6話 社交界

 とうとう来てしまった運命の日。

 名だたる貴族が豪華な馬車で足を運ぶ。


 第二王子の社交界へのデビューということもあって場所は王宮、厳重な警備体制のもと社交界は行われる。


 私は扉の前で少し立ち止まってしまう。

 開けるのが怖い……


 ありとあらゆる装飾の施された扉に触れるのが怖いわけではない。

 ここを開けてしまうとどんな目で見られるのか。

 どんな侮蔑的な言葉を投げつけられるか。

 それを想像したら怖気づいてしまう。


「オリヴィアちゃん、大丈夫?」

「やはり、オリヴィアは来ない方が良かったんじゃ……」

 両親が心配してくれる。

 他のみんなも心配してくれていた。

 大丈夫、大丈夫!!


「大丈夫だから、私に開けさせて」

 意を決して扉を開く。


 華やかな会場に反して薄暗く冷たい視線が数多く突き刺さる。


「あれって、アラン様の元婚約者じゃないの」

「よく顔を出せたものね」

「不貞を働くだなんて貴族の娘としてどうなのかしらね」

「やはり男爵家など貴族としての血が薄い、貧乏貴族は取り壊すべきなのだ」

 予想通りの反応とはいえ、心に響く。

 私だけでなく家族までもが非難されている。


「気にするな、貴族なんてなぁ、こんなもんさ。ガッハッハ」

「大丈夫よ、あなたのことは私たちが守ってあげるから、好きなようにしなさい」

「お父様……お母様……」

 父が俯く頭を大きな手で撫でてくれて、母が守ると言ってくれる。

 堂々とする二人から勇気をもらえる。


 ……!?


 会場の注目が私から外れて後ろから入ってきた二人に移った。

「まぁ、お綺麗ですこと」

「えぇ、髪の毛の艶が凄いですし、肌も瑞々しいわ」

「アラン様もいつにも増して輝いて見えるわね」

「あの方はアイヴィロ商会の王都支店長らしいわ」

「ということは、あの店の新作かしら」

「でも、どうしてアラン様と一緒に……」

「あなた知らないの不貞を働かれたアラン様の心に寄り添ったのがアンネリーネさんなのよ」

「お似合いですわね」


 アランとアンネリーネが仲睦まじく腕を組んで登場した。

「ちっ、よくも俺の前に顔を出せたなオリヴィア」

「……」

「あら、こちらがオリヴィアさんですか、よければウチの商品使えばもう少し垢抜けるかもしれないわね。プククク」

「ふん、そんなのに構ってないでいくぞアンネリーネ。ルクシア様への挨拶に遅れてしまう」

「はい、ではご機嫌よう」


 第二王子であるルクシア様が登場して、会場の熱が上がる。

 ルクシア様は婚約者であるエルン様を側につけて挨拶に来る貴族に対応をする。

 挨拶は階級が上の貴族からと決まっていて、同じ階級なら早い者勝ちになる。

 もしも、印象に残ればそれだけで貴族としての格が上がると言っても過言ではない。


 本来は当主がその役割を担うのだが、アランの父が病気で休んでいる今、アラン自身がその役割を全うしようとしている。

 まぁ、結局は家を継いだときに自分の立場をよくしようとしているだけで、アランには父への尊敬も愛情も特にない。

 むしろはやく家督を譲れと思っているくらいだ。


 私はひたすらに時間が過ぎるのを待つばかりだった。

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