マモル 5

 18歳で成人すると、僕達も仕事をするようになった。

 物語を沢山知っているサツキは、現代を舞台にした物語を書く仕事に就き、頭の良いサトルは、ゲームを作る仕事に、運動好きのトモヤは、新しい運動方法を考える仕事に就いた。そして僕は、“お菓子の家”のような、特別な日の食事を考える仕事に就いた。




 20歳のサツキの誕生日に、僕達は結婚した。

 リビングの画面に、白いドレスを着たサツキがいた。表示サイズを調節した等身大のサツキだ。僕と並んで立つサツキは、僕より少し背が低かった。まん丸の可愛い目が、僕を見上げる。僕が画面に手を置くと、サツキも僕の手に手を重ねてくれた。画面越しの初めての触れ合いに、胸が高鳴る。サツキが、ゆっくりと顔を近付ける。僕も顔を寄せる。僕達の初めての口付けは、想像していたよりずっと硬く、冷たかった。

 物語で語られる柔らかさも温かさも、この世界にはない。分かっていたはずなのに、何故か堪らなく悲しかった。




 結婚しても、僕達の生活は変わらない。ただ、使用出来る画面に制限が無くなったため、いつでもリビングで会えるようになった。


 結婚から2年後、僕達は子供を作ることになった。それは、僕達の生活に大きな変化をもたらした。

 妊娠準備から出産後しばらくの間、サツキは病院で生活する。そうなると、これまでのように自由に会えなくなる。

 何より心配なのは、サツキの体だ。細心の注意を払っていても、ウィルスや細菌だらけの外に出るのは大きな危険を伴う。それに妊娠は体への負担が大きく、出産は命懸けだという。

「子供を作るのは、どうしてこんなに大変なのだろう。しかも、女性だけ!」

 憤慨する僕に、サツキは『仕方ないわ。体の構造のせいね』と笑った。

 本当は、子供なんていらなかった。だけど、子供を作り子孫を残すことはとても大切なことだし、サツキも子供を望んでいた。

 動物の子育てを見ては『昔は、人も自分の子供の世話をしていたのよ。出来るなら、私も自分の子供の世話をしたいわ』と言っていた。

 子供の世話は、家政婦ロボットのロボ子がする現代において、サツキの考えは理解出来なかった。

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