20話 リロイラの闇

「俺だけじゃダメか?」

 一番の年長であろう少年がそう提案してきた。

 やはり勘違いされている。


「大丈夫よ、みんなでご飯でも食べようと思っただけだから」

 少年にそう説明して、疑われながらも彼らを宿屋に招待することができた。


 ガーデイフさんにお願いして大量の食事を作ってもらい、食事をする。

 彼らも私が騙していないと分かると自然と笑顔が出てくる。

 それでも年長の少年だけは未だに疑い深かった。


「どうしてこんなに優しくしてくれんだ?」

「それはあなたたちがお腹を空かせているからと思ったからよ」

「訳分かんねぇ……そんなんじゃそのうち騙されて首吊ることになるぜ」


「少し聞いてもいいかしら?」

「助けてもらった上に食事までご馳走になってるんだ、なんでも喋るよ。みんな、兄ちゃんは今から大事な話があるから向こうに行っていてくれ」

「クレア、お願いしていいかしら」

「もちろんです。向こうでデザートにしましょうね」

 少年に合わせて他の子たちを遠ざけた。


「どうしてあんなことをしているの?」

「あれ以外に生きる術を知らない」

「助けてくれる人はいないの?」

「俺の親は借金して首を吊った。あいつらの親も似たようなもんだ。この国から逃げていってそのときに捨てられた奴もいる」

 思った通りだった。

 どこの国も似たようなものだ。

 日本のような現代社会なら国が保護をしてくれるけどこの世界ではそんなシステムのある国は聞いたことがない。


「あの果物屋の店長とは知り合いなの?」

 私は店長の言葉が気になっていた。


「あの人のおかげで俺らはこれまで生きてこれた。あの人以外の他の人は見て見ぬフリするだけだから」

「そんな……ひどいわ……」

「そこからはワシがお話をしましょう」

 ガーデイフさんがリロイラの闇について語ってくれた。


 この国は基本的に自由に商売ができる。

 商人から見れば一攫千金が狙える夢の国に見える。

 ただし、成功を掴む人間がいれば失敗をする人間もいる。

 この国は良くも悪くも実力主義であり自由すぎた。

 店舗立ち上げに失敗して借金だらけになっても助けてくれるシステムがなく、どうしようもなくなる。


 この国で人身売買は許されていないが、家族は一蓮托生の存在。

 家族が借金をした事実は変わらず、誰もが見て見ぬフリをするのにはこれがある。

 助けるのなら借金まで背負えよということだ。

 明確なルールがあるわけではない。

 ただ、暗黙の了解的な風習があるのだそうだ。

 特にここ最近はひどくなったらしい。


「王国に連れて行けないかしら」

「オリヴィア様はどうしてそこまで見知らぬ子の面倒を見ようとするんじゃろうか?」

 ガーデイフさんに問われたが、どうしてなんだろう。

 自分でも答えを持っているわけではない。


「分かりません。でもおかしいじゃないですか。少なくとも私は納得がいきません。ですから、できる限り力を尽くしたいと思っています」

 とはいったものの王国に連れて行くのは非常に難しい。

 国際的な問題に発展する可能性もあるし、私には王族という立場もある。

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