第九十一話

「皆席につきなさい」


俺達は各々席につく、まさか特級クラスの担任が学園長だなんて…特別扱いの極みだな


「改めて…この特級クラスの担任のロミリア・ランゼルクよ、気軽にロミリア先生とでも呼ぶといいわ」


「ロミリア先生、何故学園長自らが私達にお教えを?」


エリスが手を挙げロミリア先生に聞く


「それは単純よ、他の教員じゃ貴方達を教えるなんて無理だもの。特に…じー」


俺の方をジト目でひたすら見てくる、俺は静かに目を逸らした


「…なるほど、分かりましたわ。ありがとうございます」


「まぁ私も何処かの誰かさんに負けたから教える立場としてあれだけど…でも貴方達をより強く出来る自信はあるわ」


だ、誰だろうなー…学園長に勝つなんて凄い人もいたものだ


「…勇者の仲間としてもっと強くならなくちゃいけないからな…!」


「やる気があるのはいい事ね、それじゃあ…早速始めましょうか」


「…な、何をですか?」


シノンが恐る恐る聞く


「…実力テストよ」





「ふむふむ、皆着替えたわね」


俺達は動きやすい服に着替え、入学試験の時の実技試験場へと来ていた。ここで魔法の訓練をするのか


「先生!実力テストとは何をするのでしょう!」


ホットが熱気を放ちながら質問する


「簡単よ、あの的に自分の魔法をぶつければいいの」


ロミリア先生が指さす方向には人数分の巨大な金属の的があった


「でもそれって入学試験の時にやったよ〜?」


「ふっ…あんなの子供のごっこ遊びに作られたクソみたいな的よ」


「…えぇ?!そうなんですか?!」


カナリーが驚く


「この的は少し特別なの、耐久性はもちろん魔法を90%カット出来る…実質的に魔法じゃ壊せない的なのよ」


「それを使ってテストするんですか?」


「ええ、そうね…バラバラに壊せとまでは言わないから、傷をつけたら合格にしましょうか」


あんな金属の塊に傷を?魔法で?無属性魔法で何とかいけるか?


「そうそう、リュート君は無属性魔法禁止ね」


「ええ…そんなー」


「ふふ、貴方は無属性魔法に頼りすぎね。ちゃんと自分の本来の適性でやりなさい」


「…はい…」


光魔法でいけるのか…?ああ泣きそう、無理じゃん絶対…無理無理〜!


「…あはっ…みんなの絶望した顔…ゾクゾクしちゃう…」


へ、変態だ…


「…やってやるぜ!俺は!」


「ルシュ…」


「こんな物に傷も付けられないなら勇者の仲間は名乗れない!」


「…!」


そうだ、俺は何を弱気になってんだ。勇者である俺が諦めていてはダメだろう!忘れるな、俺ならやれるのだ。やらなければならないんだ!


「そうだね、やる前から諦めちゃダメだよな!やるか!ルシュ!」


「ああ!やるぞリュート!どっちが先に傷をつけるか勝負だ!」


「分かった、まぁ勝つのは俺だけどな!」


「いいや俺だな!」


「ルシュ君とリュート君は気合い十分だな!俺も負けられないな!!!うぉぉおおおおお!!!」


「ぼ、僕もやるぞー!とりゃー!」


「…はぁ、それじゃあこちらも頑張りましょうか」


「そうだね!負けないよー!!!おりゃああ!!」


「…!!」


「…やる気が凄いですわね…はぁあっ!!」


「なるほど…やっぱりリュート君とルシュ君が要のようね、ふふ、期待してるわよ勇者様とそのお仲間たち…」




「ぜぇ…ぜぇ…全然…傷が…つかないぞ…!!」


さっきまでの熱気は消え去り、倒れる寸前のホット


「はぁ…はぁ…僕ならやれるんだ…!」


意外に平気そうなシノン


「こひゅー…こひゅー…私もうダメみたい…ぐふ…」


カナリーが力尽きた


「…」


ユーナは既に死んだように倒れている


「…まだ…まだ…諦めませんわ…くっ…」


エリスも限界が近いようだ


「はぁあああ!!!!炎魔法:爆炎龍破!!」


轟音が鳴り響く、だが的には傷はつかない


「くそっ!まだまだ!!」


「聖剣!」


聖剣で的を切りつける、が傷1つつかない


「これ本当に傷なんてつくのか…?」


既に俺達がこの的に挑んで5時間は経っていた、だが誰一人として傷をつけた者はいない


「…カナリーさんは5時間ピッタリね…メモメモ」


「はぁ…はぁ…もうダメです…わ…」


やがてエリスも力尽きた


「…うおお…やれば…出来るはずだ…俺…ぐふ…」


ホットも同時に倒れたか


「…エリスさん、ホット君も5時間ちょっとね」


「はああああ!!!」


「クソッタレぇぇえ!!」


「僕ならやれる僕ならやれる!」


「…後はこの3人か」




更に3時間後


「…僕…なら…やれ…る…うっ…」


とうとうシノンも力尽きた


「シノン君は8時間、やるわね」


「…はぁ…はぁ…俺は!ここで諦める訳にはいかねぇんだよ!はああああ!」


残るは俺とルシュだけ、傷はまだついていない


「くっ…もう何時間これをしてるんだ…頭が狂ってしまいそうだ」


聖剣で切っても切っても傷はつかない、更に聖剣を維持するだけで膨大な魔力を消費し続けているのだ


「…あと何回切れば傷がつくんだ!はあ!」


「…はぁ…はぁ…くそ…俺は…諦め…ない…!うっ」


そしてルシュが倒れた


「…ルシュ…!」


「ルシュ君9時間、流石王族と言ったところかしら」


「はぁああ!!」




ガキンッと何千は聞いた音が訓練場に響く


「…はぁ…はぁ…呑気に寝てていいのかよ…ルシュ…俺が勝っちまうぞ…!とりゃあ!!」


「…あの魔法は膨大な魔力を使うはず…それをここまで維持できるのは貴方ぐらいなものね」


『そろそろ魔力の底が見えてきました』


「くそっ!はぁああ…!」


ありったけの魔力を聖剣に込める


「…あら、そろそろ終わりのようね」


「くっ…うう…」


ここまでやってきて気づいた事がある、今までの経験と知識があったからこそ気づけたものが…


「…迅鈴刃流の時もそうだけど俺は無駄が多すぎる」


魔力を使って魔法を放つ時、どうしても無駄が出来てしまう。魔力瞬進の時とは違う、別の方法で無駄を無くさねばいけない


「魔力瞬進があえて無意識的に使って無駄を無くすのなら…魔法を使う際の無駄は…集中するしかない!」


集中力なら誰にも負けない自信がある。魔力を感じ取った時も、迅鈴刃流を見切った時も…今回もやれる


「…すうう…はぁぁ…」


一撃を鋭く、一点に


「はぁっ…!」


パキンッ!


聖剣が折れた


「あっ…やっぱ無理だった…ぐふっ…」


俺の意識は途絶えた


「…リュート君、12時間。ふぅ…もう夜じゃない」


ほんと、想像以上ね…これは1年間楽しみだわ


「…護衛の人、そこに居るのでしょう?この子達よろしくお願いするわ」


「失礼します」


入ってきたのはそれぞれの護衛達、リュート達の護衛はアリアだった


「これは…かなりハードな訓練ですね」


「あら、ただの実力を測るためのテストよ」


「…この的、反魔石使われてるんじゃ無いですか?」


反魔石とは、エルフが住む聖霊の森の洞窟に形成される特殊な魔石である


通常の魔石は魔力を放出する特性をもっているが、反魔石は逆の魔力を吸収し自らの強度を高める


「…よく知ってるわね、エルフのお知り合いでもいるのかしら」


「…ええまぁ、そうですね」


アリアは墓穴を掘って少し焦っていた


「そうね、これは反魔石を使った的よ。魔法を撃てば撃つほどその強度は増す、そういう作りよ」


「…はなから傷を付けさせるつもりは無かった…という事ですか」


「まぁ、そういう事になるわね…傷を付けるには反魔石の吸収力を上回る必要があるもの」


ロミリアはクスリと妖艶な笑みを浮かべる


「…それじゃあ何のために…」


「今のこの子達の限界を知るためよ、魔力量ならステータスを見れば分かるけど…現実はそう甘くは無いものよ」


「確かに魔法を放つ時の無駄もありますからね」


「そういう事、正確に魔法の実力を調べるならこれが1番手っ取り早いわ」


こんなに時間がかかるのは予想外だったけどねと付け加えるロミリア


「流石リュート様…うふふ」


アリアはリュートを抱きながらヨダレを垂らす


「…リュート君も苦労してそうね」


護衛達が子供達を連れて去っていく


「さて、後は強度を確かめましょうか」


反魔石の強度をメモしていく


「…ホット君とユーナさんの強度はまぁまぁね、ユーナさんは補助メインだから仕方ないとしてホット君は魔法の無駄が多いわね」


反魔石のもう1つの特徴としては吸収する時の魔力の無駄があればある程吸収する際の量が減るという事


洗礼された魔法であればある程より硬く強固になる


「…倒れた時間と合わせると、まだまだね。次は…エリスさんとカナリーさん…ふむふむ中々の硬さね」


カナリーさんは人並み上ぐらいかしらね、エリスさんは無駄はほぼ無いけれど魔力が少なく威力が無いわね


「…ルシュ君は…へぇ…案外彼は脳筋より技術派なのかもね」


かなりの強度、倒れた時間も申し分ない…


「これは次の段階に行けそうね」


最後はリュート君…さて、私を驚かせてくれるかしら


「ふむふむ…ん?…ふふ…ふふふふ…あはははっ!そう…やっぱり貴方は良い意味で期待を裏切るわね!」


そこにはうっすらと切り傷のようなものが的に入っていた


「勇者リュート・レギオス君…あはっ…どうやって貴方を強くするか…今から楽しみだわ…!」



こうしてリュートの学園生活一日目が終わった


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