23話 反対票
評議が終わり再び呼ばれた。
「オリヴィア嬢、悪くない提案だったと思う。俺は賛成だ」
エセルコットは賛成票。
「ウチもオモロいと思うわ。賛成っちゅうことでよろしゅう」
リサさんも賛成票。
「反対だ」
エウロパは反対。
ここまでは予想通り、このままいけば問題なく可決しそうだ」
「いい話だと思いました。ただ僕は反対に入れさせてもらいます。すみません」
……!?
まさか、ここでアルジェルが反対に入れるとは思わなかった。
好感触で賛成から反対に変わるならエセルコットだと思ってた。
「アルジェルはんは反対かいな、どないしたんや?」
「こっ、これは考えた結果、反対したと思っただけで……」
「へぇ、考えた結果ねぇ、なんや聞かせてほしいなぁ、その考えとやらを」
「リサ、考えは各々で他者の出した票に文句を言うのはルール違反ではないかね」
「ちゃうやんけ、反対票はええから、どうして反対になったかを聞いとんねん」
リサさんの目がアルジェルを睨みつける。
「同じことだと思うがね」
「あぁ?」
リサとエウロパが睨み合う中でアルジェルは縮み込んでしまっている。
「そっ、それは……」
「静粛にしろ、まだ決議の途中なんだぞ。リサ、エウロパの言う通り、各々の出した票に対してその考えを言わなければいけないルールはない。気になるんだったら議会後にでも聞けばいい」
「ちっ……」
今にも殴り合いが始まりそうな険悪な雰囲気はエセルコットの声でとりあえずは落ち着いた。
今は賛成、反対が同票で後は一度も会うことのなかったジェフリー次第ということになってしまった。
ジェフリーはふくよかな体に糸目で優しそうな顔をしている。
しかし、噂では王国に対していい印象を抱いていないという話だ。
「皆さんは議会前に直接話を聞かれたようですが、少し質問をいいですか」
「問題ないだろう」
「オリヴィアさんはリロイラをどう思いますか?」
「活気あふれて素晴らしい国かと……」
「それだけですか?」
細い目が開いてこちらを見つめている。
圧がすごく、そんな世辞は必要ないと頭を叩かれたような気分になる。
「では……なぜ、こんなにも優秀な方々がいて、孤児への扱いが酷いのか、残念に思っています」
「本心ですね。たしかに孤児が多く、暗黙の了解まである」
「おいっ……」
「エセルコットさん、この場では隠す必要なんてないでしょう」
「……分かった」
「余裕がないんですよ」
「余裕がない?」
「商国なんて言われてますが、その歴史は浅い。貴族とのいざこざもあってリロイラは困窮を極めていました。今が酷いように見えるかもしれませんが、これでもかなりマシになった方なんですよ」
これでマシだなんて到底信じられない。
「王国に貴族として生まれたあなたには分からない世界かもしれませんね。ですが真実です。貴族のツケもあって国力はそこらの街よりも低く、各国から食い物にされる毎日。それをここまで立て直したんですよ。まぁ、かくいう私も歴史として学んだ程度ですが……でも、リロイラの国民はほとんどがその認識を共有しています」
直接、体験はしていなくても、歴史として学び親から子へと伝えられた記憶は人の心を強く引っ張る。
「王国もリロイラを食い物にした国の一つです。王国への恨みは未だ晴れていないと思っていただきたい」
誰からも反論はなく、それが真実なのだと思い知らされた。
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