12話 辺境の地
王国が活気づいていくのを面白くないと思う存在がいるとすれば、それは周辺国の上層部であろう。
国が活気づくということは多くの人が行き交うということ。
人が集まれば商人が動き、物が溢れ暮らしは楽になり、その地に根を張ろうとする者が増える。
すると土建屋に金が流れ、さらに経済の輪が広がっていく。
しかし、一極化すればいいというわけではない。
中心に人が集まれば集まるだけ、そこから遠く離れた場所は衰退の一途を辿ることになる。
近い将来、王都を中心に世界が動くといっても過言ではないほどの大きなうねりができつつあった。
王国内は活性化されても周辺国は全く面白くない。
税収が落ちるだけでなく、国としての発言権すら弱くなってしまう。
ここで王国と共に歩もうという発想に行きつかないのは傲慢たる貴族の特徴なのかもしれない。
他者を認めることができず、ただただ嫉妬の炎を燻らせるだけだ。
他国が王国の繁栄を指を咥えて見ている中で動いている国が一つある。
「お嬢様がわざわざ足を運ぶ必要があったのですか?」
クレアが問いかけてくる。
「仕方ないわ。あの一件で隠れていることはできなくなったし、いつまでもクレアに頼ってばかりもいかないもの」
今私たちが向かっているのは辺境伯の領地。
王都から馬車で一週間かけてようやく辿り着く。
街に入るとイメージしていた辺境の地とは180度も違う。
私は最初に辺境の地と聞いて、痩せこけた土地や極寒の土地、辺りが森に囲まれている村のようなものをイメージしていた。
しかし、そこに広がる光景はどうだろうか。
王都にも負けず劣らずの活気あふれる市場が広がっていた。
見たことも聞いたことのない食材や工芸品が売られている。
興味をそそられるが今は辺境伯に会いにいかなければいけない。
もっと少人数なら軽く行って物色できるのに。
今は騎士だけで20人以上もついてきている。
王族に仲間入りしてからというもの、ちょっとの外出でも騎士がついてくる。
「はぁ、流石に多すぎではないかしら」
「オリヴィア様、何をいっておられるのですか? 王太子殿下より傷一つ許さないと言われていますので」
馬車から顔を出して愚痴を溢すと、馬に乗って追従していた騎士長のトーマスが笑いながら話しかけてきてくれた。
トーマスは長く王家に仕えていて、意外とフレンドリーに会話ができる。
他の騎士の人では私に緊張しているのかほとんど会話にならない。
それもこれも、アランとアンネリーネを破滅に導いたとかなんとか噂されているせいだ。
しかもハゲにする呪いが使えるなんてふざけた噂まで流れている。
あれは完全に自業自得というのに。
「全く、ヴィクターは心配しすぎなんですよ。帰ったらいっておかないと」
「また、惚気話ですかな」
どうやら、にやけながら話していたのがトーマスにはバレたようだ。
「トーマスには負けるわ」
トーマスは愛妻家で有名だ。
ここまで仲良くなれたのも私がトーマスの奥さんにプレゼントを見繕ってあげたところ、世界が変わったなどと泣いて喜んでいたそうな。
「ははっ、これは一本取られましたかな。さぁ、着きましたよ」
これから辺境伯との対談が始まる。
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