第71話 一炊の夢
「名前ですか? 先輩」
「そ。名前が重要って話」
俺はなんで
ここはコンビニのバックヤードだ。
今はなんだ? 休憩中か?
コンビニでふたり同時休憩とか普通はない。
俺がなんかのタイミングで店来たときに、たまたま休憩中の最上さんが居た。
そんなシチュだろうか?
「俺たちは生まれながらにして先祖代々の苗字を持ってるけど、苗字って元々はご先祖が自分で勝手に名乗った名前なわけだよな」
「はあ、それで先輩のご先祖様は厨二病だったって話ですか?」
ミもフタもねえな。
世の中には天と書いてアメノと読む苗字もあるんだぞ。
……別にそんなに変な名前ではないな?
神剣アメノムラクモから取ってるんだろうし、発想としてはヤマタノオロチから名前を取るのと大差ない気もするんだが?
出来上がった苗字の印象に差がありすぎてズルい。
最上さんに視線を戻すと、無言でなんかボリボリ食ってる。
駄菓子?
乾麺を砕いたような、あの駄菓子だな。
「普通のメシは食わんの?」
「美味しいですよこれ」
答になってない。
相変わらずの無表情かつ感情のこもってない声で言う。
「変な名前で困るのはお察しします。私も似たようなものですし」
「最上は別に普通では?」
「――――――――」
そして目が覚めた。
たまに見るコンビニの夢。
なにげない日常の風景も、今となっては決して手の届かない
なお最近の記憶が混ざってイミフな内容になりつつある。
……食堂に行くか。
「アヤセくん、おはよー」
「おはよう、アヤセ」
「ああ、おはよう。ふたりにちょっと相談があるんだけど」
昨夜はモニクもエーコも留守だった。
エーコは朝こちらに顔を出しただけで、またすぐ外に戻るのだという。
今のうちにドゥームフィーンドの存在と、その提案について話しておかないとな。
俺はホワイトライダーとセルベールから聞いた話の一部始終を伝えた。
「ふうん。ドゥームダンジョンのキャラに似ているヒュドラ生物は、ドゥームフィーンドっていうんだ」
「ドゥームフィーンドがどこまでの範囲を指すのか、よく分からんけどね」
「で、ドゥームフィーンドが地上に出てもモニクさんには見逃してほしいと。どうするんですか?」
エーコはモニクに話を振った。
「別にボクのやり方は今までと変わりない。そのドゥームフィーンドとやらが、ボクやキミたちに危害を加えないのであればなにもしない。街の外へ行くのも好きにしたらいい」
ま、そうだよな。
今までだってモニクはヒュドラ生物なんか相手にしていない。
……ちょっとでも邪魔すると真っ二つにされるけどな!
セルべールはなまじ実力があるから、自分が地上に出るとモニクに警戒されるとでも思っているのだろう。
自意識過剰ではあるのだが、こればかりは実際に対峙しないと分からないかもしれない。
モニクにとっては俺もお前も、その辺のヒュドラカラスやヒュドラネズミと実力的には大差ないのだということを。
真っ二つにされるまでにかかる所要時間はどっちでも同じだからな……。
「セルベールが街の外で人間に悪さをすることはないの? あるいは人間側が攻撃して反撃される可能性もあるけど」
「なんともいえない。でもそれをいうなら各地には既に百頭竜が居るし、俺の知らない超越者やその眷属も人間にとって安全とは言い切れない。キリがない気がするな」
「それもそっかあ」
なんとなくモニクの意見も聞いてみたくて、ちらりとそちらを見る。
意図を察してモニクが口をひらいた。
「人間がヒュドラ生物を狩ろうとしたり、ヒュドラ生物が自分を守るために反撃する。逆も含めてそれ自体は自然なことだから、ボクが口出しをするつもりはないよ」
なるほど弱肉強食。
こういうところは、モニクも人類の味方というわけではないことを伺わせる。
エーコなら人が死にそうになったら助けに入るだろう。
俺? 俺はまあ……助けには入るけど、心情的にはなんともいえんな。
ドゥームフィーンドは野生動物みたいなもので、善悪は無いというのがセルベールの言い分なのだろう。
確かに世界大災害以降に誕生したヒュドラ生物は、能動的な侵略者とは言い難い。ただの超越者の眷属だ。
でも放っといたら危険だから狩るというなら、もちろんそれは理解する。俺もそうしてるし。
あとヒュドラ本体と古参の眷属は人類の敵。駆除対象なのは変わらない。
ホワイトライダーはなんとなく古参の眷属っぽいな。
より地下深く、よりヒュドラに近い場所に居る奴だからか?
今度セルベールに確認でも……いや、あいつの言うことは信用できるかどうか分からん。話半分で聞いとこう。
「セルベールかあ……見てみたかったなあ」
のんきにそうのたまうエーコさん大物っすね……。
ま、美形キャラではあるしなあいつ。
俺には悪人顔にしか見えなくてアレだが、女子には人気あるのだろう。
「あ、そうそう。ホワイトライダーって人」
うん? セルベールに存在感を喰われてカゲが薄くなった人がどうしたって?
「ゲームに出てくる白騎士とは違ったの?」
「ああ、俺もちょっと気になったけど外見が別物だし、ドゥームフィーンドではないって話だったなあ。白騎士ってNPCだしそれで別扱いとか?」
「アヤセくんはクリア後までは遊んでないんだっけ? 白騎士もボスキャラだよ」
そうなん?
一応攻略サイトで敵キャラはざっくり確認しているが……あー、言われてみれば同じ名前の敵がいたわ。隠しボスでNPCと戦えるのかって、そんなことを思った気がする。
「クリア後はシナリオが分岐するんだよ。公国ルートと亡国ルート。どっちの味方をするかでボスが変わるの。なんか今のアヤセくんの状況、それに似てるんだよね」
あのゲームそんな話だったの。
公国ってプレイヤーキャラが住んでる国じゃん。そこと手を切るからNPCの白騎士が敵になるのか。
ホワイトライダーが白騎士の
手を切るも何も、ホワイトライダーは最初から敵なんだが……。
それでもう片方は亡国か。
ゲームのラスボスの名前が『亡国の王女』だから、公国サイドでモンスターを狩るのが通常のルートだろう。
ダンジョンのモンスターと手を組むのが亡国ルートってわけね。
なるほどドゥームフィーンドと手を組むなら、いかにも亡国ルートだ。
「セルベールかホワイトライダーの味方をすると、もう片方が敵になる……か。別にどっちの味方のつもりもないんだけどな」
人間の俺からすると、どっちもヒュドラ生物だしな。
ゲームのプレイヤーキャラの立場とは違う。
ただ、どっちにしてもホワイトライダーとはいずれ闘うことになりそうだ。セルベールはよく分からん。あいつの目的が『ヒュドラ対他の超越者たち』の戦争から抜けることであれば、それっきり二度と会わないということもあるか。
ふーむ、しかしあいつ……。「自分を見逃せ」ではなく「ドゥームフィーンドを見逃せ」って言ってるんだよな。
モニクがヒュドラを倒せば、終わりの街のヒュドラ毒は消える可能性がある。セルベールはともかく他のドゥームフィーンドは全滅するのでは?
あいつ以外にもヒュドラ毒の呪縛を打ち破るほどの、強力な個体がいるのだろうか。
一応ハイドラもその候補かな?
でもハイドラってそもそもドゥームフィーンドなんだろうか。外見が似ているというならそうだけど、あいつだけプレイヤーキャラなんだよな。
「そうすると今ドゥームダンジョンエリアは、三つ巴の戦いの最中なんだね。上手くふたつの勢力同士で潰し合ってくれれば、私たちが楽を出来るんじゃない?」
「是非そうであってほしい」
だが現実にはきっと、俺もその潰し合いの駒として利用されるのだ。
俺、交渉が下手だからなあ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます