第36話 ドゥームダンジョン
今日は情報収集に時間を充てたい旨をモニクに伝えると、その場で解散となった。
どこまで役に立つかは分からないが、調べておくべきものがある。
ゲームのソフトって何処で売ってるんだっけ? レンタル屋か?
一応ショッピングモールでも売ってはいるが、ああいうところは品揃えがそこまで豊富じゃないからな。目的のブツが無い可能性がある。駅前で探しておいたほうがいいだろう。
地下迷宮入り口から南下し、駅前でレンタルショップを探す。あった。
普段使わない店だから視界に入っても意識しなかっただけで、ちゃんといい立地に建っている。
自動ドアを手でこじ開けると店内に入った。
ゲームの現品は商品棚じゃなくてレジの奥だよな? 見つかるだろうか。
棚を漁ること数分。それらしきものを見つけた。対応機種が複数あるな?
携帯ゲーム機として本体の持ち運びが出来る方にしとくか。
もしかしたら地下迷宮の中で、内容を確認したくなるかもしれないからだ。
というわけで、無事『ドゥームダンジョン』を入手した。
ゲーム機本体や必要そうな周辺機器も《収納》に入れておく。
しばらくご無沙汰だっただけで、ゲーム機についての予備知識はある。これで足りるはずだ。
周辺機器ならショッピングモール内の家電屋でも手に入ると思う。
今日は帰るとしよう。
ショッピングモールの食堂に戻ると、本体の箱を開ける。
まずは充電しなければ始まらない。非常用コンセントから引っ張ってきてある電源と接続し、バッテリーの充電を開始した。
その間にゲームの説明書を読んでおこう。
コーヒーカップを調理場のカウンターから持ってきてパイプ椅子に座ると、食堂メニューのコーヒーを召喚する。落ち着く香りだ。俺は説明書のページをめくった。
このゲーム、『ドゥームダンジョン』は三人称視点、つまりプレイヤーキャラの背中を見ながら操作するアクションRPGであるらしい。
アクションなのか……。RPGなら時間をかければクリアできるが、アクション要素があると難しいかもな。別にクリアするのが目的ではないが、俺の欲しい情報が揃わない可能性がある。
いわゆる剣と魔法の世界で、ダンジョンを潜って敵と戦い強くなっていくわけか。
操作するプレイヤーキャラの説明がある。
一人目のキャラは正統派イケメン、剣を持ち弓を背負った冒険者。名前はレンジャー。
近接広範囲攻撃のロングソードと遠距離攻撃の弓矢で戦う、初心者にも扱いやすいキャラだそうだ。
ページをめくる。
「ブフォッ!?」
そこにはハイドラがいた。
リアルでコーヒーを噴いてしまった。リアルでコーヒーを噴く人なんておらんと思ってたのに。
飛び散ったコーヒーを慌てて《魔力化》で消す。
便利だなこの魔法! リアルでコーヒーを噴いたときに便利な魔法。
んなことより説明書に載ってるハイドラだよ。
これか~。あいつのツラの元ネタは……。
なになに?
名前はパラディン。
剣による近接攻撃と、金属鎧による高い防御力。更には回復魔法を使いこなす高潔な聖騎士。
あいつが聖騎士ってガラか。
顔は確かに女騎士っぽいが。強気そうな吊り目の辺りとか。
回復魔法とかあいつ使えんの?
いやその前に鎧着てないし剣も持ってないから無理だろうな……。
あ、そろそろ一割くらいは充電できたか?
コードつないだまま本体のセッティングを済ませてしまおう。
携帯型ゲーム機本体の設定を済ませると、さっさとゲームを起動させた。
説明書はおまけみたいなもので、読まなくても問題はない。ダウンロード版を買った人はそもそも読まないわけだし。
ダウンロードコンテンツとかがなかった、昔の時代はまた違ったのかもしれないけどな。
液晶画面にメーカーロゴが映り、オープニングデモが始まる。
冒険者たちが戦い会話する華やかなデモシーン。含むハイドラ。全然キャラ違うやんけ。
画面にパラディンが映るたびに現実に引き戻されてしまう。
こいつ……人気はあるんだろうなあ。ツラはいいから……。
続いてプレイヤーセレクト画面。
パラディンを選ぶのだけは止めておこう。気が散ってしょうがない。
俺はこのおっさんの盗賊を選ぶぜ。
名前はローグ。
素早いけど軽装で攻撃力も防御力も低め、おまけにリーチも短い。
その代わり罠外しとかの特技があるみたいだな。
戦闘スタイルが俺に近いので、なにかの参考になるかもしれない。
拠点となる街を適当にうろつく。
最初は買い物もほとんど出来ないみたいだな。ダンジョンへ行くか。
ダンジョン内は石壁で出来ていた。
今朝入った本物のほうの地下迷宮とは雰囲気が違うな。あっちは自然洞窟みたいなゴツゴツした造りだが、ゲーム内のそれは人工的な宮殿のようである。
柱とかパルテノン神殿に似てるな。パルテノンに石壁をくっつけたらこんな感じになるんじゃないだろうか。
画面端には周辺のミニマップと、敵と思しき赤い光点が表示されている。
これは俺の《鑑定》に似ているな。
ダンジョンゲームは地図無しでの攻略は厳しい。現実でも複雑な地下洞窟で迷ったりしようものなら、生きて帰るのは極めて難しいだろう。
だから鑑定による疑似マッピングが重要なのだ。地上の封鎖地域と同じ広さだと思うと気が遠くなりそうだが、別に隅から隅まで踏破する必要はない。
敵の発見に於いても、不意討ちを未然に防ぐ鑑定の重要性は高い。ハイドラやモニクのような、俺との実力差があり過ぎる相手には通用しないが、互角の相手に先制攻撃される可能性はほぼ無いと言ってもいい。
このゲームにおいてもその重要性は同じことだろう。
扉の向こうや曲がり角の先に居る敵が事前に分かる。油断しているところに奇襲を受けることは、原則として無いわけだな。
敵の居る部屋の扉を開けてみる。
そこには三体の犬人間が居た。
またお前らか!
まあこれはゲームだ。慌てることなくボタンを押して、武器のショートソードを抜く。ザシュザシュと効果音を響かせながら斬り付ける。ちょっと硬いが一体目を倒した。
攻撃しながら室内に踏み込む形になっていたので、残る二体が左右から迫る。走り回って位置を調整しながら二体とも倒す。あっさりしたものだ。
最初の敵にしてはちょっと硬いのが気になるが、多分レンジャーとかを選んでればもっとラクに倒せたんだろうな。ローグの強みは別のところにあるのだろう。
戦闘ログメッセージに、報酬のゴールドや経験値、モンスター図鑑への登録といった情報が流れている。
メニューボタンはどれだ? これか。
ステータス情報が出るメニュー画面から図鑑の項目を選ぶと、今しがた倒した犬人間の情報が表示された。
犬人間は『コボルド』というのか。
なんか他のゲームでも見たことあるから、俺でも知ってる名前だった。
名を知ることにより、俺の中で正体不明の生物に明確な形が与えられる。
超常のものに立ち向かう人類の知恵。
俺が知りたかった情報、敵の名前を無事に得ることが出来た。
フレーバーテキストに記されたコボルドの情報にも目を通す。「小柄な種族だが、大きさに対して腕力や体力は高い。とはいえ、人間との体格差を覆せるほどではない。知能は低め」と、記されている。
実際に戦ったヒュドラ生物のコボルドとほぼ同じ特徴だ。
ハイドラは、迷宮内に配置された敵がこのゲームのモンスターと同じだと言っていた。
でも地上の生物だって地下から出てくるのだから、それらも混ざっているだろう。また、ハイドラの知らないヒュドラ生物も当然存在すると考えるべきだ。
だが、大部分の敵はこのゲームと同じなのであれば、実戦の前に攻略情報を入手したも同然である。
思わず口が緩む。
待ってろよ……地下迷宮。
お前が埋め立てられるのはそう遠くない未来になりそうだぞ。
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