第百十一話

「アイツが…邪神…なのか?」


「神様なんて本当に居たとはね…よりにもよって邪神とは…」


「…くはは!人間達よ、俺の前に跪け!俺様は神だ!お前達の主だぞ!くはははっ!!」


「ふざけるなよ…!クソ野郎…!誰がお前を主と認めるか…!」


「おいリュート…落ち着けって、アイツの思う壷だ」


「くっ…!アイツだけは絶対に許さない!」


「元気がいいな勇者よ、それとも元魔王バーンと呼んだ方がいいか?」


「元魔王?」


「…っ!」


ヤバい、俺が前世では魔王という事がみんなにバレてしまう…!


「おや、知らないみたいだな?隠していたのか?」


「…くっ」


「そりゃそうだよなぁ?皆から期待され、尊敬される勇者の前世が人々を無惨に殺してきた魔王だなんて言えないよなぁ!」


「前世が魔王ってどういう事だよ…リュート?」


ルシュが否定してくれと言わんばかりにこちらを見る


「言えばいいじゃないか勇者よ、俺は決して許されない罪を犯した魔王なんですってな!くはは…!」


「…俺は…」


『リュート様…』


「俺の前世は…魔王だ…200年前…人界を攻めた…人類の敵だ…」


「…くはははは!聞いたか人間どもよ!これがお前達の信じていた勇者の真実だ!」


「そんな…だから…邪神の事も知ってたのか?そんなの…」


「リュート…君…」


「嘘…勇者様はあの魔王だったの…?」


「ああ…あんまりだ…女神エルシュラ様…」


「もうおしまいよ…魔王だったなんて…」


街の人々が俺を怯えた目で見つめてくる


「…人なんてこういうものさ…なぁ勇者、勝手に期待してちやほやして…事実を知ったら手のひらを返してこれだ…!憎いだろ!恨めしいだろ!」


「…」


「俺に洗脳されてしまえばそんな苦しみから開放される!調子のいい人間共を殺せるんだ!」


「リュート…」


「…洗脳されれば…苦しみから開放されるのか?」


「…ああっ!さぁ!身を委ねろ!」


『リュート様ダメです…飲まれては…!』


大丈夫だよステさん


「…断る」


「何…?」


「何が苦しみから開放されるだ、苦しみだらけじゃないかよ。嘘つき邪神め」


「なんだと…?」


「確かに俺は前世は魔王だ、洗脳されてたとは言え許されない事をしてきた…だがな」


もうあの時のように弱くなんてない


「今は勇者リュート・レギオスだ!例え人々から恐れられても!1人になっても!俺は!勇者である限りお前を必ずぶっ倒してやるっ!覚えとけ!クソ野郎!」


そうだ、俺はもう逃げない…償う為に、守る為に戦い抜いてやる…それが孤独であろうと


『バーン様…ご立派になられましたね』


「本当癇に障る奴だな…お前は…!たった1人で何ができる!あの時の様に無様に負けて終わ…」


「…リュートは1人なんかじゃねぇよ!」


「ルシュ…」


「俺は勇者リュートの最初の仲間にして1番の親友のルシュ・エルシュラだ!前世が魔王なんて知った事じゃねぇ!リュートはリュートだ!」


大剣を邪神ベルに向け宣言する


「…俺とリュート舐めるなよ…!そんなちっぽけな事実で仲は引き避けねぇよ」


「ルシュ…ありがとう…」


本当にいい親友だ…


「僕も先生として教え子を信じないで先生を名乗れないからね…どんな事でもリュート君の味方だよ」


「ロディ先生…」


「そうよ…!勇者様は勇者様よ!」


「ああ…!俺たちの希望だ!」


「前世が魔王なんて関係ない!私達は勇者様を信じるわ!」


「「「勇者様!勇者様!」」」


人々が皆俺を応援してくれている


「リュート君!頑張って!」


「あんな奴ぶっ飛ばせばいいのよ!」


「シノン…ミナまで…」


「何なんだ…お前達は…自分達の敵を信じるのか?」


「今は敵なんかじゃない、リュートは人々の希望だ」


「…愚かだ、だから人間は嫌いなんだよ…!」


「安心しろ、人間もお前の事が嫌いだ。覚悟しろよ邪神…!」


「クソが…やれ、キメラ」


「スイイイイ…!」


邪神はキメラに指示を出すとその場から去っていく


「待て…!くそっ…」


キメラが仕掛けてくる…!まずはコイツを倒さないと


「いけよ、リュート」


「な、ルシュ…」


「ここは俺達で食い止めるからリュートはアイツをぶん殴って来てくれ」


「…そんな、キメラは他と比べ物にならないほど強いんだ…毒も持ってる、回復なしじゃ無茶だ」


「おいおい俺を甘く見るなよ〜?あんな奴余裕だって、ほら行ってこい」


背中を押される


「…分かった、ルシュを信じるよ」


「おう!」


「無茶だけはしないようにね?」


「はい!ロディ先生」


「あ、リュート君!武器の説明!紙に書いといたから見てね!」


シノンが人混みから紙を投げる


「おっと、サンキュー!シノン!」


待ってろよ邪神ベル…次こそは負けない!


「さて…どう倒すか…」


「キイイイイ…」


「リュートにあんだけ言ったんだ、負けることは出来ない!」


「そうだね、行くよ、ルシュ君」


「おっす!」


「スイイイイ!」




ミラノワ近くの森へと逃げた邪神に追いついた


「追いついたぜ邪神ベル」


「はぁ…しつこいぞ?勇者」


「お前には言われたくないね…!あん時の借りをやっと返せる」


「くはは…やれるものならやってみな!」


「ああ…!やってやるよ!」





それぞれの戦いの火蓋が切って落とされた

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