第33話 ゲーム
ゲームのプロローグは国王に息子が生まれた場面だった。子供はアーチャと名付けられすくすく育った。6歳になると友達同士でいざこざが発生した。
かけっこをしていた時に友達のひとりがアーチャを突き飛ばして転ばせたのだ。
「あぁっ!こいつ、こんなことして!」
「理由を聞きますか、だって」
「あぁ、聞いてやる」
「じゃあ、こっちのボタン押して」
ゲームを異世界に持ってきても、ゲームの言語は日本語。当然、アーチャに読めるはずがない。凜が通訳しながら進めていった。
「どうしても勝ちたくて・・・。ごめんなさい、だって」
「そんなの許すかよ。俺は王様だぜ!?」
【絶交する】
【許す】
「じゃあ、絶交する、でいいのね?」
「うん、良い」
結局、アーチャを突き飛ばした男の子は仲間外れになり、誰も遊んでくれない孤独な日々を送ることになった。
「当然だろ、罪を犯した奴はそれ相応の報いを受けるんだ」
こうしていくつもの選択をしながらゲームは進んでいく。アーチャが仲間外れにした男の子はことあるごとにアーチャの邪魔をするようになった。
やがて12歳になったアーチャは父親である国王と共に親族と食事を共にすることが多くなった。アーチャは当然のことながら凜の世界の食事マナーなど知らない。国王が食事に手を付ける前に食べ物を掴み、ナイフとフォークを置く位置も適当だ。うっかりナイフとフォークを揃えて皿の端に置き、食事の途中で皿を片付けられた時には「あぁっ!」と声をあげた。
「ねぇ、さっきから国王への信頼度が下がってるのはなんで?」
「アーチャがテーブルマナーをミスするからでしょ」
「それがどうして国王への信頼度につながるんだよ?」
「自分の息子にちゃんとした教育が出来てないのに、国をまとめられるのかって不審を抱かれてるんじゃん?」
「えぇーっ」
アーチャが口を尖らせた横でガランヤが「なるほど」と呟いた。
そして16歳になったある日、欲望の赴くままやりたい放題の選択を繰り返したアーチャは国王の親族に暗殺されてゲームオーバーになった。因みに、暗殺の手伝いをしたのは6歳のアーチャが仲間外れにしたあの男の子だ。
「えぇーっ!!どうしてっ!!」
アーチャの問いにゲームの中の犯人が答える。
「この息子に国王になられては国が亡びる。これは国の為に必要なことだったのだ。だって」
「なんだと!!うぅ・・・もう一回、もう一回やる!!」
今、何時だろう・・・。
凜は隠すことなく大きなあくびをした。もう寝たいぞ、という凜のアピールだがアーチャはそんな凜の様子にもお構いなしだ。
「これは何と言っているんだ?」
「アーチャ様、国境付近に怪しい人物を見かけたと町の者が申しております、だよ」
【話を詳しく聞く】
【パーティーに行く】
「詳しく話を聞こう」
アーチャにその知らせを持ってきた町の人というのは、6歳の時にかけっこでアーチャを突き飛ばしたタイニーという人物だった。6歳の時にアーチャがタイニーのしたことを許すと選択してから、タイニーはアーチャに町の情報を教えてくれるようになったのだ。
「凜、お前の国のテーブルマナーとやらを教えてくれ」
「まず、目上の人、この場合は国王ね。国王より先に食べ始めないこと。それと・・・フォークとナイフは外側から使って・・・お皿を下げてもいいですよって合図はナイフとフォーク・・・を・・・も・・kkd」
説明をしながら凜の意識は薄れていった。頬にあたるふんわりとした優しいぬいぐるみのような感触と温もりがとても心地よく、ほんの少しだけハルトの温もりを思い出した。
3日目。
「おい、起きろ!凜、りんっ!!」
「はっ、今何時!?」
寝坊した!っと勢いよく体を起こすと、「わおっ」という声が聞こえ、私を避けるかのような姿勢をとっているアーチャがいた。
「急に起きるなよ。危うくぶつかるところだった。ほら、飯は持ってきてやったぞ。それを食いながらでも翻訳はできるだろ?」
凜が思った以上にアーチャはゲームにハマったようだ。
眠っていたふかふかのベッドから降りる。
「このベッドってアーチャの?」
「そりゃそうさ。俺の部屋だもん。昨日、っても今日の明け方だけど、凜が俺の手を枕にして寝たから俺のベッドに寝かせてやったんだ」
感謝しろよ、とでも言いたげな口ぶりだ。アーチャが持ってきてくれた果物を口に運びながらソファに座るとアーチャが隣に座り、さっそくゲームの画面を開いた。
「よし、やるぞ」
やる気満々のアーチャに対し、寝不足の凜はイマイチ、やる気が出ない。出来ることならこのまま、ぼーっと過ごしたいほどだ。
だるいなぁ・・・。そうだ!
「ねぇ、アーチャ、この間変身した姿、憶えてる?」
「あぁ、あの、太ってるやつ!?」
「その言い方・・・、まぁ、そうだけど。その姿に変身してみてよ」
「えぇ~、それに何の意味があるの?」
「私のやる気に関わるのっ。あの姿にならないなら翻訳はしてあげない」
「わかったよ、わかった」
アーチャは面倒くさそうに立ち上がると目をパチパチさせ、あっという間に凜好みのぽっちゃり人間に変身した。
「わおっ、素敵っ」
アーチャを見つめながら「さぁ、始めましょ」と凜が言うと、アーチャは「さっきとはえらい違いだな」と呟いた。
ゲームのアーチャ18歳。ここで大事件が起こる。国王であるアーチャの父が病に倒れたのだ。一命はとりとめたもののとても国王の業務を続けられる状態ではなく、アーチャは18歳にして国王として立つことになった。
「国王としてあいさつをします。どのような挨拶をしますか?だって」
「どのようなって・・・。国王になります、アーチャです、とか?」
「点数を付けるとしたら100点満点中5点、いや、3点くらいじゃないかな・・・」
「3点て!!」
丁度その時、アーチャの様子を見にガランヤがアーチャの部屋にやってきた。
「あ、ガランヤさん、丁度良かった。教えて欲しいことがあるの」
ガランヤに凜がゲームの現状を話すと、フムフムとガランヤは頷いた。
「ではアーチャ様、アーチャ様が国民だったとしてこのような状況で国王が変わった時に「国王になります、アーチャです」で安心できますか?」
「安心?っていうか、俺、国民じゃないしなぁ」
アーチャはどうもピンと来ないようだ。それも仕方のないことなのかもしれないと凜は思った。宮殿にいてこのような暮らしをしていて、国民と触れ合うことなど少ないはずだ。それなのに、国民だったら、なんて想像しようがないのではないだろうか。
「では、アーチャ様は護衛団のひとりとしましょう。護衛団なら想像が付きやすいのでは?」
「確かに。いいだろう。俺は国王の安全を守る護衛団だ」
「護衛団の団長が病に倒れ、その息子が護衛団長になったとします。その挨拶が先ほどアーチャ様がおっしゃったような挨拶で、アーチャ様はその団長に命を預けることが出来ますか?戦えと言われたら戦えますか?」
「そ、それは・・・」
アーチャは渋い顔をして「無理だな・・・」と答えた。
「国王と国民の関係は護衛団長と護衛団の関係とは違いますが、それでも大きく違うものではありません。国王は国民の命を預かっている。それは国民が国王を信用して預けてくれている、というのが我が国です。国王は国民が信頼するに値する人物にならなくてはなりません」
「そうか・・・、そういうことか」
いつになく真面目な顔をしているアーチャの姿に凜は心の中で、よしよし、と呟き、ガランヤはやる気になっている今のうちに、と言わんばかりに目をぎらつかせた。
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