19話 都合よくはいかないもの
「エウロパ鍛治商会、ジャイニール・エウロパだ。よろしく頼む」
ジャイニール・エウロパはふくよかなお腹に派手な装飾品を身に纏った、典型的な商人の成功者という身なりをしていた。
先日までは門前払いだったが、急に会ってくれるようになった。
これはレェーブ商会のリサさんと商談をして、条件付きとはいえ、いい返事を貰えたことが大きいだろう。
商人という生き物は乗り遅れることを嫌う。
というよりは乗り遅れていては商人なんてやっていけない。
立場上近い人間がいい返事を出すということは儲けがそこにある可能性が高い。
話を聞かない訳にはいかないということだ。
リロイラの議長の席数は決まっていない。
ここで自分だけが乗り遅れれば議長の地位が危うくなるのだ。
しかし、エウロパはこの話には旨みがないと判断したようだ。
キッパリと断られてしまった。
リサさんに話したように事情やその他諸々の話も込みで話してもダメだった。
リサさんは元々、アイヴィロ商会の商品を気に入ってくれていた。
そこも大きかったのかもしれない。
女性にとって美とはそれほどに力があるということだろう。
さて、クヨクヨしている暇はない。
明日には次の商談も控えているのだ。
宿に帰る途中で怒鳴る声が聞こえてきた。
「ちっ、テメェらここにいたって、何も渡すものなんてねぇぞ。営業妨害だからどっか行きやがれ」
果物屋の店長と思われる男と服がぼろぼろで痩せこけた子どもが何かを言っている。
あっ!?
男がため息をつきながら後ろを向いた瞬間に果物を取って走り出した。
しかし、一人の少女が足をもつれさせてこけて、それを見た前を走っていた少年たちが戻ってくる。
「いい加減にしやがれよっ!!」
店長の男は少女の元へ行って子供たちに殴りかきろうとしていた。
「待ってください!!」
思わず声をかけてしまった。
「部外者は黙ってな」
「品物のお代を倍払いますから、その子たちを許してもらえないでしょうか」
店長はこちらじろっと見る。
「4倍なら許してやってもいいぜ」
「分かりました」
すぐに代金を支払う。
「ちっ、言っておくがな助けたってどうせ無駄だぞ」
そう言うと店長は地面に落ちた果物を拾って、袋に入れてくれた。
しかも、いくつか追加で袋に入れて渡してくれる。
店長は渡してくれる際に小声でありがとうと呟いた。
「……?」
私にはさっぱりだったが、今は子どもたちだ。
「あなたたち大丈夫?」
「大丈夫だ。悪かったな」
少年は私にそう言って、少女の手を掴んで起こして行こうとする。
「待って……果物を」
「……? それはあんたが買ったもんだろ」
横で少女は果物を見てお腹を鳴らした。
「あなたたち、時間があるなら私についてきなさい」
子どもたちは顔を見合わせてどうするといった様子を見せる。
ここで私はミスったかもと気づく。
そりゃあ大人に急についてこいと言われてホイホイついていく訳がない。
これでは私が変質者に見られるではないか。
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