第八十八話

あの後、学園長は事情を聞きつけた職員たちに連れていかれた。俺はそのまま実技の試験を受け、学園を後にして今は城へ戻っている最中である


「はぁ…今日は散々な目にあった…」


「大変だったなリュート、お疲れ様」


「…今度は学園長ですの…未来の妻団に報告しなければ…」


エリスは1人ぶつぶつと独り言を言っていた


「でも…多分俺は不合格だろうな…学園長まであんなにしちゃったし」


「リュート…まぁ、どうせ1年もしたら旅に出なきゃならないしいいじゃねえか!そう落ち込むなよ」


「そうだね…」


勇者の試練を受ける為に、各種族が居る国へと旅をしなければならない。それが予定では1年後に迫ってる


「俺は勇者の試練について調べて過ごすよ」


「任せたぜ!リーダーっ!」


「リーダーって…別に勇者だけどリーダーじゃなくてもいいんだよ?それこそルシュでも」


「いいや、やっぱりリーダーはリュートじゃないとな。俺や他の奴には務まらないぜ」


全く、俺を買いかぶりすぎなんだよなぁ…ルシュは


「…分かった、とりあえずは俺がやるよ」


「うんうん、いやー1年後が楽しみだ…!」


「リュートとしばらく会えなくなりますのね…」


「まぁね、でもそこから忙しくなるな…魔族の洗脳も解かなきゃならないし、俺が死なない為にも」


「…まさか魔族が操られていたなんてな」


俺は国王とその関係者には、邪神について話していた

流石にあの教会の件で隠し通すのは無理だったよ


まぁ、前世が魔王というのは伏せたけど…まだ俺にはそれを言う覚悟が出来ていなかった


「ああ、アイツが全ての黒幕さ…いきなり魔族が襲ってきたのも魔王を操っていたのも全部」


「だけど魔王軍を丸ごと洗脳を解くなんて出来るのか?」


「今は無理だね…でもやって見せる、まぁ他にも洗脳を解くまでの時間稼ぎもいるし、問題が山ずみだ」


「そうだな、だけど…俺はどんな時でもお前について行くから。背中は任せろよ」


「ルシュ…ああ、任せた」


ほぼ恒例と化した拳と拳を俺たちは交わした


「話を聞く限り学園長はまだ…いえ…やはり報告だけは…うーん難しいですわね…」


エリスはまだ独り言を言っていた




学園長室でロミリアは1人、泣いていた


「…負けた…私負けちゃった」


数百年の時を生き、これまで色々な戦いをしてきた。

だがその全てで私は勝利を収めてきたのだ。それがあの魔女の教え子如きに負けてしまった。初めての屈辱


「…やっぱりレディッサには勝てないの?」


初めてレディッサを見たのは、まだ私が幼い頃だった

私は普通の家庭で生まれ、普通に過ごし、普通の人間だった


いや…正確には適性以外は普通だ、私は3つの適性を授かったのだ、火・水・雷の3つを


周りからは天才や神童と呼ばれ、もてはやされた。私も自分が天才だと信じていた。彼女に出会うまでは


ある時、騎士の家から1人の女の子が出てくるのが見えたのだ。私と同じ歳ぐらいで髪は短く、話してみると口調は荒くまるで男の子のようだった


最初は同い年の友達として話しかけていた、しかし私は知ってしまった。彼女が5つの適性を持っていた事を、私よりも天才だという事を…


悔しかった、私よりも天才で…常に上を行くレディッサにいつの間にか嫉妬していた。だから私は魔法に人生を捧げた、レディッサに負けない為に。私が天才であると証明する為に…


だがいくら魔法を研究しようと、完成する頃には既にレディッサは次の段階へ進んでいた。無属性魔法も複合魔法も全部…全部…!


数百年もの間、私はレディッサに勝てなかったんだ


「…レディッサ先生より弱い…か」


レディッサの教え子はそう言った


「…そうね…私は弱い…」


あんなに無様に泣いたていたのが本来の私、ちっぽけでどうしようもないぐらい弱かった


「…負けてわかったわ、私は天才なんかじゃない…ただ意地を張ってただけ…レディッサの横に立ちたい為に」


でも数百年経ってようやく気づいた、私はレディッサには勝てないという事を


「…私、ダメダメね」


…でも今度久しぶりに会ってみようかしら…レディッサに、この気持ちを伝えましょう


「逃げてるだけじゃロミリアの名が廃るわ」


また友達の頃の関係に戻れるかしら?笑いあって、魔法の事を語り合っていたあの時のように…


「ふふ、こんな気持ち久しぶりね」


気まぐれで学園を設立したけど、案外作ってみて良かったかもしれない


「…貴女の教え子に出会い、私に気づかせてくれたからね」


扉を叩く音が聞こえる


「失礼します、リュート・レギオスの成績表をお持ち致しました」


「ありがとう、下がっていいわ」


「はい」


職員が部屋を去る


「ふぅ…実技は満点、筆記は…10点…ふふ。本当、面白い子ね」


あの私に使った魔法…他人の魔力の流れをコントロールするなんて、レディッサですら無理な芸当よ


「…勇者…ね」


確か200年前は女性だったはず、その頃はレディッサに追いつく為。周りなんか気にしてなかったけど


「まぁ…なんにせよ、あの子にはもう一度会わなきゃいけないわね」


気づかせてくれたお礼と謝罪をしなきゃいけない


「だから、これはお詫びって事にしとくわ」


書類にスタンプを押す


「…今度また…あれやってもらおうかしら…」


ちょ、ちょっとだけやみつきになってしまった






入学試験


リュート・レギオス


合格

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