第百十九話

勇者パーティーが正式に発表された後、旅立つまでは

いつも通りの日常を過ごしていた


「貴方達が旅立つ間は休学って事にしとくから思い切り旅してきなさい」


「ありがとうございます」


学園長室に呼ばれた俺たちにロミリア先生がそう伝えた


「さて、用はそれだけ。戻っていいわよ」


「失礼しました〜」


「〜」


「リュート君は残ってね?」


「…失礼しました」


「あら聞こえなかったのかしら?」


「…くっ…」


「どんまいリュート…骨は拾ってやるよ」


ルシュが憐れむように肩を叩き去っていく、行かないでー…助けてー…


「…ふふ」


「ひい…」


「いい加減慣れなさい?ま、慣れなくてもさせるけど」


「はぁ…分かりましたよ…」


「あら今回は素直じゃない」


「色々してくれたお礼です」


「ふふ…なら遠慮なく受け取っておくわ」


「…魔力干渉…!」


「ふぁぁ…これよこれ…はぁ…これなら未来の妻団に入るのもいいわね…くふふふ…」


今のは聞かなかった事にしよう、うん何も聞いてない


『大変ですねリュート様も…』


サービスとして俺はいつもより長く魔力干渉をしてあげるのであった




「ふぁ…今日は休みだし何しよっかな…」


久しぶりにクロスケと戯れ…いや…クロスケはもう居ないんだったな


「はぁ…クロスケどうしてるかな…」


『気になるなら会いに行けばいいじゃないですか』


会いたいけどどこにいるか分かんないよ…


『あなたの影探りは何のためにあるんですか?』


なるほどすっかり忘れてた、俺影探り使えるじゃん


『やれやれ…』


「今度探してみよ」


今日は大人しく昼寝でもするか…


「邪魔するぞ」


いきなりレディッサ先生が部屋に入ってくる


「いやせめてノックはしましょうよ」


「オレとお前の仲だろ?」


「親しき者にも礼儀ありですからね?」


「そんなもん知らん」


「ええ…」


プライバシーのプの字もねぇや!


「俺今から昼寝したいんですけど…」


「…なるほど、分かった」


なんだ素直に聞いてくれるじゃないか


「なら添い寝してやるよ」


「…え」




「すや…」


「…寝れねぇ…」


普段の人権のない添い寝地獄で慣れたかと思ったけどレディッサ先生は初めてだから寝れないよ


「というかなんで俺より先に寝てんだ」


「…え…りー…」


「…エリーさんの夢でも見てるのかな?」


レディッサ先生から涙がこぼれる


「…最近…レディッサ先生元気無いもんね…」


レディッサ先生の頭を起こさないよう撫でる


「ん…リュート…」


「わっと…」


抱き寄せられた


「…大丈夫ですよ…心配しなくても俺は何処にも行きませんから」


「…すー…すー…」


少し表情が和らぐ


「…きっと今日来たのも…不安だったからなのかな」


『…悩んでるご様子でしたからね』


「安心させる為にも頑張らなくちゃな」


それまでは少しでもそばに居てあげよう




「ふぅ…久しぶりに快眠できた気がするな」


「目覚めました?」


「あれ寝てなかったのか?」


「ええ、流石にレディッサ先生の様な綺麗な女性と添い寝は難易度高すぎましたよ」


「…ふーん…照れたのか?」


ニヤニヤとこちらを見る


『いつものレディッサさんに戻った様ですね』


そうだね、ちょっとムカつくけど…


「照れてません」


「ホントかぁ…?」


「本当です…!」


「ぷぷぷ、顔赤いぞ」


「はっ!またか!」


「冗談だ」


「なっ!ハメましたね!」


「あはは…!騙されてやんの!」


「ちくしょう…」


ゲラゲラと馬鹿にして笑い転げてるのがムカつく…いつか仕返ししてやるからな…!


「いひひひ…はぁ…ありがとうなリュート」


「え?」


起きやがるレディッサ先生


「じゃ、オレ戻るわ…今度研究室に遊びに来いよ」


「え、あ…はい」


そう言い残しレディッサ先生は去っていった


「行っちゃった…」


でも笑顔になってくれて良かった…のかな?




そこから更に別の日


「…今日は魔道具研究部か…最近女性に会うと胃が痛くなってくる…」


『重症の様ですね…お疲れ様です』


「はぁ…」


「何部室の前でため息ついてんのよ」


「ひい…!なんだ…ミナか…」


「何よその反応、ムカつくわね」


げしげしと蹴ってくる


「ごめん…!悪かったから蹴らないで」


「ふん、ほらさっさと入るわよ」


「わ、分かった」


部室に入ると既にシノンが魔道具を作っていた


「やぁミナ、それとさっきぶりだねリュート君」


「ん」


「や、やぁ」


ミナも自分の席に着くと魔道具を作り出す


「俺も作るか…」


身構えるから胃が痛くなるんだ、普通通りに過ごせば大丈夫なはず。この前までそうだったんだからな


「…」


結構この静かな時間が好きなんだよな〜魔道具のカチャカチャとした音がたまに聞こえるこの午後の一時が


「ふぅ…出来た」


ミナが汗を拭き取り笑みを浮かべる


「…これ、あげるわ」


出来たものを俺に渡す


「これって…濾過器だっけ?」


「そうよ、機能はちゃんと確かめたから安心しなさい」


「本当にいいの?これって革新的な奴だと思うけど…」


「う、うるさいわね…つべこべ言わずに貰っておけばいいのよ!バカ!」


ペシペシと肩を叩いてくる、力は入ってないらしく痛くはない


「わ、分かった、ありがとうミナ」


「ふん、別にあんたの為に作った訳じゃないから。余ったから気分であげただけよ」


それは流石に無理があるのではなかろうか…第一これが初めての完成品でしょうに


「は、はは…そうか」


その時、部室のドアが叩かれる


「失礼しまーす、リュートさんいらっしゃいますか〜」


1人の女子生徒が入ってくる


「俺ですけど…」


「これ、生徒会長からリュートさん宛に今度魔法掲示板で掲載するものを届けに来ました〜」


「魔法掲示板…?」


見てみると紙に学園のニュースやら学園生活について書かれていた


「へぇ〜…というか文字が浮き出てる…」


まるで映画のように文字が空中でゆらゆらと浮いてる


「でもなんで姉上がこれを…」


「裏面を見たら分かると仰ってましたよ〜」


「裏面…?」


言われた通り見てみると…俺についての事がデカデカと書かれていた、神父の件、邪神での件、普段の俺の生活までびっしりと…もちろん書いたのは姉上だろう


「…もうやだ…この姉…」


俺の事広めたの姉上だったのかよ…!


「あ、あの…実は私もファンでして…握手してください!」


女子生徒が手を差し伸べてくる


「あ、ああ握手ぐらいなら…」


少し胃を痛めながらも握手をする


「ありがとうございます!来世まで洗いません!」


「いや洗ってね…」


「それじゃ…!ありがとうございました〜!」


女子生徒は去っていった


「はぁ…これは姉上に問いたださなきゃ」


そう思って後ろを振り返ろうとした瞬間


「…ねぇ…今あの人と握手したよね…」


「ひっ…」


数々の死線をくぐり抜けてきた俺でも震えるぐらいの殺気が後ろから漂ってくる


「…嬉しそうにしてたよね…?どうして…?」


シノンが近づいてくるのがわかる


「う、嬉しそうになんかしてないよ…!全然!」


「嘘よ…アイツの手握ってニヤニヤしてたじゃない」


あれぇ?ミナさんも目のハイライト消えてるー…


「ほ、ほんとだって…」


2人が俺のそばまで来てがっしりと腕を掴まれる、さっきのペシペシとか可愛いもんじゃなくがっしりとだ


「…僕以外に…笑顔なんて見せないでよ…」


「…私以外に…その手で触れないでよ…」


2人の指が腕に食い込む


「ふ、2人ともこんな感じだったっけ…?」


もうホラーだよこれ


「…でも…許してあげる」


2人は手を離す、きっと腕はアザになってるだろう


「君は…勇者だからね…仕方ないから」


「そうね…しょうがないから我慢してあげる」


「…は、はは…」


もう笑うしかねぇや…あははは…


『リュート様が壊れかけている…』


「…だけど、旅で浮気なんてしたら…」


耳元で依然ハイライトが消えた2人が囁く


「「許さないから」」


「…はい」


そもそも君たちとは恋人関係ですら無いようなとは言えず壊れた人形のように首を振りまくった










旅立編になるとしばらくは勇者パーティー4人以外のキャラは出てこない予定なのでしばらくは日常回が続きそうです…


それではここまで読んで頂きありがとうございます!面白ければ応援・レビューして頂けると嬉しいです!

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