13話 爆弾発言

「お初にお目にかかります辺境伯様、この度は急な訪問大変失礼いたします。オリヴィア・オーブリーと申します」

 目の前に座っているダンディなおじさまがロージア・アルスター辺境伯。

 この辺境の地に活気を作っている張本人である。

 空気が重く、底知れぬ圧を感じる。


「ハッハ、そんなに畏まらなくても結構ですよオリヴィア嬢、なにせ貴殿は王族の一員なのだからね」

 意外にも軽い口調で話しかけてきてくれた。

 しかし、目は笑っていない。

 値踏みをするように、こちらの一挙手一投足に注目している。

 

「いえ、まだまだ若輩ですので、ぜひ貴族としてのお心などご教授いただければと思います」


 …………少しの沈黙が流れる。


「ふむ、試すようなことをして申し訳なかった。さすがは今をときめく大商会を率いるだけのことはあるということか」

「いえ、商売人として値踏みは当然のことかと」

「ふっ、その発想こそ商人のものだろうな。そこらの貴族にも見習って欲しいものだ」

 辺境伯が貴族嫌いというのは本当のことだったようだ。


「恐縮です」

「当初、表には出てこなかったようだが、何か理由でも?」

「それに関しては表に出るのが好きではないとしか言いようがありません」

 これは本当のことだ。

 営業として化粧品メーカーに勤めて5年ほど。

 正直、営業や接客はもういいやと思っていた。

 そもそも化粧品の開発ができると聞いて入社したのに蓋を開けてみれば営業だった。


「そうか、まぁそれは仕方ないな。さて、これより先は酒でも楽しみながら語らうとするか」

 食事をしながらの話となるのだが、運ばれてくる料理やお酒はどれも手の込んだもので作り手の情熱が垣間見える。

 しかも、凄いのがこれを私のお付きである商会関係者や騎士にも振る舞うのだから太っ腹なことだ。


「素晴らしい料理の数々ですね。随分と名のあるシェフがいらっしゃるのですね」

「ハッハッハ、そうだろう。シェフもそれを聞けば喜ぶと思うぞ。後で呼ぶとしよう」

 辺境伯は気さくな性格で喋りやすいが、それはたわいもない話の時だけだ。

 本題に入ると空気が変わる。


「辺境伯、商国についてお聞きしたいのですが」

「左様であろうな、オリヴィア嬢が派遣された理由は分かっている。貴族たちに頼まれたのだろう。なぜオリヴィア嬢にその役目が任せられたか分かるかね」

「辺境伯が貴族と距離を置いているからでしょうか?」


「距離を置いている、か……オブラートに包んでくれたな。まぁ、概ねそうだ、私は貴族というものが嫌いなのだよ」

「ご自身も貴族なのに、ですか?」

「貴族とは言っても私の父が商売で国に貢献して、その功績を認められて叙爵をした。そこから今の地位まで成り上がったのでな、貴族の矜持など持ち合わせてはおらんよ」

「なぜそこまで貴族を嫌悪するのですか?」

「オリヴィア嬢も経験したようだし、薄々は勘づいているのだろう。私も決して全員が全員そうであるとは思っていない。しかし、多くの貴族がそうだ。もはや国を捨ててもいいかなと考えるほどにな」

「……」

 辺境伯はとんでもない爆弾発言をしている。

 反逆罪で首を落とされてもおかしくない。

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