳と息子の春斗20歳は首を吊り、娘の陽莉18歳は自分の体を10ヶ所ほど刺し、包丁が刺さったまま亡くなったそうです。

娘の部屋を調べたところ、彼女の携帯電話から母親へのメッセージと思われるものが出てきました。母陽子と息子の春斗が娘へ書いた手紙もあり、その周りには遺書が破かれたものが置いてありました。

藤坂家は父である藤坂正希44歳が長い間仕事で家を空けていたが、娘の18の誕生日の日に終わり、ちょうど帰ってきていました。家に入ったら居間で妻と息子が死んでおり、娘の部屋に行ったら娘も死んでいたと言っていました。

警察はこれから動機などについて詳しく調べる予定です。』

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